環境省がレアアースリサイクル補助を開始、その狙いとは
はじめに
環境省が2026年度から、廃棄物に含まれるレアアース(希土類)のリサイクルを促進するための補助事業に乗り出します。廃棄モーターなどからレアアースを取り出す際に必要な運送網の整備、保管施設の確保、抽出後の検査設備にかかる費用を支援する内容です。
レアアースは電気自動車(EV)や風力発電機のモーター、スマートフォンなどに不可欠な素材です。しかし、日本はその調達の多くを中国に頼っており、地政学リスクが高まる中で供給網の脆弱性が指摘されてきました。今回の補助事業は、国内に眠る「都市鉱山」を活用し、輸入依存を軽減する狙いがあります。
この記事では、環境省の補助事業の概要、日本のレアアース調達をめぐる課題、そしてリサイクル技術の最前線について詳しく解説します。
環境省の補助事業の全体像
379億円規模の予算計上
環境省は2026年度予算案に、レアメタル(希少金属)やレアアースを含む重要鉱物のリサイクル促進費用として379億円を計上しました。これは2025年度当初予算と比較して63%の増額です。予算の使途は回収品の保管や解体、再生材の製造など、サプライチェーン全体の整備を支援する内容となっています。
具体的には、国内各地で廃棄された製品に含まれるレアアースの回収に向けた実証事業を展開します。リサイクルに必要な量を確保するために、各地から廃棄物を集約拠点までトラックで運搬するネットワークの構築が重要な柱です。
補助の対象範囲
補助事業の対象は大きく3つに分けられます。第一に、廃棄モーターなどを全国各地から回収し、処理拠点へ運搬するための物流網の整備です。第二に、回収した廃棄物を一時的に保管する施設の確保です。第三に、抽出したレアアースの純度や品質を検査する設備の導入です。
こうしたインフラが整わなければ、個別のリサイクル技術がいくら優れていても、事業として成り立ちません。環境省はサプライチェーンのボトルネックに着目し、民間企業が参入しやすい環境を整える方針です。
中国依存というリスクの実態
輸入の66%が中国から
日本のレアアース調達における中国依存度は、2009年の93%から2025年時点で66%まで低下しています。しかし、依然として高い水準にあることは否めません。特に深刻なのは「重希土類」と呼ばれるグループです。EV用モーターの耐熱性向上に不可欠なジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類は、ほぼ100%を中国に依存している状況です。
野村総合研究所の試算によると、中国がレアアース輸出規制を3カ月間実施した場合、日本の経済損失は約6,600億円に上り、名目GDPを0.11%押し下げる計算です。規制が1年間に及べば損失は約2.6兆円、GDP押し下げ効果は0.43%に達するとされています。
最近の輸出規制強化の動き
中国は2025年4月、トランプ関税への対抗措置としてレアアース7元素の世界的な輸出停止措置を発動しました。さらに2026年1月6日には、軍民両用品(デュアルユース品)について日本への輸出管理を厳格化すると発表しています。
こうした地政学的な緊張は、レアアースの安定供給がもはや「あると便利」ではなく「なければ産業が止まる」レベルの問題であることを浮き彫りにしています。
リサイクル技術の最前線
ネオジム磁石からの回収が鍵
レアアースリサイクルの主なターゲットは、モーターに使われるネオジム磁石です。ネオジム磁石にはネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)のほか、重希土類のジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)が含まれています。これらを高純度で分離・回収する技術の確立が急務です。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2023年から2027年度の5年計画で「部素材からのレアアース分離精製技術開発事業」を推進しています。事業規模は17億6,000万円で、三徳(プロテリアル傘下)やエマルションフローテクノロジーズなどが参画しています。
エマルションフロー法の実用化
シーエムシー技術開発と日本原子力研究開発機構、産業技術総合研究所が共同で開発した「エマルションフロー法」は、ネオジム磁石スクラップからレアアースを高純度かつ低コストで分離精製できる技術として注目されています。従来の溶媒抽出法と比べて設備がコンパクトで、廃液の量も少ないことが特徴です。
こうした技術を社会実装するためには、原料となる廃棄モーターを安定的に集められる仕組みが必要です。今回の環境省の補助事業は、まさにその「仕組みづくり」を後押しするものです。
注意点・展望
環境省の補助事業は重要な一歩ですが、リサイクルだけで中国依存を完全に解消できるわけではありません。国内リサイクルで回収できるレアアースの量は、現時点では需要全体のごく一部にとどまります。リサイクル体制の構築には時間がかかるため、短期的には調達先の多様化(オーストラリア、インド、カザフスタンなど)との併用が不可欠です。
一方、南鳥島周辺の排他的経済水域で発見されたレアアース泥の開発も並行して進んでいます。推定埋蔵量は約1,600万トンと世界第3位に相当する規模で、2026年1月には地球深部探査船「ちきゅう」による採掘システムの接続試験が始まっています。
今後は「リサイクル」「海底資源開発」「調達先多様化」の3本柱で、レアアースの安定供給体制を構築していくことが求められます。企業にとっては、廃棄物の適切な管理とリサイクルへの協力が、自社の供給リスク軽減にもつながるという認識が重要です。
まとめ
環境省が2026年度から開始するレアアースリサイクル補助事業は、廃棄モーターなどからの希土類回収を促進するための物流・保管・検査の各段階を支援するものです。予算規模は379億円で、前年度比63%増と大幅に拡充されました。
背景には、中国への高い輸入依存度と、近年の輸出規制強化による供給リスクの顕在化があります。分離精製技術の進歩により、リサイクルの技術的なハードルは下がりつつあります。今後は補助事業を活用した「仕組みづくり」が進むことで、日本の資源安全保障が一段と強化されることが期待されます。
参考資料:
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