東京電力HD、6410億円赤字へ デブリ対応費用が重荷
はじめに
東京電力ホールディングス(HD)は2026年1月26日、2026年3月期の連結最終損益が6410億円の赤字になる見通しだと発表しました。前期は1612億円の黒字でしたが、一転して大幅な赤字に転落します。
赤字転落の主因は、福島第一原子力発電所の廃炉にかかる費用です。溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しに向けた費用を特別損失として計上することで、巨額の赤字を計上することになります。
同日には政府が新たな経営再建計画「第5次総合特別事業計画」を認定。東京電力は廃炉と経営再建という二つの難題に同時に取り組むことになります。本記事では、決算見通しの詳細と今後の展望を解説します。
2026年3月期決算見通しの詳細
売上高と経常利益
東京電力HDの2026年3月期の売上高は、前期比5%減の6兆4620億円を見込んでいます。販売電力量の減少などが響く見通しです。
一方、経常利益は前期比9%増の2770億円を見通しています。これは、燃料価格の変動が電気代へ遅れて反映される「期ずれ差益」が好転するためです。燃料費調整制度により、燃料価格下落の恩恵が遅れて反映されます。
巨額の特別損失
最終損益が大幅な赤字となる原因は、特別損失の計上です。福島第一原発の事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しに向けた費用として9041億円を計上します。また、原子力損害賠償費として706億円も見込んでいます。
これらの特別損失が経常利益を大きく上回り、最終損益は6410億円の赤字となる見通しです。
業績予想の背景
東京電力は、これまで2026年3月期の業績予想を「未定」としていました。その理由は、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の再稼働時期を見通せなかったためです。
同原発6号機は2026年1月21日に再稼働しましたが、機器の不具合で原子炉を停止する事態も発生しています。不確定要素が多い中での業績予想発表となりました。
デブリ取り出しの現状と課題
デブリとは
デブリ(debris)とは、2011年の福島第一原発事故で原子炉内で溶け落ちた核燃料のことです。1〜3号機には合計で約880トンのデブリがあると推定されています。
このデブリは高い放射線を発しており、人間が近づくことができません。取り出しには前例のない技術開発が必要であり、「前人未到の廃炉事業」と呼ばれています。
試験的取り出しの成功
東京電力は2024年11月、2号機から約0.7グラムの燃料デブリの試験的取り出しに初めて成功しました。これは小さな一歩ではありますが、880トンという膨大な量のデブリ全体を取り出すまでには、気の遠くなるような道のりが待っています。
3号機の本格取り出し計画
3号機のデブリ本格取り出しは2037年度以降とされています。建屋の上部に開けた小さな穴から装置を入れて、充塡材を注入しながらデブリを細かく砕き、建屋の横から取り出す計画です。
この準備工程だけで9000億円規模の費用が必要となり、作業の準備には12〜15年ほどかかる見込みです。
廃炉目標への影響
政府と東京電力の中長期ロードマップでは、廃炉完了時期を2041〜2051年としています。しかし、3号機のデブリ取り出し開始が2037年度以降となることで、この目標達成に暗雲が立ち込めています。
廃炉完了までの総費用については、当初想定を大きく上回る可能性が指摘されており、国民負担の増加も懸念されています。
第5次総合特別事業計画の認定
新再建計画の認定
政府は2026年1月26日、東京電力の新たな経営再建計画「第5次総合特別事業計画」を認定しました。東京電力は1月9日に国に申請していたもので、国や金融機関の支援を受ける条件となります。
東京電力は福島第一原発事故以降、4次にわたる総合特別事業計画のもとで経営改革を進めてきました。今回の第5次計画は、第4次計画策定(2021年8月)以降の事業環境の変化を踏まえて策定されました。
計画の主な柱
新再建計画の柱は、外部企業との資本関係を含めた提携の拡大です。国内外の投資ファンドや事業会社を念頭に、パートナー候補から広く提案を募集するとしています。
電力需要の増加や脱炭素の要請に応え、原発や再生可能エネルギーへの投資、データセンター向け送電網の増強などを進める方針です。東京電力HD本体や事業子会社などへの出資も含めて、民間企業との提携戦略を広く募る計画です。
「最難関の新たな局面」
新再建計画では、現在の状況を「民間企業としては類を見ないほど、時間的にも経済的にも最難関な新たな局面」と表現しています。廃炉費用の増大と経営再建の両立という難題に直面していることを率直に認めた内容となっています。
柏崎刈羽原発の再稼働
6号機の再稼働
東京電力は2026年1月21日、柏崎刈羽原子力発電所6号機の原子炉を起動し、再稼働させました。東京電力の原発が再稼働するのは、2011年の福島第一原発事故後初めてのことです。
営業運転開始は2026年2月26日を予定しています。首都圏の電力需給安定に貢献することが期待されています。
地元同意の経緯
新潟県の花角英世知事は2025年11月21日に再稼働への同意を表明しました。2025年12月22日には新潟県議会が知事を信任する決議案を可決し、翌23日に知事が経済産業大臣に正式に地元同意を伝達しました。
地元同意の取得までには長い年月を要しましたが、福島第一原発事故を起こした東京電力への不信感が根強かったことを示しています。
7号機の課題
7号機については、テロ等発生時対処施設(特定重大事故等対処施設)の完成が遅れているため、設置期限を迎える2025年10月以降、3〜4年程度運転できない状況となりました。
また、6号機についても2029年9月に特重施設の設置期限を迎えますが、工事完了は2031年度半ばを予定しているため、長期間の運転停止が見込まれています。
今後の見通しと注意点
経営の不透明感
東京電力の経営には多くの不確定要素が存在します。デブリ取り出し費用の追加発生、柏崎刈羽原発の稼働状況、電力需要の変動など、業績を左右する要因は複数あります。
特にデブリ取り出しについては、技術的な困難さから計画通りに進まない可能性があり、費用がさらに膨らむリスクも否定できません。
国民負担の問題
福島第一原発の廃炉費用は、最終的には電気料金などを通じて国民が負担することになります。廃炉費用の総額がどこまで膨らむのか、その見通しは依然として不透明です。
東京電力は原子力損害賠償・廃炉等支援機構から資金援助を受けており、2021年度末時点で累計10兆2282億円に達しています。この支援は将来的に電力消費者が負担することになります。
資産売却の方針
東京電力は、3年以内に2000億円規模の資産売却を目指す方針も明らかにしています。経営効率化を進めながら、廃炉と賠償の責任を果たすための資金確保に取り組む考えです。
まとめ
東京電力HDの2026年3月期における6410億円の最終赤字見通しは、福島第一原発の廃炉という「前人未到」の課題の重さを改めて示すものです。デブリ取り出しに向けた費用の計上が主因であり、廃炉完了までにはさらなる費用増加も予想されます。
政府認定の第5次総合特別事業計画のもと、東京電力は外部企業との提携拡大などで経営基盤の強化を図ります。柏崎刈羽原発6号機の再稼働は明るい材料ですが、7号機の長期停止や特重施設の工事遅延など課題も山積しています。
福島第一原発事故から15年が経過しましたが、廃炉と経営再建の道のりはまだ途上にあります。今後も東京電力の動向と、国民負担の問題に注目が必要です。
参考資料:
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