億ション購入層が激変、新型ローンの実態
はじめに
東京23区の新築マンション平均価格が1億3,613万円に達し、中古マンションでさえ平均1億1,485万円と19カ月連続で上昇を続けています。かつて「億ション」は一部の富裕層だけのものでしたが、いまや23区でマンションを買おうとすれば、億超えが当たり前の時代になりました。
この高騰する市場を支えているのは、投機マネーだけではありません。ペアローンや返済期間50年の超長期ローンなど、新しい住宅ローンの仕組みを活用して購入する「実需層」が急増しています。しかも、将来の売却益を見込んで頭金ゼロで購入するなど、かつての「住むための購入」とは異なるスタイルが広がっています。
本記事では、変貌する億ション購入層の実態と、新型ローンがもたらすリスクについて詳しく解説します。
東京23区マンション市場の現在地
3年連続1億円超えの衝撃
不動産経済研究所の調査によると、2025年の東京23区における新築分譲マンションの平均価格は前年比21.8%増の1億3,613万円を記録しました。これで3年連続の1億円超えとなり、都心6区に限れば平均1億9,503万円と、2億円の大台が目前に迫っています。
供給戸数は減少傾向にあるものの、価格上昇は止まる気配がありません。建設コストの高騰、用地取得費の上昇、そして旺盛な需要が重なり、2026年の供給見込みは約8,000戸にとどまると予測されています。限られた供給に対して需要が集中する構造が、価格をさらに押し上げているのです。
中古市場にも波及する価格高騰
新築の高騰は中古市場にも波及しています。東京23区の中古マンション平均価格は1億1,485万円に達し、19カ月連続で前年同月比を上回りました。新築が手の届かない価格になったことで中古に流れる需要も増加しましたが、その結果、中古価格まで押し上げられるという循環が生まれています。
23区全域で平均平米単価が100万円を超える状況となり、都心で起きていた「局地バブル」が周辺エリアにも拡大しつつあります。
新型ローンが生む「新しい億ション購入層」
ペアローン利用率が過去最高の4割に
マンション価格の高騰に対応するため、夫婦でそれぞれ住宅ローンを組む「ペアローン」の利用が急増しています。2024年にはペアローンの利用率が約4割に達し、過去最高水準を記録しました。
ペアローンでは夫婦それぞれが住宅ローン控除を受けられるメリットがあります。共働き世帯が増えた現代では、世帯年収を合算することで、単独では手が届かない物件の購入が可能になります。たとえば、夫婦それぞれが年収700万円であれば、世帯年収1,400万円として1億円前後の借り入れが視野に入ります。
50年ローンという選択肢
もう一つの大きな変化が、返済期間50年の「超長期住宅ローン」の登場です。auじぶん銀行が2025年1月から提供を開始したのを皮切りに、PayPay銀行が2025年6月、SBI新生銀行が2025年11月と、取り扱い金融機関が急速に拡大しています。
50年ローンの最大のメリットは、月々の返済額を大幅に抑えられる点です。3,000万円を金利2.0%で借りた場合、35年返済では月々約9万9,000円ですが、50年返済なら約7万9,000円に抑えられます。この差額を利用して、より高額な物件に手を伸ばす購入者が増えています。
東京都内の20代に限ると、「夫婦で超長期ローン」を利用する割合が直近で2割弱にまで急増しました。若い世代ほど、長い返済期間を前提とした購入戦略を取る傾向が顕著です。
頭金ゼロ購入の常態化
住宅購入者のうち頭金なしを選択する割合は、2014年から2023年の10年間で37.1%に達しました。これは1993年以前の16.0%と比較すると約2.3倍の増加です。
頭金を入れずにフルローンで購入し、浮いた資金は投資に回す。あるいは、将来の売却益で利益を得ることを前提に、手元資金を温存する。こうした「投資家的な発想」で自宅を購入する実需層が増えているのです。
実需と投資の境界が消える時代
「住む」と「増やす」の両立
従来、マンション購入は「住むため」か「投資のため」か、明確に区別されてきました。しかし現在の億ション市場では、この境界が急速に曖昧になっています。
自分が住みながら、数年後に値上がりしたタイミングで売却する。頭金を入れず、月々の支払いを賃貸並みに抑えて、差額を資産運用に回す。こうした「住みながら資産形成する」スタイルが、特に30代・40代の共働き世帯を中心に広がっています。
パワーカップルの台頭
世帯年収1,500万円以上のいわゆる「パワーカップル」が、億ション市場の重要な購入層となっています。ペアローンを活用すれば、1億円を超える物件でも月々の返済は一人あたり15万円程度に収まるケースもあり、都心のタワーマンションの家賃相場と大差がありません。
「高値つかみが怖くて一生賃貸も考えたが、同じ金額を払うなら資産になる方がいい」という判断は、合理的に見えます。しかし、この判断の前提には「マンション価格は今後も下がらない」という楽観的な見通しが含まれています。
注意点・展望
金利上昇がもたらすリスク
日銀は利上げを進めており、政策金利は0.75%程度と30年ぶりの水準に達しました。変動金利は2026年中に1%前後に到達することがほぼ確実視されています。50年ローンは金利上昇の影響を受ける期間が極めて長く、わずかな金利上昇でも総返済額は数百万円単位で膨らみます。
3,000万円を金利2.0%で50年借りた場合の総利息は約1,748万円ですが、35年なら約1,174万円で済みます。期間を15年延ばすだけで約574万円の差が生じるのです。
残債割れリスクの深刻さ
50年ローンでは元本の減り方が遅いため、物件の資産価値が下落した場合に「残債割れ」が起きやすくなります。つまり、売却してもローンを完済できない状態に陥るリスクがあるのです。将来の売却を前提とした購入戦略は、市場が下落局面に入ると一気に破綻する可能性があります。
専門家の間では、2026年は不動産市場の「三極化」がより鮮明になると予測されています。都心の一等地は底堅い一方で、二番手・三番手のエリアでは価格調整が始まる可能性があり、すべてのマンションが値上がりする時代は終わりを迎えつつあります。
まとめ
東京23区のマンション市場は、ペアローンや50年ローンといった新しい金融商品の普及により、かつてない幅広い層が億ション市場に参入できるようになりました。しかし、実需と投資の境界が薄れることで、住宅購入にまつわるリスクも従来とは異なる形で増大しています。
購入を検討する際は、金利上昇シミュレーション、残債割れリスクの確認、繰り上げ返済計画の策定など、慎重な資金計画が不可欠です。「借りられる額」と「返せる額」は違うという基本を忘れずに、長期的な視点で判断することが重要です。
参考資料:
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