新潟とエネルギーの1300年史、石油から原発再稼働まで
はじめに
新潟は古くからエネルギーと縁の深い土地です。『日本書紀』には7世紀、越の国より天智天皇に「燃える水」が献上されたと記録されています。これは石油のことで、日本における石油に関する最も古い記録です。
明治時代には内藤久寛が日本石油を設立し、新潟は日本の石油産業発祥の地となりました。そして現代、世界最大級の出力を誇る柏崎刈羽原子力発電所が2026年1月に再稼働を果たしました。本記事では、1300年以上にわたる新潟とエネルギーの歴史を振り返ります。
「燃える水」献上から始まった歴史
日本書紀に記された「燃水」
『日本書紀』には、天智天皇7年(西暦668年)に「越国、燃ゆる土燃ゆる水を献ず」という記述があります。この「燃ゆる水」とは石油のことです。不思議な品として珍重されたと考えられています。
原油を献上したのは現在の胎内市黒川地区といわれ、日本最古の原油湧出地とされています。中世の古文書にも「久佐宇津条」「くさうつ」と、臭水(くそうず)に由来する地名が記されており、古代から石油が産出していたことを裏付けています。
「くそうず」の語源と地名
当時、石油は「臭い水」という意味から「くそうず」と呼ばれていました。この言葉は「くさみず(臭い水)」が転じたものです。現在でも新潟県内各地に「草水」「草生水」といった地名が残っており、古代から石油が産出していた歴史を物語っています。
柏崎市西山町には「草生水献上場(くそうずおんじょうば)」という故地があり、天智天皇への献上に関わる場所とされています。また、新潟市秋葉区には「草水地区」が今も存在し、地域活動が行われています。
明治の石油王・内藤久寛と日本石油
内藤久寛の生涯
内藤久寛(1859年〜1945年)は、越後国刈羽郡石地村(現在の新潟県柏崎市西山町石地)で生まれた実業家です。「日本の石油王」と呼ばれ、明治期の石油産業を開拓しました。
新潟県会議員であった内藤は、自宅近くの尼瀬(新潟県三島郡)での油井掘削を見て石油事業に関心を抱きました。アメリカの石油事情を学び、石油事業の将来性を確信した内藤は、県会議長の山口権三郎に石油会社の設立を相談しました。
日本石油の創業
1888年(明治21年)5月、尼瀬油田の石油開発ブームを受けて「有限責任日本石油会社」が設立されました。初代社長には当時28歳の内藤久寛が就任しました。
石油採掘は当初「手掘り」で行われ、わずかな量しか採取できませんでした。しかし1891年(明治24年)、日本石油が尼瀬油田で日本初となる石油の「機械掘り」に成功しました。アメリカから輸入した綱掘式掘削機を使用したこの技術革新により、商業的な大規模生産が可能になりました。
ENEOSの源流として
日本石油は1894年に株式会社に改組され、その後成長を続けました。1999年には三菱グループの三菱石油と合併して日石三菱となり、2002年に新日本石油に社名を変更しました。
現在のENEOSホールディングスは、この日本石油の流れを汲んでいます。130年以上前に新潟で始まった石油会社が、現在の日本最大のエネルギー企業グループの源流となっているのです。
新津油田と越後のオイルラッシュ
日本一の産油量を誇った新津油田
新潟市秋葉区一帯に広がる新津油田は、かつて日本有数の油田として栄えました。この地域では、古くから石油が地表ににじみ出ているところがあり、「くそうず(草水)」と呼ばれ、越後七不思議の一つにも数えられていました。
新津油田は1917年(大正6年)には年間産油量12万キロリットルを記録し、日本一となりました。油井戸の全盛期には、油と水と天然ガスが黒い液体となって勢いよく噴き上がり、その音は周辺800メートル四方まで聞こえたといいます。
石油産業から天然ガスへ
国内の石油生産は、安価な輸入原油に押されて次第に縮小しましたが、新潟県は現在でも国内の原油・天然ガス生産量で上位を占めています。石油産業の歴史を活かした観光資源として、新潟市秋葉区には石油関連の史跡が保存されています。
柏崎刈羽原発の再稼働
世界最大級の原子力発電所
柏崎刈羽原子力発電所は、新潟県の柏崎市と刈羽村にまたがって立地しています。敷地面積は約420万平方メートルで、7基の原子炉を有し、総出力は821万2千キロワットです。これは世界最大級の規模であり、発電された電気は主に関東方面に送られています。
1969年に柏崎市と刈羽村から誘致があり、地域の理解と協力のもとで建設が進められました。最も古い1号機は1985年に営業運転を開始しましたが、2012年3月に全ての原子炉が停止して以来、長期間にわたり稼働していませんでした。
14年の格闘を経た再稼働
2021年3月、テロ対策に関わる侵入検知装置の長期間にわたる機能喪失が発覚し、原子力規制委員会から核燃料の移動を禁じる是正措置命令が下されました。東京電力は信頼回復に向けた取り組みを続け、2023年12月に運転禁止命令が解除されました。
新潟県の花角英世知事は2025年11月21日、柏崎刈羽原発の再稼働を容認すると表明しました。知事は「データセンターや半導体産業などにより産業部門の電力需要の増加が見込まれる中、国民生活と国内産業の競争力の維持・向上のために柏崎刈羽が一定の役割を果たす必要がある」との国の方針に理解を示しました。
2026年1月の再稼働
2026年1月21日、6号機が13年10カ月ぶりに再稼働しました。東京電力が原発を再稼働させるのは、2011年の福島第一原発事故後、初めてのことです。
ただし、再稼働翌日の22日には制御棒の引き抜き作業中に警報が鳴り、作業が中断されました。原因調査のため運転が一時停止される事態となり、安全確保と信頼回復への道のりは依然として続いています。
エネルギー政策における新潟の役割
国のエネルギー基本計画との関係
政府は2025年2月に閣議決定した「エネルギー基本計画」で、既設原発の「最大限活用」を明記しました。現在は電源構成の1割弱にとどまる原発の割合を、2040年度に2割程度とする目標を掲げています。
福島第一原発事故前、日本の原発は国内電力の約30%を供給していました。事故後は石炭やガスなど高コストの輸入化石燃料への依存を強め、現在の発電量の約60〜70%は輸入化石燃料に頼っています。
1300年続くエネルギー供給地としての使命
新潟は7世紀の「燃える水」献上以来、日本のエネルギー供給を支え続けてきました。石油産業発祥の地として明治・大正期の産業発展を支え、現代では世界最大級の原子力発電所を擁しています。
エネルギーをめぐる情勢は時代とともに変化していますが、新潟が日本のエネルギー政策において重要な役割を担い続けていることは変わりません。
まとめ
新潟とエネルギーの関係は、1300年以上の歴史を持っています。『日本書紀』に記された「燃える水」の献上から、内藤久寛による日本石油の創業、そして柏崎刈羽原発の再稼働まで、新潟は常に日本のエネルギー供給の中心地であり続けてきました。
「くそうず」と呼ばれた石油が近代産業の基盤を支え、現在はENEOSグループとして日本最大のエネルギー企業に発展しています。柏崎刈羽原発の再稼働は、エネルギー安全保障の観点から注目されますが、同時に安全確保と地域との信頼関係が問われ続けています。
新潟のエネルギーの歴史は、日本の産業発展とエネルギー政策の歩みそのものでもあります。
参考資料:
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