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by nicoxz

テスラがBYD逆転、中国と欧州の回復が示すEV競争の新局面と実像

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はじめに

テスラが2026年1〜3月期の世界販売で前年同期比6.3%増の35万8023台を確保し、四半期ベースで再びBYDを上回りました。数字だけを見ると、販売不振を脱したようにも映ります。ただし、この反発は一枚岩ではありません。テスラの公式開示は世界合計と車種別にとどまり、中国や欧州の地域別販売は公表されていないためです。

そこで重要になるのが、中国のCPCAデータや欧州の登録統計です。これらを突き合わせると、テスラの回復は中国単体というより、上海工場の出荷持ち直しと欧州登録の反転が重なった結果だと見えてきます。一方、BYDは総販売では依然として巨大ですが、純EVでは減速が鮮明です。この記事では、両社の数字を同じ土俵に置き直し、今回の逆転が何を意味するのかを整理します。

テスラ反発の実像

世界販売の回復と在庫の膨らみ

テスラが4月2日に公表した1〜3月の世界販売は35万8023台、生産は40万8386台でした。販売は前年同期を上回りましたが、生産が販売を5万363台も上回っており、需要回復がそのまま収益改善に直結するとは言い切れません。四半期末に欧州向け輸送が偏る同社の物流特性を考慮しても、在庫や輸送中車両の積み上がりには注意が必要です。

車種別では、主力のModel 3とModel Yが34万1893台と大半を占めました。つまり今回の反発は、新車種の大きな押し上げではなく、既存の量販モデルの戻りで説明するのが自然です。ロイターは、テスラが2025年後半から米欧でより安価なModel YとModel 3を順次投入したことが、欧州登録の反転に寄与したと報じています。今回の増加は、2025年の低い比較対象からの回復という面も強いです。

そのため、35万台台後半という数字は「底打ち確認」と「完全復調」の中間にあります。前年比では持ち直した一方、販売の勢いだけでみれば過去の高成長局面には戻っていません。テスラの反発を評価するなら、販売台数そのものより、地域別の質と継続性を見る必要があります。

中国市場で見える回復の兆し

中国関連では、上海工場の出荷が改善しています。ロイターによると、上海工場で生産されたModel 3とModel Yの3月販売は8万5670台で、前年同月比8.7%増でした。これで5カ月連続の増加となり、1〜3月累計でも前年同期比23.5%増です。ここでいう「中国製販売」には欧州などへの輸出分も含まれるため、中国国内需要だけを示す数字ではありませんが、少なくとも上海拠点の稼働と出荷が戻ってきたことは確認できます。

もっとも、中国市場での競争圧力が弱まったわけではありません。ロイターは、テスラの中国EV市場シェアが2024年の10%から足元では8%へ低下したと伝えています。つまり中国で見えているのは、圧勝ではなく「シェア低下局面からの持ち直し」です。今回の四半期回復は、中国国内販売の完全復権というより、上海工場の輸出機能を含む供給正常化の寄与が大きいとみるべきです。

BYD減速と欧州攻防

欧州登録の反転と需要環境

欧州では、市場環境そのものが2025年より好転しています。ACEAによると、EUの2026年1〜2月の新車登録は前年同期比1.2%減でしたが、バッテリーEVは31万2369台で市場シェア18.8%を占め、前年の15.2%から上昇しました。EV需要そのものは拡大しており、テスラにだけ逆風が吹いている局面ではなくなっています。

ロイターは、欧州全体の2月新車登録が97万9321台と1.7%増えるなか、テスラの2月登録が前年同月比11.8%増となり、2024年12月以来の増加に転じたと報じました。さらにフランスでは3月登録が9569台と前年同月比203.1%増、1〜3月累計でも1万3945台と108%増でした。テスラが地域別販売を公表していない以上、欧州回復は登録統計からの推定ですが、今回の四半期反発を支える有力な根拠です。

ここで見逃せないのは、欧州の反転が中国からの輸出回復ともつながっている点です。ロイターは上海工場出荷の増加について、回復する欧州需要が押し上げ要因だと伝えています。中国と欧州は別々の市場に見えても、上海工場をハブにしたテスラの供給網では一体で動きやすい構造です。今回のテスラ反発は、地域別販売の二正面作戦というより、上海を軸にした需給正常化の戻りと理解するとつながりやすいです。

BYD減速の構造要因と比較軸

BYDの失速は、テスラ反発を理解するうえで不可欠です。BYDの1月の乗用車BEV販売は8万3249台、2月は7万9539台、3月は14万7601台でした。これを合計すると、1〜3月の純EV販売は31万389台になります。前年の同期間は12万5377台、12万4902台、16万6109台で、合計41万6388台でした。筆者集計では、BYDの純EV販売は前年同期比で約25.5%減です。テスラがBYDを上回ったのは、この純EV同士の比較で見た場合です。

ただし、ここを混同すると見誤ります。BYDの1〜3月のNEV総販売は70万463台で、プラグインハイブリッドや商用車を含めると依然として圧倒的な規模です。テスラとの比較で「逆転」と言うときは、BYD総販売ではなく、純EVの四半期台数を指しているのかを必ず確認する必要があります。これは投資家も読者も陥りやすい典型的な誤解です。

BYDが純EVで減速した背景には、中国内需の鈍化と価格競争の激化があります。CnEVPostによると、BYDの2025年通期純利益は326.2億元で前年比19%減でした。会社側も価格競争による利益率圧迫を認めています。それでもBYDは海外拡大を止めておらず、ロイターによれば2026年の海外販売目標を150万台とすることに強い自信を示し、欧州とインドネシアの工場は2026年3月か4月に量産開始見通しです。今回の四半期逆転は、BYDの競争力消失ではなく、国内不振と海外拡大が同時進行する過渡期の現象とみるのが妥当です。

注意点と今後の焦点

今回の数字を読むうえで、注意点は三つあります。第一に、テスラの「中国と欧州で回復」は公式地域開示ではなく、上海工場出荷、中国小売、欧州登録からの推定です。方向感はかなり明確ですが、地域別の厳密な販売台数ではありません。第二に、テスラ35万8023台とBYD31万389台の比較は純EV基準であり、BYD総販売70万463台とは別物です。第三に、テスラは生産が販売を5万台超上回っており、反発の質にはなお検証余地があります。

今後の焦点は、2026年4月22日のテスラ決算で販売回復が利益率にどうつながるか、そして4月下旬に出るACEAの3月欧州統計で反転が広がっているかです。BYD側では、中国国内の価格競争が続く一方、海外販売比率が急上昇しており、欧州での競争はむしろこれから本格化する可能性があります。2026年のEV競争は、台数首位の奪い合いより、どの地域で利益を残せるかという局面に入りつつあります。

まとめ

テスラの1〜3月反発は、単なる一時的な数字合わせではなく、中国製出荷の回復と欧州登録の反転に支えられた現象です。ただし、その中身は低い前年ハードルと物流正常化の寄与も大きく、生産超過が残る点には警戒が必要です。

一方のBYDは、純EVでは減速してテスラに四半期首位を明け渡しましたが、NEV総販売の規模と海外投資の勢いはなお大きいです。今回の逆転は、テスラ復活の決定打というより、BYDの国内調整とテスラの欧中持ち直しが交差した一局面とみるのが実態に近いです。次の注目点は、両社が台数ではなく収益性と地域戦略でどこまで差をつけられるかです。

参考資料:

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