東京オフィス需要が過去最高、供給不足で争奪戦が激化
はじめに
東京のオフィス市場が、かつてないほどの逼迫状態に陥っています。不動産サービス大手CBREの調査によると、2025年の東京23区における新規オフィス需要は過去最高を記録しました。一方で、新規供給はその約半分にとどまり、需給ギャップが急速に拡大しています。
この背景には、企業業績の回復に伴う移転・拡張需要の急増と、建築費高騰や人手不足による新規ビルの竣工遅延が重なっています。本記事では、東京オフィス市場の最新動向と、企業が直面する課題について詳しく解説します。
過去最高を記録した新規オフィス需要
企業の拡張意欲が需要を押し上げる
2025年の東京23区における新規オフィス需要は、前年比で大幅に増加しました。これは単なる景気循環による一時的な現象ではなく、構造的な変化を反映しています。
企業がオフィスを拡張・移転する主な理由として、JLL(ジョーンズ ラング ラサール)の調査では以下の傾向が報告されています。より立地の良いビルへの移転希望が33%、新部門設立や事業拡大が26%、より高スペックなビルへの移転が25%です。
コロナ禍でリモートワークが広がった時期には「オフィス不要論」も囁かれましたが、現在は出社回帰の流れが鮮明になっています。企業はオフィスを単なる作業場ではなく「価値を創造する場」として再評価しており、優秀な人材を確保するための投資として、より魅力的なオフィス環境を求める傾向が強まっています。
空室率は記録的な低水準に
東京都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)の平均空室率は、2025年11月時点で2.44%まで低下しました。これは9カ月連続の低下であり、実質的な「満室」に近い水準です。
特に丸の内・大手町エリアでは空室率がわずか0.1%と、ほぼ完全に埋まった状態です。Aグレードオフィスに限れば、2025年第3四半期末に空室率0%台に到達したとCBREは報告しています。
供給が追いつかない構造的要因
建築費高騰と人手不足の二重苦
新規オフィスビルの供給が需要に追いつかない最大の要因は、建設コストの急激な上昇です。建築資材の価格高騰に加え、建設業界の慢性的な人手不足が工期の延長を招いています。
森トラストの調査によると、計画発表時点から竣工時期が後ろ倒しとなったビルが複数確認されています。建築費高騰を背景とした工期延長や計画見直しが主な要因です。さらに、事業性の観点から計画自体を白紙に戻すケースも顕在化しています。
2024年の東京23区における大規模オフィスビルの供給量は約64万平方メートルにとどまり、前年の138万平方メートルを大きく下回りました。この傾向は2025年以降も続く見込みです。
2027年は「供給の谷」に
今後5年間の供給見通しでは、2025年・2026年・2029年には100万平方メートル超のまとまった供給が予定されています。しかし2027年は過去20年間で最も少ない供給量となる見込みです。
5年間の平均供給量は約95万平方メートルと、過去20年間の平均である104万平方メートルを下回る水準にとどまります。2028年から2029年にかけては過去最大級の供給計画がありますが、建築費高騰の影響でこれらも縮小・延期される可能性が指摘されています。
賃料上昇と企業への影響
主要エリアで二桁上昇も
需給逼迫を反映し、オフィス賃料は力強い上昇を続けています。2025年第3四半期時点のAグレードオフィスの平均賃料は坪あたり37,042円で、前年同期比7.5%の上昇です。
エリア別では、丸の内・大手町が前年比12.8%増、新宿・渋谷が同12.3%増と、二桁の上昇率を記録しています。これらのエリアでは空室がほとんどなく、新規入居を希望する企業は大幅な賃料上昇を受け入れざるを得ない状況です。
中小企業への波及も懸念
賃料上昇の影響は、大企業だけでなく中小企業やスタートアップにも及びます。都心部での立地が難しくなり、周辺エリアへの分散や、コワーキングスペースの活用を検討する動きも出てきています。
企業にとっては、人材確保のために魅力的なオフィス環境を維持したいという要求と、コスト管理のバランスが一段と難しくなっています。
注意点・展望
今後の見通し
日本不動産研究所の予測では、2026年から2027年にかけて新規供給が減少するため、空室率はさらに低下し、賃料は年3%程度の上昇が続く見込みです。
ただし、景気後退や企業業績の悪化が生じた場合には需要が減退する可能性もあります。また、リモートワークの再拡大やAI活用による業務効率化が進めば、オフィス面積の見直しが進む可能性もゼロではありません。
企業が取るべき対応策
現在の市場環境では、オフィス移転や拡張を検討している企業は、早めの意思決定が求められます。新築ビルの内定率は2024年竣工物件で8割超、2025年・2026年竣工物件でも6〜7割に達しており、好条件の物件は竣工前に埋まる傾向が顕著です。
既存のオフィスレイアウトの最適化や、サテライトオフィスの活用といった柔軟な対応策も検討に値します。
まとめ
東京のオフィス市場は、過去最高の需要と供給不足が同時に進行する異例の状況にあります。建築費高騰や人手不足による供給制約は短期的に解消される見込みは薄く、企業間のオフィス争奪戦は当面続くと予想されます。
オフィス移転や拡張を計画している企業は、市場動向を注視しながら、早期の意思決定と柔軟な戦略の構築が不可欠です。今後も東京オフィス市場の動向は、企業経営に大きな影響を与え続けるでしょう。
参考資料:
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