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by nicoxz

成田空港鉄道の複線化計画、京成・JRの輸送力強化へ

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はじめに

成田空港と東京を結ぶ鉄道アクセスの改善が、いま大きな転換点を迎えています。空港付近に残る単線区間が輸送力の制約となっており、国土交通省や京成電鉄などが複線化に向けた検討を本格化させています。

背景には、2029年に予定される成田空港の大規模拡張があります。新滑走路の供用開始により年間発着回数は現在の約1.5倍となる50万回に拡大する見込みです。訪日外国人旅行者の増加も続くなか、空の玄関口としての機能を十分に発揮するには、鉄道インフラの抜本的な強化が欠かせません。

この記事では、成田空港アクセス鉄道の現状と課題、複線化計画の詳細、そして今後の展望について詳しく解説します。

単線区間が生むボトルネックの実態

空港手前で列車が待たされる現実

成田空港へのアクセス鉄道には、空港付近に単線区間が存在します。京成スカイアクセス線では成田湯川駅から空港第2ビル駅までの約9.7キロメートル、JR成田線では成田駅から成田空港駅までの区間が単線となっています。

単線区間では上下線の列車が同じ線路を使用するため、途中の信号所で列車交換(すれ違い)を行う必要があります。京成スカイアクセス線では根古屋信号所での列車交換により、一部のスカイライナーで所要時間が増大するという問題が生じています。

さらに注目すべきは、空港第2ビル駅から成田空港駅までの区間です。この区間は京成本線との重複区間であるにもかかわらず単線のままとなっており、輸送力増強の大きな障壁となっています。

高砂駅周辺の構造的な問題

単線区間だけでなく、都心側にもボトルネックが存在します。京成高砂駅では京成本線、金町線、成田スカイアクセス線・北総線が乗り入れており、さらに高砂車庫への出入庫も加わることで、輸送上の制約が生じています。

この複雑な運行体系により、ダイヤ編成に制限がかかり、列車の増発が困難な状況が続いています。空港アクセスの利便性向上には、この高砂駅付近の改良も重要な課題となっています。

増発が難しい現状

現在、京成スカイライナーは日暮里駅から成田空港まで最短36分で結んでいますが、単線区間の制約により運行本数には限界があります。訪日客の増加や空港の機能強化に対応するためには、抜本的な輸送力の増強が求められています。

2028年度には押上線直通の新型有料特急が導入される予定ですが、この時点で成田スカイアクセス線のキャパシティが限界に達するとの見方もあります。

京成電鉄が示す8000億円規模の投資計画

中期経営計画で明らかになった対応策

京成電鉄は2025年5月に公表した中期経営計画(2025〜2027年度)において、成田空港の機能強化への対応策を明らかにしました。需要の増加に対応するため、単線区間の複線化をはじめとする大規模な設備投資を計画しています。

投資規模は2040年代までの長期で約8000億円に上ると見込まれています。この巨額の投資は、空港アクセスの抜本的な改善に向けた京成電鉄の強い意欲を示しています。

具体的な投資内訳

京成電鉄が示した主な投資項目は以下のとおりです。

  • 成田空港周辺の単線区間の複線化: 約2000億円
  • 新旅客ターミナルに伴う駅整備: 約1000億円
  • 次世代スカイライナー車両の導入: 約700億円
  • 宗吾車両基地の拡充工事: 約470億円
  • 押上〜成田空港間の新型有料特急導入: 約400億円
  • その他の施策: 約3500億円

特に注目されるのは、複線化への2000億円という投資です。これにより単線区間を解消し、列車の増発を可能にすることで、空港アクセスの利便性が大幅に向上することが期待されます。

新型車両と長編成化の計画

京成電鉄は輸送力増強策として、車両面での対応も進めています。2028年度には押上〜成田空港を結ぶ新型有料特急の導入を予定しており、現在のスカイライナーとは別系統で運行する計画です。

また、現在8両編成のスカイライナーについて、9両以上への長編成化も検討されています。車両の増結により、1列車あたりの輸送力を高める狙いがあります。次世代スカイライナーは段階的に増加する空港輸送需要への対応策として位置づけられています。

国と鉄道各社の連携による検討体制

有識者検討会の設置と議論の進展

国土交通省は成田空港の鉄道アクセス改善に向けた有識者検討会を設置し、2024年9月に初会合を開催しました。2回目の会合は2025年3月に行われ、複線化の方向性や費用負担のあり方などについて議論が進められています。

検討会には国交省や成田国際空港株式会社(NAA)のほか、ANA、JAL、JR東日本、京成電鉄など関係各社が参加しています。新滑走路の供用開始まで4年を切っていることから、検討のスピードアップが求められています。

