米高級百貨店サックスが破綻、買収の重荷と百貨店業界の構造問題

by nicoxz

はじめに

2026年1月14日、米国の高級百貨店を代表するサックス・グローバル・ホールディングスが、連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請しました。創業159年の歴史を持つサックス・フィフス・アベニューの親会社が破綻に追い込まれた背景には、同業のニーマン・マーカス買収による負債の拡大と、EC(電子商取引)との競争激化という二重の課題があります。

この記事では、サックス破綻の経緯と原因、米国の高級百貨店業界が直面する構造的な問題、そして今後の再建の見通しについて詳しく解説します。百貨店ビジネスの転換点を理解することで、小売業界全体の動向を把握する手がかりとなるでしょう。

サックス破綻の経緯と直接的原因

ニーマン・マーカス買収が命取りに

サックス・グローバルの破綻の直接的な引き金となったのは、2024年12月に完了した約27億ドル(約4,200億円)規模のニーマン・マーカス買収です。カナダの複合企業ハドソンズ・ベイ・カンパニー傘下だったサックスは、この買収によって高級百貨店の巨大グループを形成しようとしました。

この買収には、アマゾンやセールスフォースといったテック企業からの出資も含まれており、コスト構造の改善と仕入れ交渉力の強化が期待されていました。しかし、結果は正反対となりました。買収資金の大部分を負債で賄ったことで、財務基盤が急速に悪化したのです。

支払い遅延が招いた悪循環

破綻の直接的なきっかけは、2025年12月に1億ドルの利払いを履行できなかったことです。しかし、経営危機はそれ以前から深刻化していました。

小売アナリストのニール・サウンダース氏は、サックスの問題を次のように分析しています。「サックス・グローバルは、日常業務を損なうほど財務的に脆弱な状態に陥った。資金不足でサプライヤーへの支払いが滞り、在庫不足が生じ、顧客が離れ、売上と資金繰りが急落するという悪循環に陥った」と指摘しています。

実際、サックスは仕入先への支払いを90日払いに延長したことで、多くのブランドが取引条件の厳しさを理由に商品供給を停止しました。複数のブランドに合計で数百万ドルから数千万ドル規模の未払いが発生したとされています。

米国百貨店業界の構造的課題

ECとの競争で苦戦する実店舗

サックスの破綻は、同社固有の問題だけでなく、米国百貨店業界全体が抱える構造的な課題を反映しています。業界調査会社IBISワールドによると、米国の百貨店業界の売上高は2005年から2020年にかけて継続的に減少しました。その後やや回復したものの、EC大手との競争激化により厳しい状況が続いています。

2026年の業界売上高は推定2,241億ドルですが、過去5年間の年平均成長率はわずか0.8%にとどまります。アマゾンをはじめとするオンライン小売業者の台頭により、実店舗型の百貨店は顧客を奪われ続けています。

高級品市場の冷え込み

高級品市場全体の減速も、サックスの破綻に追い打ちをかけました。経営コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーの調査によると、世界の高級品売上は2026年に2年連続で減少する見通しです。消費者が世界経済への不安から支出を抑制していることが背景にあります。

JPモルガンの2025年9月の調査では、米国と欧州の消費者の60%が中古の高級品を購入するためにリセールプラットフォームを利用していると回答しました。新品の高級品離れが進んでいることがわかります。

大手百貨店の店舗削減戦略

こうした環境変化に対応するため、大手百貨店は店舗網の縮小を進めています。メイシーズは2026年までに店舗数を350店舗に削減し、都市部や郊外の集客力の高い立地に集中する計画を発表しています。実店舗とデジタルの融合、いわゆる「フィジタル」体験の提供が、百貨店の生き残り戦略として注目されています。

再建への道筋と課題

17.5億ドルの資金調達に成功

サックスは破産申請に先立ち、シニア担保付債券保有者とアセットベースレンダーから約17.5億ドルの新規資金調達を確保しました。このうち10億ドルはDIPファイナンス(破産手続中の企業向け融資)として運営資金に充てられ、残りの5億ドルは破産手続終了後に利用可能となります。

同社は、サックス・フィフス・アベニュー、ニーマン・マーカス、バーグドルフ・グッドマン、サックス・オフ・フィフスなど全ブランドの店舗とECサイトの営業を継続すると発表しています。

経営陣の刷新

再建に向けて、経営陣の刷新も行われました。創業者のリチャード・ベイカー氏に代わり、元ニーマン・マーカスCEOのジェフリー・ヴァン・レムドンク氏が新CEOに就任しました。ベイカー氏は、1月上旬に前CEOのマーク・メトリック氏が退任した後、暫定的にトップを務めていました。

再建の見通しと不透明要因

サックスの再建が成功するかどうかは、いくつかの要因にかかっています。まず、仕入先との関係修復が急務です。支払い遅延で信頼を失ったブランドとの取引再開には、相当な努力が必要となるでしょう。

また、高級品市場の回復も重要な要素です。消費者の節約志向が続く中、高級百貨店への需要がいつ回復するかは不透明です。さらに、EC時代に適応したビジネスモデルの構築も課題となります。実店舗とオンラインの融合をいかに実現するかが問われます。

注意点・今後の展望

日本の百貨店への示唆

サックスの破綻は、日本の百貨店業界にとっても他人事ではありません。日本でも百貨店の売上は長期低迷傾向にあり、ECとの競争やインバウンド需要への依存など、構造的な課題を抱えています。

ただし、日本の百貨店は米国とは異なり、不動産事業など多角化を進めているケースが多く、一概に同じ道を辿るとは限りません。サックスの失敗から学べる教訓は、過度な負債を伴うM&Aのリスクと、仕入先との信頼関係の重要性でしょう。

2026年の小売業界の行方

サックスの破綻は、2026年最初の大型小売業破産となりました。高金利環境と消費者の節約志向が続く中、今後も小売業界では再編の動きが加速する可能性があります。特に、負債を抱えた企業や、デジタル対応が遅れた企業は厳しい状況に直面するでしょう。

一方で、破産手続を経て財務を健全化し、ビジネスモデルを刷新できれば、サックスが復活を遂げる可能性も残されています。高級百貨店という業態自体の存続をかけた再建の行方が注目されます。

まとめ

米高級百貨店サックス・グローバルのチャプター11申請は、27億ドル規模のニーマン・マーカス買収による負債拡大と、EC時代における百貨店ビジネスの構造的課題が重なった結果でした。仕入先への支払い遅延が在庫不足を招き、売上減少につながるという悪循環に陥ったことが破綻の直接的な原因です。

同社は17.5億ドルの資金調達を確保し、店舗営業を継続しながら再建を目指します。しかし、高級品市場の冷え込みやEC競争の激化という外部環境は厳しく、再建への道のりは険しいものとなるでしょう。159年の歴史を持つ老舗百貨店の行方は、小売業界全体の将来を占う試金石となります。

参考資料:

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