高市首相「政権選択選挙」を強調、多党制時代の衆院選を読み解く
はじめに
高市早苗首相は2月8日投開票の衆院選を「政権選択選挙」と位置づけました。衆議院は憲法の規定により首相の指名で参議院を優越するため、衆院選は有権者が政党への投票を通じて間接的に首相を選ぶ機会とされています。
しかし、現在の日本では多党化が進み、単独で政権を担える政党は存在しません。自民党と日本維新の会の連立政権という新たな枠組みのもとで行われる今回の選挙は、従来の「政権選択」という概念がそのまま当てはまるのか、議論の余地があります。
本記事では、衆院解散の背景、自維連立政権の政策合意、そして多党制時代における選挙の意味について詳しく解説します。
衆院解散の経緯
高市首相の解散表明
高市早苗首相は1月19日午後6時に首相官邸で記者会見を開き、23日に召集する通常国会の冒頭で衆議院を解散すると正式に表明しました。衆院選は「1月27日公示―2月8日投開票」の日程で行われ、解散から投開票までの期間は16日と戦後最短の短期決戦となります。
首相は記者会見で「衆院選は政権選択の選挙と呼ばれる」と強調し、「自民党と日本維新の会で過半数の議席」を目指すと述べました。
解散に踏み切った理由
首相が就任からわずか3カ月で早期解散に踏み切った背景には、高い内閣支持率があります。日本経済新聞社の世論調査によると、高市内閣の支持率は2025年12月に75%を記録し、10月の内閣発足から70%台を維持しています。
現在、自民党と維新の両党の衆院会派の議席はぎりぎり過半数の233で、参議院では少数与党の「ねじれ国会」となっています。政権運営は不安定な状況にあり、首相は早期解散で与党の議席を増やし、政策を進めるべきだと判断しました。
信を問う政策
高市首相は衆院選で信を問う理由として、日本維新の会との連立政権合意書に盛り込んだ政策など、前回衆院選で自民党が公約していなかった「国の根幹に関わる重要政策の大転換」を挙げています。
具体的には、食料品の消費税免除検討、緊急事態条項の憲法改正、スパイ防止関連法制の策定などが含まれており、これらの政策について国民の審判を得る必要があるとの認識を示しています。
自民・維新連立政権の成立経緯
公明党との連立解消
自民党は2024年10月の衆院選、2025年7月の参院選の両方で大敗し、連立パートナーであった公明党と合わせても議席数は過半数を割る状況に陥りました。
1999年から26年間続いた自民・公明両党の連携は、高市総裁の誕生とともに公明党の連立離脱で終止符を打ちました。裏金問題をめぐる意見の食い違いが原因とされています。
維新との連立合意
2025年10月20日、自民党の高市早苗総裁と日本維新の会の吉村洋文代表による党首会談で連立に合意し、翌21日に高市内閣が発足しました。
維新は閣外協力として閣僚を出さない形をとり、両党の連絡調整要員として維新の国会対策委員長である遠藤敬議員が内閣総理大臣補佐官(連立合意政策推進担当)に就任しています。
連立政権合意の主な政策
経済政策
連立合意では、食料品に限り2年間消費税を免除することを視野に法制化を検討するとされています。また、臨時国会でガソリン暫定税率の廃止や物価高対策のための補正予算を編成し、成立を目指すこととなりました。
一方、物価高対策としての2万円給付は行わないこととし、代わりに給付付き税額控除の導入について早急に制度設計を進め、実現を図るとしています。
憲法改正
緊急事態条項について改正を実現すべく、臨時国会中に両党の条文起草協議会を設置し、2026年度中に条文案の国会提出を目指すとされています。
議員定数削減
1割を目標に衆議院議員定数を削減するため、臨時国会において議員立法案を提出し、成立を目指すとしています。
社会保障政策
OTC類似薬など自己負担の見直しを進め、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指すとしています。
スパイ防止法制
スパイ防止関連法制について検討を始めて、速やかに法案を策定し成立させるとしています。
多党制時代の「政権選択」を考える
日本の政党政治の変遷
日本で本格的な連立政権が始まったのは、1993年の細川護熙内閣からです。この政権の誕生により、38年間続いた自民党の単独政権(55年体制)が崩壊し、日本の政治は複数の政党が協力する「連立の時代」に突入しました。
それ以降、基本的に連立政権が続いており、単独の政党では政権を担当できない状況が常態化しています。
選挙制度と多党制
日本の衆議院議員選挙は「小選挙区比例代表並立制」を採用しています。小選挙区では最も多く票を集めた1人だけが当選するため大政党に有利ですが、比例代表では政党の得票率に応じて議席が配分されるため、中小政党も国会に議席を確保できます。
この制度設計が、二大政党制を志向しながらも多党制を許容する現在の状況を生み出しています。
「政権選択」の実態
高市首相は「自民と維新で過半数」を目指すと明言していますが、選挙後の連立の枠組みは確定したものではありません。選挙結果次第では、別の連立の組み合わせが生まれる可能性もあります。
多党制の良いところは、複数の政党による連立政権によって、国民のさまざまな意見や価値観が政策に反映されやすい点です。一方で、政権が不安定になりやすく、政策の継続性に課題が生じることもあります。
注意点・今後の展望
短期決戦の影響
解散から投開票まで16日という戦後最短の短期決戦は、有権者が各政党の政策を十分に比較検討する時間を制約します。特に今回は連立政権合意に盛り込まれた多くの政策について、その是非を問う選挙となるだけに、情報収集と熟慮が重要です。
政策実現の見通し
財政健全化を重視する維新の立場や、高齢者の負担増加に対する自民党内の慎重論から、連立合意に盛り込まれた政策の一部は実行までに数年かかる可能性が指摘されています。選挙公約と実際の政策実現にはギャップが生じる可能性があることを念頭に置く必要があります。
今後の政局展望
今後の日本政治は、ドイツなどの欧州諸国のように多党連立が当たり前になり、比較第1党を中心にその時々の政治的課題によって、さまざまな組み合わせで連立政権をつくっていく姿が常態化する可能性があります。
「政権選択選挙」という表現は、二大政党制を前提としたものでした。多党制時代においては、有権者は特定の政党を支持するだけでなく、選挙後の連立の組み合わせや政策協議の行方も視野に入れて投票することが求められます。
まとめ
高市首相が「政権選択選挙」と位置づけた2月8日の衆院選は、自民・維新連立政権の継続と議席増を問う選挙です。高い内閣支持率を背景に、就任3カ月での早期解散に踏み切った首相の判断は、政権基盤の強化を狙ったものです。
しかし、多党化が進む日本において、選挙結果が直接的に政権の形を決めるわけではありません。有権者には、各政党の政策だけでなく、選挙後の連立の枠組みや政策協議の可能性も含めて判断することが求められます。
戦後最短の短期決戦となる今回の選挙で、有権者一人ひとりがどのような選択をするか、その結果が今後の日本政治の方向性を大きく左右することになります。
参考資料:
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