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by nicoxz

タイ経済「アジアの病人」成長率2.4%の深層

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はじめに

タイの2025年の実質国内総生産(GDP)成長率が前年比2.4%増にとどまり、東南アジア主要6カ国(ASEAN-6)のなかで最低を記録しました。同年のベトナムが約8%、インドネシアが約5%、マレーシアが約5%の成長を遂げるなか、タイの低成長は際立っています。

かつて「東南アジアの優等生」と呼ばれたタイ経済は、いまや「アジアの病人」とまで評されるようになりました。この低迷は一時的なものではなく、過去10年にわたってASEAN域内で最低水準の成長率が続く構造的な問題です。本記事では、タイ経済が直面する複合的な課題と、2026年2月の総選挙後に求められる政策対応について解説します。

数字が示す低迷の実態

ASEAN-6との比較で鮮明な差

タイ国家経済社会開発評議会(NESDC)が発表した2025年通年のGDP成長率は2.4%でした。2024年の2.9%からさらに減速し、2021年第3四半期以来の低い伸びとなっています。

同時期の他のASEAN主要国と比較すると、その差は歴然です。ベトナムは第3四半期だけで前年同期比8.22%の成長を記録し、マレーシアは5.2%、インドネシアは5.04%と堅調でした。フィリピンも国内課題を抱えつつタイを上回る成長率を維持しています。東南アジア全体のGDP成長率予測が4.5%前後であることを踏まえると、タイの2.4%は地域平均を大きく下回る水準です。

10年続く低成長の構造

タイの低迷は2025年に始まったものではありません。タイ国営クルンタイ銀行のパヨン頭取は「タイ経済は過去10年間、ASEANで最低の成長率を記録している」と指摘しています。投資の低迷と資本流出が慢性化しており、経済の活力が失われてきました。

SCB経済情報センター(EIC)は2026年の成長率をわずか1.5%と予測しており、危機期間を除けば過去30年で最低水準になる可能性があります。構造改革なしには、低成長の固定化が避けられない状況です。

三重苦に直面するタイ経済

観光業の回復遅れ

タイ経済の柱である観光業は、コロナ禍からの回復が想定以上に遅れています。タイ観光評議会の予測では、2025年の観光収入は1.52兆バーツと、コロナ前の水準を20%以上下回りました。

外国人観光客数は回復途上にあるものの、中国人観光客の戻りが鈍く、1人当たりの消費額も減少傾向にあります。かつてのような「量と質」を兼ね備えた観光需要の回復には時間がかかる見通しです。

バーツ高が輸出と観光を直撃

2025年に入り、タイバーツは対米ドルで約8%上昇しました。通貨高は輸入コストを下げる一方で、輸出企業の価格競争力を大きく損ないます。特に農産物、加工食品、繊維製品などの主力輸出品への打撃は深刻です。

観光業にとっても、バーツ高は外国人観光客の実質的な旅行コストを押し上げ、近隣のベトナムやインドネシアへの旅行者流出を招いています。タイ中央銀行はバーツ高への対応を課題として認識し、政策金利を1.25%まで引き下げましたが、通貨安定化には至っていません。

家計債務の重荷

タイの家計債務は深刻な水準に達しています。2025年第1四半期時点で、家計・企業債務の合計はGDP比170%に達しました。これはマレーシアの157%を上回り、インドネシアの40%とは比較にならない高さです。

家計の所得の伸びが支出の増加に追いつかず、特に低所得層で債務返済の負担が重くなっています。不良債権比率は高止まりしており、多くの家計が消費を切り詰めて債務の返済に充てている状況です。この消費抑制が内需の低迷に直結し、経済全体の成長を押し下げる悪循環が生じています。

総選挙後の政策課題と展望

アヌティン政権の経済政策

2026年2月8日に実施されたタイ下院総選挙では、アヌティン・チャーンウィラクン首相率いるブムジャイタイ党が500議席中193議席を獲得し、圧勝しました。アヌティン首相は約20年ぶりに選挙で再任されるタイの指導者となる見通しです。

アヌティン氏は「経済の専門性をもって国を困難な状況から脱却させる」と表明し、年間成長率3%の達成を公約に掲げています。具体策として、電気自動車(EV)、医療・ウェルネス、バイオテクノロジー、デジタル経済など新興分野の育成を打ち出しています。

構造改革の不在という懸念

しかし、専門家からは構造改革の不在を指摘する声が上がっています。シンクタンクFULCRUMの分析によれば、2026年の選挙キャンペーンでは各党とも構造改革を避ける傾向が見られました。福祉カードの拡充や中小企業支援といった短期的な施策は打ち出されていますが、産業構造の転換や教育改革、デジタル化推進といった中長期的な課題への取り組みは不十分です。

また、政権発足までに連立交渉で時間がかかる可能性があり、政策実行の遅れも懸念されます。米国による19%の関税やカンボジアとの国境紛争など外部環境も厳しく、タイ経済の回復には複数のハードルが存在します。

まとめ

タイの2025年GDP成長率2.4%は、単なる景気循環ではなく、10年にわたる構造的低迷の延長線上にあります。観光業の回復遅れ、バーツ高による輸出競争力の低下、そしてGDP比170%に達する家計債務の三重苦が、内需と外需の両面から成長を抑制しています。

アヌティン政権は年間3%成長を目標に掲げていますが、短期的な景気刺激策だけでは「アジアの病人」からの脱却は困難です。産業構造の高度化、家計債務の管理、観光業の質的転換といった構造改革に正面から取り組めるかどうかが、タイ経済の中長期的な命運を左右するでしょう。

参考資料:

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