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by nicoxz

百貨店6社、営業利益24%減へ―中国客減少で戦略転換迫られる

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はじめに

日中関係の悪化が日本の百貨店業界を直撃しています。中国政府が2025年11月中旬に日本への渡航自粛を呼びかけて以降、中国人観光客の来店が急減。百貨店6社の2025年12月~2026年2月期の営業利益は前年同期比24%減となる見込みです。これまでインバウンド需要、特に中国人客の「爆買い」に支えられてきた百貨店業界は、大きな転換期を迎えています。高島屋は東南アジアの顧客開拓を加速させるなど、各社は中国依存からの脱却と国内消費の底上げという二つの課題に取り組み始めています。春節(旧正月)を控え、影響の長期化が懸念される中、業界の対応が注目されています。

中国人観光客減少の実態

渡航自粛の背景

2025年11月7日、高市早苗首相が国会で台湾有事に関する証言を行ったことに対し、中国政府が強く抗議。11月14日には中国政府が日本への渡航制限を求める公告を発出し、国民に対して訪日旅行の自粛を呼びかけました。

さらに11月下旬には、中国当局が国内の主要旅行会社に対し、訪日客を60%削減するよう具体的な指示を出しました。団体旅行の予約停止やビザ申請の制限など、実質的な訪日制限措置が取られています。

訪日客数への影響

この措置の影響は即座に現れました。2025年11月の中国人訪日客数は前年同月比わずか3.0%の増加にとどまり、10月の22.8%増から大きく減速。さらに、国別訪日客数ランキングでは、中国が首位から2位に転落し、韓国に抜かれるという異変が起きました。

宿泊予約データでは、さらに深刻な状況が明らかになっています。民間の宿泊管理システムによると、中国からの宿泊予約は全国的に半減。特に春節(旧正月)期間の予約キャンセルが相次いでおり、2026年1月下旬から2月の観光シーズンへの影響が懸念されています。

百貨店への直撃

日本百貨店協会は2025年12月25日、11月下旬から中国人観光客の来店が減り、売上高に影響が出ているとの見解を発表しました。2025年11月の全国百貨店のインバウンド売上高は502億円で前年同月比2.5%減少し、客数は50.8万人と4カ月ぶりにマイナスに転じました。

特に影響が顕著だったのは11月後半以降です。阪急阪神百貨店を傘下に持つH2Oリテイリングでは、VIPを除くインバウンド関連の売上高が前年より約2割減少。大丸松坂屋百貨店では、免税売上高が客数18.8%減の影響で16.6%減となりました。

百貨店6社の業績見通し

営業利益24%減の衝撃

百貨店主要6社の2025年12月~2026年2月期の営業利益は、前年同期比24%減となる見込みです。この時期は年末商戦と春節が重なる重要な稼ぎ時ですが、中国人客の減少が大きく響いています。

特に免税売上への影響は深刻です。H2Oリテイリングでは、関西国際空港の中国便減少の影響もあり、中国客の売上が約4割減と大幅に落ち込みました。JフロントリテイリングやH2Oリテイリングなど、大手でも12月の売上高が前年割れとなっています。

中国市場の重要性

中国人観光客が百貨店にとってどれほど重要かは、数字が物語っています。2025年7~9月期、中国人観光客の日本国内での消費額は5901億円に達し、全インバウンド消費の27.7%を占めました。香港を含めると33.0%に達し、実に3分の1が中華圏からの消費です。

いつもは海外からの観光客でにぎわう大阪市の黒門市場でも、11月中旬以降、中国人客の姿がめっきり減りました。高級ブランド店が集まる銀座や心斎橋の百貨店でも、明らかに中国人客が減少している様子が報告されています。

一方で堅調な国内消費

ただし、すべてが悲観的というわけではありません。免税を除いた国内売上高は1.7%増と堅調に推移しています。冬物衣料や年末商戦向けの商品が好調で、賃上げの効果も徐々に現れ始めています。

国内客の単価も上昇傾向にあり、高額品への需要も底堅い状況です。この国内消費の底上げが、インバウンド減少をどこまでカバーできるかが、今後の鍵となります。

高島屋の東南アジア戦略

海外店舗との連携強化

中国依存からの脱却を最も積極的に進めているのが高島屋です。高島屋は「顔の見えるインバウンド」戦略として、東南アジアの海外店舗と日本国内店舗を連携させる取り組みを加速させています。

2025年には、シンガポールの上位顧客2500人に日本の店舗来店時の特典を案内。2026年にはさらに対象を広げ、上海、バンコク、ホーチミンの各店の顧客にも案内し、合計1万人に達する予定です。

この戦略の効果は既に数字に表れています。シンガポール店で案内して訪日した顧客の単価は、通常の2.3倍に達しました。海外の優良顧客を訪日消費に誘導することで、単なる「数」ではなく「質」を重視したインバウンド戦略への転換を図っています。

ベトナム・ハノイ進出

高島屋は2026年以降、ベトナム・ハノイに百貨店と専門店で構成する商業施設を開業する予定です。海外出店はタイ・バンコクで2018年に開業して以来約8年ぶりとなります。

ベトナムでは「スターレイクプロジェクト」への参画を通じて、商業施設、富裕層向け住宅、教育施設を一体化した複合開発プロジェクトに取り組んでいます。単なる店舗出店ではなく、現地の富裕層コミュニティに深く入り込み、長期的な顧客関係を構築する狙いです。

