Swift、32行で国際即時送金の仕組み構築へ、フィンテックに対抗
はじめに
国際送金を担う国際銀行間通信協会(Swift、スイフト)が、みずほ銀行や米JPモルガン・チェースなど世界17カ国の32行で、個人などの少額送金を即時に着金させる仕組みを構築します。早ければ2026年にも即時送金に向けた仕組みを導入する予定です。
これは、WiseやRevolutなどフィンテック企業の台頭に対抗する動きです。従来の銀行送金は「遅い」「高い」「不透明」という課題を抱えてきましたが、即時決済の実現により銀行送金の利用拡大を目指します。
本記事では、Swiftの即時送金構想、国際送金の現状と課題、そしてフィンテックとの競争について解説します。
Swiftとは何か
世界の金融インフラ
Swift(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)は、銀行間の国際金融取引のメッセージングを担うベルギーの協同組合です。200以上の国・地域から11,000以上の金融機関が参加しており、1日当たり約4,200万件の取引を処理しています。
1日の決済額は約5兆ドルに達し、国際金融の根幹を支えるインフラとなっています。サービスの可用性は99.999%と、極めて高い信頼性を誇ります。
従来の国際送金の仕組み
Swiftを介した国際送金では、送金元銀行からコルレス銀行(中継銀行)を経由して受取銀行に資金が届きます。この過程で複数の銀行が関与するため、各銀行が手数料を徴収し、送金に数日を要することもありました。
金融安定理事会(FSB)は、クロスボーダー送金の課題として「高コスト」「遅さ」「限られたアクセス」「限定的な透明性」の4点を挙げています。
即時送金構想の概要
32行が参加
今回の即時送金構想には、日米欧や中東などの主要銀行32行が参加します。報道によると、みずほ銀行、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴなどが含まれています。
参加行は協議を開始しており、早ければ2026年にも即時送金の仕組みを導入する計画です。
少額送金にフォーカス
今回の取り組みは、主に個人などの少額送金をターゲットとしています。海外への仕送り、越境ECの決済、留学生への送金など、即時性が求められる場面での利便性向上を目指します。
大口の法人送金については、すでにSwift GPIなどで高速化が進んでおり、少額送金の改善が課題として残っていました。
各国の即時決済システムとの接続
2023年11月、Swiftは各国の国内即時決済システムとの接続を発表しています。欧州向けの国際送金は、国内の即時決済システムとシームレスに接続することで、数秒で受取口座に入金が可能になりました。
今回の32行の取り組みは、こうした即時決済システムの接続をさらに拡大するものと位置づけられます。
Swift GPIによる改善
トラッカー機能の導入
Swiftは2017年から「Swift GPI(Global Payments Innovation)」を導入し、送金の高速化と透明性向上を進めてきました。最大の特徴は、トラッカー機能(UETR)による送金状況のリアルタイム把握です。
2023年12月時点で、クロスボーダー送金の約6割が送金実行から30分以内に受取銀行に到着。ほぼ100%の送金が24時間以内に完了するようになりました。
ISO 20022への移行
Swiftは2023年より、新たなメッセージ規格「ISO 20022」への移行を開始しています。2025年末以降は従来のMTフォーマットを廃止し、拡張性の高いXML形式(MX)に統一する予定です。
新フォーマットは従来比で約10倍の情報を保持でき、送金の透明性と効率性が向上します。
フィンテックの台頭と競争
新興企業の躍進
国際送金市場では、Wise(旧TransferWise)やRevolutなどのフィンテック企業が急成長しています。これらの企業は、コルレス銀行を介さない独自の仕組みにより、低コストかつ高速な送金を実現しています。
Wiseは複数の国内送金を組み合わせる手法で、従来の銀行送金より大幅に安い手数料を実現。銀行の独壇場だった国際送金市場に風穴を開けました。
銀行の危機感
フィンテック企業の台頭は、銀行にとって大きな脅威です。特に少額送金市場では、「高い」「遅い」という銀行送金の弱点を突かれ、顧客を奪われるケースが増えています。
Swiftの即時送金構想は、こうしたフィンテックとの競争に対応するための施策といえます。銀行がネットワークと信頼性という強みを活かしつつ、スピードと利便性で巻き返しを図る形です。
今後の展望
ASEAN地域の動向
世界60カ国以上で即時決済システム(FPS)が稼働する中、ASEAN地域ではクロスボーダーでFPSを接続する動きが広がっています。米ドル依存度を下げたい新興国のニーズも背景にあります。
タイ、シンガポール、マレーシアなどでは、QRコード決済の相互運用など、地域内での即時決済の連携が進んでいます。
ブロックチェーンの活用
長期的には、ブロックチェーン技術を活用した国際送金の可能性も探られています。「Project Nexus」「Project Agora」といったプロジェクトが、より迅速で低コスト、透明性の高い国際送金システムの構築に向けて進められています。
日本の銀行への影響
みずほ銀行をはじめとする日本の銀行も、この動きに乗り遅れないよう対応が求められます。国内の即時決済システム「全銀システム」との連携も含め、グローバルな即時送金ネットワークへの参加が重要になります。
まとめ
Swiftがみずほ銀行やJPモルガンなど32行と連携し、国際送金の即時化を目指す取り組みを開始します。早ければ2026年にも即時送金の仕組みが導入される見込みです。
背景には、WiseやRevolutなどフィンテック企業の台頭があります。「遅い」「高い」という従来の銀行送金の課題を克服し、即時性と利便性で競争力を回復することが狙いです。
Swift GPIやISO 20022への移行など、すでに進められている改革に加え、各国の即時決済システムとの接続が進めば、国際送金のあり方は大きく変わる可能性があります。フィンテックと銀行の競争は、利用者にとってサービス向上につながることが期待されます。
参考資料:
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