JALが成田ハブ戦略を加速、インドと北米の乗り継ぎ需要へ
はじめに
日本航空(JAL)が成田空港を国際線ハブとして再強化する動きを加速しています。2026年1月17日には成田〜デリー線を新規開設し、インドと北米を結ぶ乗り継ぎ需要の取り込みに本格的に乗り出しました。
成田空港では2029年3月に3本目となるC滑走路の供用開始が予定されており、年間発着回数が現在の30万回から50万回へと大幅に拡大します。この空港容量の飛躍的な増加を見据え、JALの鳥取三津子社長は成田経由のトランジット旅客を重要な成長の柱と位置づけています。
本記事では、JALの成田ハブ戦略の全体像と、その背景にある航空需要の構造変化について詳しく解説します。
JALの成田ハブ戦略とデリー線開設の狙い
インド〜北米間の巨大な旅客需要
JALが成田〜デリー線を開設した最大の理由は、インドと北米を行き来する旅客需要の急成長です。インドは約14億人の人口を擁する世界最大の人口大国であり、IT産業を中心に北米との人的往来が年々拡大しています。
従来、インド〜北米間の旅客は中東のドバイやドーハを経由するルートを利用するケースが多く見られました。JALはこれに対し、成田空港を経由する太平洋ルートを新たな選択肢として提示する戦略です。
鳥取三津子社長は就航式典で「成田を経由して、インドから北米に移動するお客様にとって大変利便性のいい時間帯を用意した」と述べています。実際に運航スケジュールを見ると、デリー発の便は早朝4時35分に出発し、成田に15時10分に到着します。成田からの北米便は17時頃に集中しており、約2時間の乗り継ぎで北米各都市に向かえる設計です。
北米7都市とのネットワーク
JALは成田空港から北米の計7都市に路線を展開しています。ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ダラス・フォートワース、シアトル、ボストンといった主要都市を結んでおり、乗り継ぎ先の選択肢は豊富です。
さらに、ワンワールドアライアンスのパートナーであるアメリカン航空との提携により、北米の国内線へのスムーズな接続も可能です。アラスカ航空との協力関係も含めると、成田経由で到達できる北米の目的地は大幅に広がります。
インド市場の開拓とインディゴとの提携
3路線体制への拡大
成田〜デリー線の開設により、JALのインド路線は羽田〜デリー線、成田〜ベンガルール線と合わせて3路線体制になりました。羽田〜デリー線は日本人のビジネス・観光需要に対応し、成田〜デリー線はトランジット需要に特化するという役割分担が明確です。
成田〜ベンガルール線はインドのIT産業の中心地を結ぶ路線として、テクノロジー企業の出張需要を取り込んでいます。ただし、デリー線の開設に伴いベンガルール線は週7往復から段階的に週4往復へ減便されており、リソースの再配分が行われています。
インド最大手インディゴとのコードシェア
JALは成田〜デリー線の開設に合わせ、インド最大の航空会社であるインディゴとのコードシェアを開始しました。インディゴはインド国内航空市場で60%以上のシェアを持つ圧倒的な存在です。
このコードシェアにより、JALの利用者はデリーからインド国内の主要都市へスムーズに乗り継ぐことが可能になります。逆に、インド国内各地からデリーを経由して成田、さらに北米へ向かうルートも一本の予約で完結できるようになりました。
急成長するインド〜日本間の旅客
インドからの訪日旅客数は2025年に30万人を超える見込みとされており、今後もさらなる成長が期待されています。経済成長に伴い、中間層の海外旅行需要が拡大しているほか、日本企業のインド進出やインド企業の日本進出に伴うビジネス需要も増えています。
2029年の成田空港新滑走路がもたらす変化
C滑走路の概要と発着能力の拡大
成田空港に新設されるC滑走路は、長さ3,500メートル、幅45メートルの本格的な滑走路です。現在のB滑走路の南側に整備され、2025年5月から本格着工しています。同時に既存のB滑走路も北側に1,000メートル延伸し3,500メートルとなり、エアバスA380型機などの大型機にも対応可能になります。
これにより、成田空港の年間発着処理能力は現在の30万回から50万回へと約1.7倍に拡大します。この増加分をいかに有効活用するかが、JALを含む各航空会社にとって大きな事業機会です。
ワンターミナル構想
成田空港を運営するNAA(成田国際空港会社)は、現在3カ所に分かれている旅客ターミナルを将来的に1カ所に集約する「ワンターミナル」構想を掲げています。現在の第2ターミナル南側が候補地とされ、2030年代から段階的に整備が進められる計画です。
ターミナルの集約は、乗り継ぎ旅客にとって特に大きなメリットがあります。異なるターミナル間の移動が不要になることで、最低乗り継ぎ時間の短縮が可能になり、成田空港のハブ機能が大幅に向上します。
運用時間の拡大
C滑走路の供用開始後は「スライド運用」が導入され、空港の運用時間が午前5時から翌午前0時30分に拡大されます。これにより深夜・早朝の発着が可能になり、特にアジアからの深夜便到着と翌朝の北米便出発を組み合わせた乗り継ぎルートの設定が容易になります。
注意点・展望
競合との差別化が課題
成田経由のインド〜北米ルートは、中東経由ルートとの競争にさらされます。エミレーツ航空やカタール航空はドバイ・ドーハのハブ空港を活用し、すでに強固なネットワークを構築しています。飛行時間や運賃面での競争力をどう確保するかが、JALの成田ハブ戦略の成否を分けるポイントです。
一方で、太平洋ルートには中東経由にはない強みもあります。北米西海岸への所要時間は成田経由の方が短く、西海岸に集中するIT企業の出張需要には地理的な優位性があります。
日本人旅客への影響
成田〜デリー線の運航スケジュールはトランジット需要を最優先に設計されているため、日本人旅客にとっては使いにくいダイヤになっています。成田発が夜の20時15分、デリー発は未明の4時35分という時間帯は、日本人の利用ハードルが高いのが実情です。JALとしては、日本人のインド旅行需要には羽田〜デリー線で対応するという整理です。
今後の路線拡大の可能性
2029年のC滑走路供用開始で発着枠が大幅に増えることから、JALがさらにアジア路線を拡充する可能性があります。東南アジア各国からの成田経由北米ルートの需要も大きく、成田ハブ戦略の第2フェーズとして注目されます。
まとめ
JALは成田空港をインド・北米間の乗り継ぎハブとして位置づけ、デリー線の新規開設やインディゴとの提携を通じて、トランジット需要の取り込みに本格的に動き出しています。2029年のC滑走路供用開始は発着能力を1.7倍に拡大させ、JALの成長戦略にとって大きな追い風となります。
成田空港が羽田空港と異なる「国際トランジットハブ」としての地位を確立できるかどうかは、航空業界にとっても重要なテーマです。今後の路線拡充やターミナル整備の進捗に注目が集まります。
参考資料:
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