ASEAN市場での優位性

高島屋のASEAN戦略は、他の日系百貨店と比較しても成功していると評価されています。特にシンガポール高島屋は現地で1番店としての地位を確立しており、富裕層の間で高いブランド認知度を誇ります。

タイ・バンコクのサイアム高島屋も好調で、日本ブランドの信頼性を活かして高価格帯商品の展開を拡大しています。こうした海外での実績を基盤に、訪日インバウンドへと誘導する好循環を構築しているのです。

経済への影響と見通し

1.79兆円の経済損失

野村総合研究所の試算によると、中国政府の渡航自粛要請が1年間続いた場合、日本の経済損失は1.79兆円、名目・実質GDPを0.29%押し下げると推定されています。この試算は2012年の尖閣諸島問題時のデータを参考にしていますが、当時と比較して現在の中国人観光客の消費規模は格段に大きく、影響はより深刻になる可能性があります。

日本総研の分析では、日中関係が本格的に悪化した場合、訪日消費額が3年間で2.3兆円減少する可能性も指摘されています。百貨店業界だけでなく、宿泊業、飲食業、交通機関、観光施設など幅広い業種への波及効果が懸念されます。

地域経済への打撃

影響は都市部だけでなく、地方にも及んでいます。北海道や沖縄など、中国人観光客に人気の地域では、宿泊施設のキャンセルが相次ぎ、地域経済への打撃が懸念されています。

特に地方の観光地は、国内客だけでは需要が限られるため、インバウンド依存度が高い傾向にあります。中国人客の減少が長期化すれば、地方の観光業や関連産業に深刻な影響が及ぶ可能性があります。

春節商戦への懸念

日本百貨店協会の幹部は「春節(旧正月)を控え、中国政府のメッセージがどうなるか懸念している」と語っています。春節は中国人観光客が最も多く訪日する時期で、百貨店にとっては年間で最も重要な商戦の一つです。

2026年の春節は1月下旬から2月にかけてですが、現時点で中国政府の渡航自粛方針に変化の兆しは見られません。この時期の売上減少が避けられない場合、百貨店6社の通期業績にも大きな影響が及ぶ可能性があります。

百貨店業界の対応策

東南アジア・欧米客の開拓

高島屋以外の百貨店も、中国以外の市場開拓に注力し始めています。東南アジアではタイ、インドネシア、ベトナムの富裕層、欧米では特にアメリカの観光客が注目されています。

三越伊勢丹ホールディングスは、欧米観光客向けに英語対応スタッフを増員し、免税手続きの効率化を進めています。また、東南アジアの富裕層向けには、VIPラウンジの設置や専任スタッフによるパーソナルショッピングサービスを拡充しています。

国内消費の底上げ

もう一つの重要な戦略は、国内消費の底上げです。2025年は多くの企業で賃上げが実施され、消費者の購買力が向上しています。この機会を捉えて、国内客の来店頻度向上と単価アップを図ることが重要です。

具体的には、高品質な日本製品の訴求、体験型イベントの開催、ポイントプログラムの充実などが挙げられます。また、オンラインとオフラインを融合させたOMO(Online Merges with Offline)戦略も加速しています。

デジタル化とサービス向上

百貨店業界は、デジタル技術の活用にも力を入れています。多言語対応のAIチャットボット、スマホ決済の拡充、デジタル免税手続きの導入など、インバウンド客の利便性を高める取り組みが進んでいます。

また、顧客データ分析を活用した個別マーケティングも強化されています。購買履歴や嗜好データを基に、顧客一人ひとりに最適な商品やサービスを提案することで、リピート率の向上を図っています。

「爆買い」から「質の高い消費」へ

消費スタイルの変化

実は中国人観光客の消費スタイルは、ここ数年で大きく変化していました。かつての「爆買い」ブームは既に終わり、より洗練された「質の高い消費」へと移行しつつあったのです。

ブランド品を大量に購入する団体客よりも、日本の文化や体験を重視する個人旅行者が増加。高級ブランドよりも、日本の伝統工芸品や地域限定商品に関心を持つ傾向が強まっていました。

新たなインバウンド戦略の必要性

今回の中国人客減少は、百貨店業界にとって戦略見直しの好機とも言えます。特定の国・地域に過度に依存するリスクが明確になった今、より分散された、持続可能なインバウンド戦略の構築が求められています。

東南アジア、欧米、オーストラリアなど多様な市場からバランスよく顧客を獲得すること、そして国内消費をしっかりと底上げすることが、百貨店の長期的な成長には不可欠です。

まとめ

中国政府の渡航自粛要請により、百貨店業界は厳しい局面を迎えています。百貨店6社の2025年12月~2026年2月期の営業利益が前年比24%減となる見込みは、インバウンド依存のリスクを浮き彫りにしました。

しかし、この危機は同時に変革の機会でもあります。高島屋の東南アジア戦略に見られるように、特定市場への依存から脱却し、より多様で持続可能なビジネスモデルを構築することが可能です。

国内消費の底上げ、賃上げによる購買力向上、東南アジア・欧米市場の開拓、デジタル化の推進など、複数の施策を組み合わせることで、百貨店業界は新たな成長軌道に乗ることができるでしょう。

春節商戦を控え、短期的には厳しい状況が続く見込みですが、中長期的には「爆買い」依存からの脱却が、より健全で安定した業界の発展につながることが期待されます。

参考資料:

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