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by nicoxz

資源高で通貨に明暗、アジア安と豪ドル加ドル堅調の理由を読み解く

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はじめに

2026年3月の為替市場では、同じ「ドル高・原油高」の局面でも、通貨ごとの明暗が鮮明になりました。米・イスラエルによるイラン攻撃が2月末に始まり、ホルムズ海峡の通航不安が広がると、エネルギー輸入国の通貨は売られやすくなり、逆に資源輸出国の通貨は相対的に底堅さを見せました。

とくにアジアは、中東産原油とLNGへの依存が高い地域です。そのため、単なる地政学リスクではなく、輸入代金の増加、貿易収支の悪化、インフレ再燃という実体経済の圧力が通貨に直結しました。一方で豪ドルやカナダドルは、資源価格上昇の恩恵を受けやすい構造を持ちます。本記事では、この差がどこから生まれるのかを整理します。

アジア通貨を下押しする資源ショック

ホルムズ海峡とアジア偏重の供給構造

まず見落とせないのは、ホルムズ海峡そのものの重みです。米エネルギー情報局(EIA)によると、2024年に同海峡を通過した石油は日量2000万バレルで、世界の石油液体燃料消費の約20%に相当しました。LNGでも2024年の通過量の83%がアジア向けでした。原油でもLNGでも、供給障害のしわ寄せがまずアジアに来やすい構造です。

国別に見ても依存度は高いままです。IEAは日本について、原油輸入の80%から90%が中東由来だとしています。INGも、マレーシアとオーストラリアを除けば、アジア主要国は油ガス貿易で持続的な赤字だと指摘しています。つまり、原油高はアジアにとって単なるコスト増ではなく、外貨流出を伴う構造問題です。

交易条件悪化とドル建て決済の圧力

市場反応も速く出ました。ロイターによると、3月9日にはMSCI新興国通貨指数が0.6%下落し、韓国ウォンは1ドル=1500ウォンの節目に近づく水準まで1%以上下落しました。フィリピン・ペソとインドネシア・ルピアは過去最安値圏に沈み、フィリピン・ペソは3月13日に1ドル=59.735ペソで過去最安値を更新しています。インド・ルピーも3月12日に1ドル=92.3575ルピーの史上最安値を付けました。

背景は単純です。原油はドル建てで決済されるため、価格上昇とドル高が同時に来ると輸入国の負担は二重に膨らみます。ロイターは3月12日、戦争開始後にエネルギー輸入依存の高い通貨ほどドルに対して大きく下げ、韓国ウォンは3%、インドルピーと円は1.5%以上下落したと報じました。輸入請求額の増大が貿易収支とインフレ見通しを悪化させ、中央銀行の自由度も狭めるためです。

豪ドルと加ドルが比較的強い理由

カナダの輸出増と原油価格の追い風

これに対し、カナダドルは原油高の恩恵を受けやすい通貨です。カナダ統計局によると、2025年12月の原油・同等品の生産量は2780万立方メートルと、2016年以降で最高でした。カナダは輸出サイドでエネルギー価格上昇を吸収できるため、原油高は交易条件の改善につながりやすくなります。

ロイターは3月10日、カナダドルが対ドルで約0.1%上昇し、調査会社の見方として「原油高はルーニーを下支えするはずだ」と伝えました。もちろん米ドル自体が安全資産として買われる局面では、カナダドルが一方的に上がるわけではありません。それでも、アジア通貨のようにエネルギー高がそのまま通貨売りに直結する構図とは異なります。

豪州の資源輸出と金融政策の組み合わせ

豪ドルも同様に、資源価格と金利の両面から支えられました。豪州政府によると、2023-24年度の豪州はエネルギーの大幅な純輸出国で、国内原油生産の96%を輸出しています。3月17日には豪州準備銀行が2会合連続で利上げし、ロイターによると豪ドルは対ドルで0.46%上昇して0.71040ドルを付けました。原油高だけでなく、インフレ警戒に対応する金融政策が通貨の支えになった形です。

ただし、豪州は単純な「勝ち組」ではありません。政府統計では、豪州の精製燃料消費の79%を輸入が占め、液体燃料は最終エネルギー需要の過半を支えています。つまり、豪ドルが堅調でも、国内の燃料供給や物価は中東情勢の悪化から無縁ではありません。資源輸出国通貨の強さと、国内の燃料安全保障は別問題です。

注意点・展望

豪州も無傷ではない現実

よくある誤解は、「資源国なら原油高で必ず得をする」という見方です。カナダは比較的その図式に近い一方、豪州はエネルギー全体では輸出国でも、石油製品では輸入依存が高いというねじれを抱えています。通貨が強くても、供給網や小売燃料価格の痛みが消えるわけではありません。

資源国通貨が常に勝つわけではない条件

もう一つの注意点は、資源高の効果が常に通貨高へ直結するわけではないことです。ロイターが伝えたように、中東紛争は新興国に対してインフレだけでなく、資本流出と経常収支悪化の圧力もかけます。もし原油高が長引き、世界景気の減速が強まれば、豪ドルやカナダドルも「資源通貨」より「リスク資産」として売られる局面がありえます。

今後の焦点は、ホルムズ海峡の機能回復がどこまで進むか、IEAの備蓄放出が価格を抑え込めるか、そして各国中銀が輸入インフレにどう対応するかです。アジア通貨の下落圧力は、中東情勢そのものよりも、原油高が何週間続くかで大きく変わります。

まとめ

今回の為替の明暗は、「市場心理」だけでは説明できません。ホルムズ海峡を通る石油とLNGの多くがアジア向けで、日本を含むアジア主要国は中東エネルギーへの依存が高いため、原油高はそのまま通貨安圧力になりやすいからです。フィリピン・ペソやインド・ルピー、韓国ウォンの下落は、その構造を映しています。

一方、豪ドルとカナダドルの底堅さは、資源輸出で価格上昇の一部を取り込めることに加え、豪州では金融引き締めも支えになったためです。ただし、豪州の燃料輸入依存が示すように、資源国通貨の強さは必ずしも経済全体の無傷を意味しません。為替の見方として重要なのは、「資源国かどうか」だけでなく、何を輸出し、何を輸入し、どの通貨で決済しているかという収支構造です。

参考資料:

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