高市早苗首相の高い人気と「情動の政治」の功罪を考える
はじめに
高市早苗首相の内閣支持率が異例の高水準を維持しています。2026年1月の調査では77.7%を記録し、3カ月連続で75%超という驚異的な数字が続いています。特に若年層からの支持が高く、18〜39歳では80%に達するという調査結果も出ています。
「はっきり言い切る言葉がいい」「外交でフレンドリーに振る舞っている」「おじさんの首相とは印象が違う」。周囲の30〜40歳代に聞くと、大体こんな意見が返ってきます。しかし、こうした感情的・印象的な支持の広がりは、政策の中身に基づく評価なのでしょうか。
この記事では、高市首相の人気の背景を分析し、「情動の政治」と「エビデンスに基づく論戦」のバランスについて考えます。
高市首相の人気の実態
支持率の推移
高市内閣は発足以来、驚異的な支持率を維持しています。FNNの世論調査では2025年12月に75.9%を記録し、3カ月連続で75%台という異例の高水準が続いています。
日次世論調査「世論レーダー」の2026年1月第1週の集計では、支持率は77.7%(前週比+0.5ポイント)となりました。政党支持率でも自民党が30.1%(前週比+3.6ポイント)に上昇し、30%台を回復しています。
野党支持層からも高い評価
注目すべきは、野党支持層からの評価です。国民民主党支持層の90.2%、立憲民主党支持層でも37.5%が高市内閣を支持しています。さらに驚くべきことに、共産党支持層からも46.5%、高市首相への不満で連立を離脱した公明党の支持層でも48.6%が支持を表明しています。
若年層の圧倒的支持
読売新聞の緊急世論調査によると、高市内閣を「支持する」人の割合は18〜39歳で80%に達しています。40〜59歳でも75%と高水準を維持しており、若年層の支持拡大が顕著です。
一部のマスコミでは、若年層の支持が9割に達するという報道もあります。
人気の理由を分析する
「ブレない姿勢」への信頼
高市首相が支持される最大の理由は、「ブレない姿勢」にあります。他の政治家が言葉を選んで曖昧にするようなテーマでも、賛否を恐れず自分の考えをしっかりと発信する姿勢が、多くの国民に安心感を与えています。
特に若年層は、表層的な人気取りや時勢によって意見を変える政治家に冷めた目を向けがちです。むしろ「一貫性」に対して強い信頼と魅力を感じる傾向があります。
SNS時代の情報発信
若年層の主要な情報源は、X(旧Twitter)、Instagram、TikTok、YouTubeといったSNSやネットメディアに完全にシフトしています。高市首相がSNSやYouTubeで、自身の言葉で直接政策を説明するスタイルは、「一次情報志向」の若年層のニーズに応えています。
政治家自身が「一次情報の発信源」となることで、メディアのフィルターを通さず有権者に直接訴えかけることができます。これが「真実味」と「親近感」を生み出しています。
キッパリと断言するタイプの政治家と、短文・短尺動画が好まれるSNSは相性が良いとも言われています。
「サナ活」現象の広がり
高市首相を「推し」として応援する「サナ活」と呼ばれるムーブメントが、特に若い女性を中心に広がっています。首相の使用しているボールペンやカバンが注目され、ファッションや持ち物を真似る動きも出ています。
政治家を「推し活」の対象として捉えることで、「堅い」「難しい」というイメージがある政治を、よりカジュアルで身近なものに感じさせる効果があります。
女性初の首相という象徴性
憲政史上初の女性首相という点も、支持拡大の一因です。「おじさんの首相とは印象が違う」という声に表れているように、新鮮さやイメージの転換を評価する層も少なくありません。
「情動の政治」とは何か
感情に訴える政治手法
高市首相の人気の高さは、政策の中身よりも「人柄」や「印象」、「発信スタイル」への評価に支えられている面があります。これは「情動の政治」と呼ばれる現象と関連しています。
情動の政治とは、有権者の感情や不安、期待に訴えかける政治手法です。論理やエビデンスよりも、心に響く言葉や明快なメッセージが重視されます。
ポピュリズムとの関連
政治学者ミュデの定義によると、ポピュリズムとは「社会が『汚れなき人民』対『腐敗したエリート』という敵対する2つの陣営に分かれると考える」イデオロギーです。反エリート感情を背景に、既存の政治への不満を吸収する傾向があります。
大衆の感情や欲求に応えようとするあまり、人々を煽るような発言や非現実的な政策を掲げることが問題視されることもあります。
専門家 vs 大衆の声
情動の政治においては、「専門家の議論」よりも「ふつうの人びとの意見」を優先すべきという考え方が広がりやすくなります。エビデンスに基づく政策形成よりも、直感的に「正しい」と感じる政策が支持される傾向があります。
エビデンスに基づく論戦の重要性
政策の実現可能性を問う
衆議院選挙を控えた今、求められるのは「情動」だけでなく「エビデンス」に基づく論戦です。各党の政策について、財源の裏付けはあるのか、実現可能性はどうか、副作用は何か、といった点を冷静に検証する必要があります。
「サナエノミクス」と呼ばれる経済政策についても、積極財政がもたらす効果とリスクについて、データに基づいた議論が求められます。
メディアリテラシーの重要性
SNSでの情報発信は双方向のコミュニケーションを可能にしますが、一方で情報の正確性を検証する機会が減る危険性もあります。有権者には、政治家の発信を鵜呑みにせず、複数の情報源を比較検討するメディアリテラシーが求められます。
「期待値」と「実績」の違い
元自民党職員で選挙アドバイザーの久米晃氏は、高市首相の高い内閣支持率について「実態は『支持率』でなく『期待値』」と分析しています。暮らしが良くなったと国民が実感する状況にならなければ、支持は維持できないとの指摘です。
内閣支持率に対し、自民党の支持率が上がらない傾向は変わっておらず、党への信頼はまだ回復していないとも言われています。
衆議院選挙に向けて
高市首相の決断
高市首相は2026年1月23日に衆議院を解散しました。1月27日公示、2月8日投開票となります。就任からわずか3カ月での解散総選挙は、高い支持率を追い風に政治基盤の強化を図る狙いがあります。
有権者に求められるもの
選挙戦では、政策の中身を吟味することが重要です。「はっきり言い切る」姿勢は分かりやすさを生みますが、複雑な政策課題には単純な答えがないことも多いです。
各党の公約について、以下の点を確認することをお勧めします。
- 財源は明確か
- 実現のためのロードマップはあるか
- 反対意見や課題はどう認識されているか
- 過去の類似政策の成果・失敗から何を学んでいるか
まとめ
高市早苗首相の異例の高い支持率は、「ブレない姿勢」「SNSでの直接発信」「女性初の首相」といった要素が複合的に作用した結果です。特に若年層からの支持が顕著で、「サナ活」と呼ばれる推し活現象まで生まれています。
しかし、感情や印象に基づく「情動の政治」だけでは、複雑な政策課題に対応できません。衆議院選挙を前に、有権者には政策のエビデンスと実現可能性を冷静に検証する姿勢が求められます。
政治を身近に感じることは民主主義にとって重要ですが、同時に政策の中身を吟味する習慣を持つことも欠かせません。「情動」と「論理」のバランスが、健全な民主主義の鍵となります。
参考資料:
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