退職代行モームリ事件で弁護士2人書類送検、非弁提携の全容
はじめに
退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの代表らが2026年2月3日に逮捕された事件で、新たな展開がありました。2月5日、警視庁保安課は提携先の弁護士2人を含む計3人と弁護士法人2法人を、弁護士法違反(非弁提携)容疑で書類送検しました。
この事件は、急成長する退職代行業界の構造的な問題を浮き彫りにしています。弁護士資格を持たない業者が、法律事務に関わる依頼者を弁護士に有償で紹介する行為がなぜ違法なのか。本記事では、事件の全容と退職代行サービスを利用する際の注意点について解説します。
事件の経緯と書類送検の詳細
運営会社代表の逮捕から書類送検へ
事件の発端は2025年夏ごろ、東京弁護士会から警視庁への相談でした。同年10月にアルバトロス本社などへの家宅捜索が行われ、2026年2月3日にアルバトロス社長の谷本慎二容疑者(37)と妻で従業員の志織容疑者(31)が弁護士法違反容疑で逮捕されました。
逮捕容疑は、2024年7月から10月にかけて、弁護士資格がないにもかかわらず、報酬を得る目的で公務員や会社員の男女6人を弁護士に紹介した疑いです。
弁護士側も書類送検
2月5日には、紹介を受けた側の弁護士らも書類送検されました。書類送検されたのは以下の3人と2法人です。
- 弁護士法人「オーシャン」(東京都港区)代表の梶田潤弁護士(45)
- 弁護士法人「みやび」(同)代表の佐藤秀樹弁護士(48)
- みやびの男性事務員(43)
- 弁護士法人オーシャン
- 弁護士法人みやび
オーシャンは2023年2月から2025年3月にかけて約110人の紹介を受け、約180万円をアルバトロス側に支払っていました。みやびは2024年5月から2025年2月に約120人の紹介を受け、約190万円を支払ったとされています。
紹介料の名目偽装
捜査の過程で、紹介料の名目を偽装する工作が行われていたことが判明しました。梶田弁護士は2022年7月、アルバトロス側に対して「弁護士法上、紹介料の支払いは禁止されている。別の名目であれば渡すことはできる」とするメールを送信していたとされます。
この提案を受け、両者間では「弁護士報酬の3割を『助金』として支払う」との覚書が交わされました。退職希望者から1人あたり原則5万5千円を受領し、そのうち約3割にあたる1万6500円を「ウェブ広告の業務委託費」や「労働組合の賛助金」といった名目でアルバトロス側に送金していたのです。
弁護士法が禁じる「非弁提携」とは
弁護士法72条の基本
弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁じています。退職代行サービスの場合、単に「退職の意思を会社に伝える」だけであれば違法ではありません。しかし、退職日の調整、有給休暇の取得交渉、未払い賃金の請求、退職金の交渉といった法律的な事項について、依頼者に代わって企業と交渉する行為は法律事務に該当します。
このため、退職代行業者が対応しきれない案件を弁護士に「回す」必要が生じます。ここに今回の事件の構造的な問題があります。
なぜ弁護士への紹介が違法なのか
弁護士法27条は、弁護士が非弁護士から事件の紹介を受けることを禁止しています。また、弁護士法72条は非弁護士が報酬を得る目的で法律事務の周旋(仲介・あっせん)を行うことも禁じています。
今回のケースでは、モームリが退職希望者を集め、法律的な交渉が必要な案件を提携弁護士に紹介し、その対価として紹介料を受け取っていました。これは弁護士法が禁じる「非弁提携」に該当します。
弁護士側も、非弁護士からの事件紹介を受けた時点で違法となります。紹介料を「広告費」や「賛助金」に偽装しても、実質的に事件紹介の対価であれば違法性は免れません。
退職代行業界の構造的問題
急成長する市場と法的グレーゾーン
退職代行サービスは近年急成長を遂げています。東京商工リサーチのデータによると、営業品目に「退職代行」を掲げる企業は50社あり、そのすべてが設立10年以下です。最多は2025年設立の27社で、半数以上を占めています。
アルバトロスは2022年2月の創業ながら、2025年1月期には売上高約3億3000万円を計上していました。利用者は20代が60.8%、30代が26.9%と若年層が中心ですが、50代以上でも約9%が利用しており、幅広い年代に広がっています。
「伝言」と「交渉」の境界線
退職代行業者にとって最大のジレンマは、「伝言」の範囲でしかサービスを提供できない点です。退職の意思を伝えるだけでは、依頼者が本当に必要としている問題(未払い残業代、パワハラへの対応、有給消化の交渉など)を解決できません。
専門家からは、モームリの事件は「起こるべくして起こった」との指摘もあります。退職代行業者が法律事務に手を出さざるを得ない構造的な問題が、今回の違法な弁護士紹介につながったと分析されています。
企業側の対応状況
退職代行業者から連絡を受けた経験のある企業は全体の7.2%、大企業では15.7%にのぼるとの調査結果があります。退職代行サービスは社会的に一定の存在感を示しており、今回の事件を受けて業界全体の適法性が改めて問われることになります。
注意点・今後の展望
退職代行サービス利用時の注意点
退職代行の利用を検討する際は、以下の点に注意が必要です。
まず、サービス提供者の種類を確認しましょう。退職代行サービスには「一般業者」「労働組合」「弁護士」の3種類があります。一般業者は退職の意思伝達のみ可能で、交渉はできません。労働組合は団体交渉権に基づき一定の交渉が可能です。弁護士はすべての法律事務を代理できます。
未払い賃金の請求やパワハラへの対応など法律的な交渉が必要な場合は、最初から弁護士に直接依頼することが確実です。安価な退職代行業者を利用した結果、追加で弁護士費用が発生するケースも報告されています。
業界への影響と規制の動き
モームリ事件を受け、退職代行業界全体に対する監視が強化される可能性があります。東京弁護士会は以前から非弁行為への警鐘を鳴らしており、今後は他の退職代行業者についても同様の調査が行われることが予想されます。
一方で、退職代行サービス自体は、パワハラや長時間労働で自ら退職を申し出られない労働者にとって必要なサービスです。違法な非弁提携を排除しつつ、適法な退職支援の枠組みをどう整備するかが今後の課題となります。
まとめ
退職代行「モームリ」事件は、単なる一企業の違法行為ではなく、急成長する退職代行業界が抱える構造的な問題を示しています。弁護士資格のない業者が法律事務の領域に踏み込まざるを得ない現状と、それを利用した違法な紹介料ビジネスの実態が明らかになりました。
退職代行サービスの利用を検討する方は、サービス提供者の資格と対応可能な範囲を十分に確認することが重要です。法律的な交渉が必要な場合は、弁護士や労働組合が運営するサービスを選択することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
参考資料:
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