複線化の費用試算

運輸総合研究所の試算によると、複線化にかかる費用は以下のように見積もられています。

  • 京成のみ複線化する場合: 700億円〜1100億円
  • 京成・JRとも複線化する場合: 900億円〜1400億円

なお、JR東日本と京成電鉄は線路幅(軌間)が異なるため、両社の線路を共用することはできません。そのため、両社とも複線化する場合は、それぞれ別に線路を整備する必要があります。

JR東日本と京成電鉄の温度差

複線化に向けた両社の姿勢には温度差があるとの指摘もあります。京成電鉄が中期経営計画で具体的な投資計画を示したのに対し、JR東日本は慎重な姿勢を見せているとの報道もあります。

今後の検討では、どちらの会社が複線化を実施するのか、あるいは両社とも実施するのかが焦点となります。費用負担の調整も含め、関係者間の合意形成が重要な課題となっています。

「新しい成田空港」構想との連動

ターミナル集約と新駅設置計画

成田国際空港株式会社(NAA)は2024年7月、「『新しい成田空港』構想」を国土交通省に報告しました。この構想では、現在3カ所に分散している旅客ターミナルビルを1カ所に集約し、新しい鉄道駅をターミナルビル直下に設置する計画が示されています。

現在、成田空港には成田空港駅、空港第2ビル駅、東成田駅の3駅がありますが、これを1駅または2駅に集約することで、案内や運用の効率化を図ります。新駅にはJR東日本のホームと京成電鉄のホームがそれぞれ2面4線ずつ設置される構想です。

空港拡張計画の全容

成田空港では2029年3月の供用開始を目指し、大規模な拡張工事が進められています。現在のB滑走路(2500メートル)を1000メートル延伸して3500メートルとし、新たに3500メートルのC滑走路を整備します。

これにより、年間発着回数は現在の30万回から50万回へと大幅に拡大します。旅客数は現在の約2倍となる7500万人、貨物取扱量は約1.5倍の300万トンに達する見込みです。運用時間も現在の午前6時〜翌午前0時から、午前5時〜翌午前0時30分へと延長されます。

鉄道アクセス強化の必要性

空港の発着容量が1.5倍に拡大すれば、当然ながら空港を利用する旅客も大幅に増加します。現状の鉄道インフラでは、この増加する需要に対応しきれない可能性があります。

NAAの田村明比古社長は「世界の航空需要は今後20年で2倍になる。特にアジア太平洋地域は伸び率が高く、主要空港では施設整備が進んでいる」と指摘しています。成田空港が国際競争力を維持・強化するためには、空港施設だけでなく、アクセスインフラの整備も不可欠です。

注意点・展望

実現までの長い道のり

複線化や新駅の開業は、早くても2040年頃になると予想されています。成田空港の新滑走路が2029年に完成した後、新ターミナルの建設に着手し、それに合わせて鉄道整備が進められるためです。

この間、2028年度に導入予定の新型有料特急や、スカイライナーの長編成化など、既存インフラの範囲内での輸送力増強策が重要な役割を果たすことになります。

費用負担の調整が課題

8000億円規模の投資をどのように分担するかは、今後の大きな課題です。国土交通省は2026年度に鉄道整備を支援する方針を示していますが、具体的な支援内容や負担割合はまだ明らかになっていません。

複線化を実施する鉄道会社だけでなく、空港会社や国、地方自治体など、関係者間での調整が必要となります。

羽田空港との競争

成田空港は都心からの距離や所要時間の面で、羽田空港と比較されることが多いです。東京駅から羽田空港へは約30分、成田空港へは約55分かかり、料金も羽田空港の方が安価です。

しかし、2010年の成田スカイアクセス線開業により、日暮里駅から成田空港まで最速36分でのアクセスが可能となり、利便性は大幅に向上しています。複線化が実現すれば、列車の増発により待ち時間が短縮され、実質的なアクセス時間はさらに改善されることが期待されます。

まとめ

成田空港アクセス鉄道の複線化は、2029年の空港拡張を見据えた重要なインフラ整備です。京成電鉄は8000億円規模の投資計画を示し、国も2026年度から鉄道整備の支援に乗り出す方針です。

単線区間の解消により、スカイライナーや成田エクスプレスの増発が可能となり、訪日客を含む利用者の利便性が大幅に向上します。新ターミナルの整備と合わせた「新しい成田空港」構想の実現に向け、関係者間の連携が一層重要となってきます。

今後の動向として、費用負担の調整や具体的な整備スケジュールの決定に注目が集まります。日本の空の玄関口として、成田空港の国際競争力強化に向けた取り組みが本格化しています。

参考資料:

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