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by nicoxz

短期間での衆院解散が中長期政策に与えるリスクを解説

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はじめに

高市早苗首相が2026年1月19日に通常国会の開会直後に衆院を解散する方針を表明しました。前回の衆院選から約1年3カ月という短期間での解散は、戦後の日本政治において極めて異例のことです。

「55年体制」以降、衆院議員の任期4年の折り返し前に解散したケースは、全体の1割強にあたる3回のみでした。短期間での解散は、予算審議の停滞や公費負担の増大など、さまざまなリスクを伴います。この記事では、過去の事例を振り返りながら、短期解散が中長期政策に与える影響について解説します。

異例づくしの解散

史上最短クラスの解散

今回の衆院解散は「異例づくし」と言えます。解散する1月23日時点での衆院議員の在任期間は、任期4年の3分の1にも満たない454日でした。内閣不信任決議による解散を除けば、これは史上最短の記録となります。

通常国会での冒頭解散は1966年の佐藤内閣以来60年ぶりで、1月に召集される形式となった1992年以降では初めてのことです。投票日が2月8日になれば、解散から投票まで史上最短の16日となり、36年ぶりの1月解散と合わせて記録ずくめの選挙となります。

解散の理由と背景

鈴木俊一自民党幹事長は、解散の理由について「連立のパートナーが変わったが国民の審判を受けていない。政策合意の内容について審判を受ける必要がある」と説明しました。自民党と日本維新の会との新たな連立政権の信を問う考えです。

また、高市首相は「責任ある積極財政」や「防衛三文書の見直し」といった新たな政策について、国民からの信認を得たいとし、首相としての進退を懸けると断言しました。内閣支持率が朝日新聞の調査で68%と高水準にあることも、解散判断の追い風となったと見られています。

短期解散の歴史的背景

55年体制以降の解散パターン

1955年に自民党が結党し、比較的安定した政治体制となった「55年体制」以降、衆議院は26回の解散を経験しています。しかし、任期4年のうち折り返しの2年を経ずに解散したケースはわずか3回しかありません。

衆議院議員の任期を満了した選挙は、戦後約70年間でたった1回、1976年の三木内閣による「ロッキード選挙」のみです。このため、衆議院議員には「常在戦場」という心構えが求められてきましたが、それでも任期の3分の1未満での解散は極めて珍しいことです。

過去の短期解散の事例

直近の類似事例として、1990年の海部俊樹内閣による解散があります。1月24日に衆院を解散し、2月18日に投開票が行われました。この時、政府は10兆円規模の暫定予算を組みましたが、暫定期間中に当初予算成立に至らず、「暫定補正予算」まで編成するという異例の事態に陥りました。当初予算の成立には6月上旬までかかっています。

予算審議への深刻な影響

年度内成立が困難に

例年、通常国会では当初予算案や税制改正関連法案を優先して審議し、3月末までに成立させるのが通常の流れです。しかし、冒頭で解散すれば国会への予算案提出は大きく遅れ、当初予算の成立は4月以降にずれ込む公算が大きくなります。

高市首相の解散決定を受け、政府は社会保障費や公務員の人件費など最低限の支出を賄う暫定予算を11年ぶりに編成する方針です。暫定予算とは、年度開始までに本予算が成立しない場合に、空白期間をつなぐために組まれる予算のことです。

暫定予算の限界

暫定予算は「行政の空白を防ぐ」ことが目的であるため、新しい政策や事業は盛り込まれません。主な項目は、経常的経費(人件費、事務費など)、継続事業費(既に進行中の公共事業や契約に関する支出)、最低限の社会保障費(年金、医療、福祉など)、国債費(国債の利払いなど)に限られます。

2015年には、安倍政権下で実施した前年12月の衆院選の影響で予算案提出が遅れ、4月1日から11日までの分として一般会計歳出5兆7593億円の暫定予算が編成されました。

国民生活への影響

新規施策の先送り

暫定予算には新規施策が盛り込まれないため、政府が4月から予定していた政策の実施が遅れる可能性があります。具体的には、高校授業料の無償化や小学校の給食費無償化などが影響を受ける可能性があります。

年度内に予算措置がなされなければ、各自治体が一時的に財源を立て替えるなどの混乱が生じる可能性もあります。また、自動車税の「環境性能割」や油の暫定税率廃止といった看板政策も、3月末までに法案が成立しなければ新年度の実施は先送りとなります。

自治体への負担

解散に伴う選挙の実施は、地方自治体にも大きな負担をもたらします。通常、自治体は2月から3月にかけて翌年度予算の編成作業を行っていますが、選挙事務が重なることで職員の負担が増大します。

特に今回は、1月27日公示、2月8日投開票という日程が有力視されており、年度末の繁忙期と重なることで自治体職員への負担は一層大きくなると懸念されています。

公費負担の増大

選挙にかかる費用

衆院選には毎回600億円から700億円の費用がかかります。2014年の衆院選では616億9,335万円が支出され、有権者数約1億400万人で割ると、一票あたり約600円かかった計算になります。原資はすべて国民の税金です。

費用の内訳を見ると、投票所の運営や期日前投票の対応に必要な「一般経費」が約365億円と最も大きな割合を占めています。また、選挙公報の発行やポスター掲示板の設置など候補者にかかる「公営費」も約251億円となっています。

短期間での解散が費用を膨らませる理由

任期4年を全うすれば、選挙は4年に1回で済みます。しかし、短期間で解散を繰り返せば、その分だけ選挙費用が膨らみます。前回選挙から1年3カ月での解散は、単純計算で通常の3倍近いペースで選挙を行うことになり、公費負担の観点からも問題があります。

中長期政策への影響

政策の継続性が損なわれるリスク

短期間での解散は、政策の継続性を損なうリスクがあります。長期的な視野を持った政策立案には、ある程度の政権の安定が必要です。頻繁な選挙は、政治家の関心を短期的な選挙対策に向けさせ、中長期的な政策課題への取り組みを後回しにさせる傾向があります。

特に、少子高齢化対策や財政再建、エネルギー政策など、成果が出るまでに時間がかかる政策は、短期的な政権交代のリスクがあると思い切った決断がしにくくなります。

国会審議の空洞化

解散により国会審議が中断されることで、政策の詳細な検討が行われないまま選挙戦に突入するケースもあります。今回も、2026年度予算案について十分な国会審議が行われないまま、有権者は投票先を決める必要があります。

野党からは「国民生活を政局の犠牲にしている」「経済後回し解散」との批判が出ています。一方、高市首相は補正予算で物価高対策などに取り組んでいるとし、「万全の態勢を整えた上での解散だ」と反論しています。

まとめ

短期間での衆院解散は、予算審議の停滞、公費負担の増大、中長期政策へのリスクなど、さまざまな問題を伴います。55年体制以降、任期折り返し前の解散がわずか3回しかないのは、こうしたリスクを歴代政権が認識してきたからとも言えます。

有権者としては、各党の政策を比較検討するとともに、解散のタイミングや理由についても批判的に評価することが重要です。選挙は民主主義の根幹ですが、それが頻繁に行われることで政策の継続性や国民生活に悪影響を及ぼすのであれば、そのバランスについて考える必要があります。今回の選挙を通じて、政治の安定と国民生活の向上について、改めて考える機会としていただければ幸いです。

参考資料:

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