中小・零細企業の経営難が深刻化、景気回復の恩恵届かず
はじめに
日本経済全体には回復の兆しが見えてきましたが、中小・零細企業に限定すると景況感は依然として厳しい状況が続いています。税理士法人の現場からも「顧客の44%が赤字」という声が上がるなど、大企業と中小企業の景気格差が鮮明になっています。
2025年の企業倒産件数は1万261件と12年ぶりに1万件を超え、人手不足や物価高を背景とした経営破綻が相次いでいます。本記事では、中小企業を取り巻く経営環境の実態と、構造的な課題、そして今後の展望について詳しく解説します。
中小企業の景況感はなぜ厳しいのか
大企業と中小企業の二極化
帝国データバンクが実施した2026年の景気見通し調査では、「回復局面」と答えた企業は11.0%と2年ぶりに10%を超え、「悪化局面」は17.4%と4年ぶりに2割を下回りました。しかし、「踊り場局面」が43.0%と最も高い割合を占めており、景気の先行きに対する慎重な見方が主流です。
特に中小企業に着目すると、全産業の業況判断DIは前期比0.7ポイント減のマイナス17.5と、2期連続で低下しています。大企業が賃上げや設備投資を進める一方、中小・零細企業はコスト増を吸収できず、収益が圧迫される構図が固定化しつつあります。
赤字企業が6〜7割を占める現実
国税庁の統計によると、赤字法人の割合は全法人の65.3%に達しています。中小企業に限定すれば、この割合はさらに高くなると見られています。税理士法人Bricks&UKの梶浦潮代表は、自社の顧客企業のうち44%が赤字であると明かしており、現場から見た景況感の厳しさを裏付けています。
Bricks&UKは名古屋を拠点に約3,700社の中小企業を顧客に持つ税理士法人で、年間約300社の新規顧客を受け入れています。中小企業の経営を間近で見てきた立場から、景気回復の恩恵が届いていない実態を指摘しています。
中小企業を苦しめる3つの構造的課題
価格転嫁の壁
中小企業が直面する最大の課題は、コスト上昇分を販売価格に反映できない「価格転嫁」の問題です。帝国データバンクの調査によると、企業の価格転嫁率は2025年7月時点で39%にとどまっており、コスト上昇分の6割以上が企業の利益を圧迫している計算です。
さらに深刻なのは人件費の転嫁率で、わずか32%しか価格に反映できていません。サプライチェーンの深層に位置する4次請け以上の企業では、全く転嫁できなかった企業が36.0%に上ります。
2026年1月に施行された改正下請法では、発注者が受注者と適切な価格協議を行わず一方的に支払代金を決めることが禁止されました。しかし、取引慣行が一朝一夕に変わるとは考えにくく、法改正の効果が現場に浸透するまでには時間がかかる見通しです。
人手不足と賃上げ圧力
人手不足を原因とした倒産は2025年に過去最多を記録しました。2026年1月も36件と高水準が続いており、特に「人件費高騰」を理由とする倒産は前年同月比で3.1倍に急増しています。
最低賃金は2025年度に全国加重平均で1,121円に引き上げられました。最低賃金を下回る従業員がいたため賃金を引き上げたと回答した企業は44.3%にのぼり、人件費増への対応について「具体的な対応が取れず、収益を圧迫している」と答えた企業が31.4%で最多です。
中小企業は大企業の賃上げ競争に巻き込まれる形で人件費が膨らむ一方、その増加分を十分に価格転嫁できないという板挟みの状態にあります。従業員30人未満の事業所では、従業員の4人に1人の賃金を短期間で引き上げる必要に迫られており、経営への負担は深刻です。
後継者不在と事業承継の壁
中小企業の5割超が後継者不在という状況も、経営難の構造的な要因です。特に地方では若年層の都市部への流出が続いており、事業を引き継ぐ人材の確保が困難になっています。
後継者が見つからなければ、黒字であっても廃業を選ばざるを得ないケースが増えています。廃業が進めば地域の雇用機会が減少し、産業基盤の弱体化を招くという悪循環が生まれます。中小企業の経営難は、個々の企業の問題にとどまらず、地域経済全体の活力低下につながる深刻な課題です。
注意点・今後の展望
コロナ融資の返済が本格化
2026年4月以降、新型コロナウイルス関連の融資(コロナ借換保証)の元金返済が集中して始まります。利用件数は約30万件に上り、返済負担に耐えられない「息切れ倒産」の増加が懸念されています。
物価高や人手不足に加えてコロナ融資の返済が重なることで、経営体力の弱い中小・零細企業にとっては三重苦ともいえる厳しい環境が予想されます。
求められる実効性のある支援策
中小企業が政府に求める支援として、「税・社会保険料負担の軽減」を8割近くの企業が挙げています。「助成金の拡充・使い勝手の向上」「取引価格の適正化・円滑な価格転嫁」も各4割台と高い要望があります。
改正下請法の施行に加え、政府は毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定し、状況の芳しくない発注者には事業所管大臣名での指導・助言を行っています。こうした取り組みが実効性を持つかどうかが、中小企業の経営環境改善の鍵を握ります。
倒産トレンドの変化
2026年の倒産動向について、専門家は物価高を主因とする倒産から、人手不足や経営者の病気・死亡といった人的要因による倒産へとトレンドが移り変わると予測しています。経営者の高齢化が進む中で、人的リスクへの備えが一層重要になります。
まとめ
日本経済全体には明るさが見える一方で、中小・零細企業の経営難は深刻化しています。価格転嫁の困難さ、人手不足と賃上げ圧力、後継者不在という3つの構造的課題に加え、2026年4月からのコロナ融資返済の本格化が控えています。
中小企業が元気にならなければ、日本経済、特に地域経済の活性化は実現しません。改正下請法の実効性ある運用や、価格交渉の促進、事業承継支援の拡充など、現場の実態に即した支援策の強化が急務です。
参考資料:
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