トヨタ新工場と外国人労働者——「新MADE IN JAPAN」への挑戦

by nicoxz

はじめに

トヨタ自動車は2030年代、約20年ぶりとなる国内新工場を愛知県豊田市に立ち上げます。しかし、この新工場から北にわずか5キロメートルの場所には、住民の6割が外国人という「保見団地」があります。

約6200人が暮らすこのマンモス団地では、自動車部品会社で働く人が多く、トヨタのサプライチェーンを陰で支えてきました。外国人が目立ち始めたのは1990年代。日本の外国人労働者問題を30年先取りする形で、共生と課題の歴史を刻んできた場所です。

2040年には1100万人の労働力不足が予測される日本。「新MADE IN JAPAN」の担い手として、外国人労働者との共生はどのように進むのでしょうか。

トヨタ新工場——20年ぶりの国内投資

2030年代初頭の稼働を目指す

トヨタ自動車は、愛知県豊田市に車両工場を新設することを発表しました。2030年代初頭の稼働開始を目指しており、生産車両については今後検討していく予定です。

国内での新工場建設は約20年ぶりとなります。トヨタの国内工場の多くは老朽化が進んでおり、競争力の維持向上と環境負荷低減の取り組みを加速するため、新工場の整備が喫緊の課題となっていました。

建設予定地は「豊田貞宝次世代産業地区」で、愛知県および豊田市、地域住民などのステークホルダーの協力を得ながら進められます。

国内生産回帰の文脈

この新工場計画は、日本の製造業における「国内回帰」の動きの一環として注目されています。円安や地政学リスク、サプライチェーンの強靭化といった観点から、国内生産の重要性が見直されています。

一方で、少子高齢化による労働力不足は深刻化しており、新工場の稼働には人材確保が大きな課題となります。

保見団地——外国人共生30年の教訓

住民の6割が外国人

トヨタ新工場予定地から北に約5キロメートルの場所に、保見団地があります。愛知県豊田市保見ヶ丘にあるこの住宅団地は、特に南米出身者の居住率が高いことで知られています。

1990年の入管法改正により日系人の単純労働が認められると、トヨタをはじめとする自動車関連工場での労働力として多くの移民がやってきました。当初は日本人向けに建てられた団地でしたが、予定どおり埋まらなかったことから、企業が買い上げて外国人労働者の社宅として利用されるようになりました。

現在、約6200人が暮らすこの団地では、住民の約6割が外国人です。多くが自動車部品会社で働いており、トヨタのサプライチェーンを支える存在となっています。

30年にわたる共生の取り組み

保見団地は、日本の外国人労働者問題を30年先取りする形で、さまざまな課題と向き合ってきました。かつては治安への懸念や文化的摩擦が報じられることもありましたが、団地の自治会や豊田市の国際まちづくり推進課が一丸となり、ブラジル人住民との共生に取り組んできました。

その成果は確実に現れているとされています。多言語での情報提供、異文化理解イベントの開催、生活ルールの共有など、地道な努力が積み重ねられてきました。

高齢化という新たな課題

しかし、新たな課題も浮上しています。1990年代に来日した外国人労働者も高齢化が進み、孤独死も相次いでいます。日本人住民からは「治安よりも、高齢化や福祉の問題が深刻」との声も聞かれます。

外国人労働者を「一時的な労働力」としてではなく、地域社会の一員として受け入れ、長期的に共生していくための仕組みづくりが求められています。

日本の労働力不足——2040年に1100万人不足

深刻化する人手不足

日本銀行の短観調査によると、2025年第2四半期時点で雇用人員判断指数は全産業で-35となり、過去30年で最も深刻な水準の一つとなっています。労働力不足は医療、建設、製造業など幅広い業種で顕在化しています。

リクルートワークス研究所の推計では、2040年には国内で1100万人の労働力が不足する見通しです。65歳以上人口は全人口の約30%に達すると予測されています。

外国人労働者の急増

外国人労働者数は、2008年の約50万人から2024年には230万人へと4倍に増加しました。労働力全体に占める割合は約3%に過ぎませんが、2023年から2024年の労働力成長への貢献度は50%を超えています。

出身国別ではベトナム(25%)と中国(18%)が最大のシェアを占めています。製造業やサービス業での雇用が中心です。

自動車産業への影響

自動車産業は日本のGDPの2.9%、製造業GDPの13.9%を占める基幹産業です。しかし、出生率の低下と高齢化により、深刻な労働力不足に直面しています。

製造業ではロボット導入のペースが加速していますが、それでも人手不足を完全にカバーすることは困難です。「人を雇うより、ロボットを入れる方がコスパが高い」状況が生まれる一方で、複雑な組立作業や品質管理には依然として人の手が必要です。

政策の転換——外国人労働者受入れの拡大

123万人受入れ計画

日本政府は、2028年度までに主要な労働移住プログラムで約123万人の外国人労働者を受け入れる計画を発表しました。これは労働力不足解消を目指す大規模な制度改革の一環です。

新設される「特定技能」制度では、19分野で約80万5700人の労働者が、2026年度から3年間(更新可能)働けるようになります。

技能実習制度の廃止と新制度

長年批判されてきた技能実習制度は、2027年に「育成就労制度」へと移行します。技能実習制度は1993年に設立されましたが、安価な労働力確保の手段として使われ、過酷な労働条件や人権侵害が問題視されてきました。

新制度では、労働者の転職の自由を拡大し、より人権に配慮した形での人材育成・確保を目指します。

日本の魅力低下への懸念

一方で、近隣国の賃金上昇により、日本が外国人労働者にとって魅力的な就労先でなくなることへの懸念も広がっています。工場、漁業、各種作業場で外国人労働者が欠かせない存在となる中、経営者からは「このままでは人材を確保できなくなる」との声が上がっています。

JICAの需給予測——2040年に688万人必要

外国人労働者の将来推計

国際協力機構(JICA)の調査によると、自動化等への設備投資が促進されても、2030年に419万人、2040年には688万人の外国人労働者が必要になると推計されています。

現在の外国人労働者数(2023年実績205万人)と比較すると、2030年までに約2倍、2040年までに約3倍に増やす必要がある計算です。

AI・ロボットだけでは不足をカバーできない

経済産業省の推計では、AI・ロボットの活用促進やリスキリング等による労働の質の向上により、大きな不足は生じないとされています。しかし、このシナリオの実現には積極的な政策対応が必要です。

特に研究者・技術者は不足傾向にあり、大学・院卒の理系人材で100万人以上、生産工程を中心に高卒人材でも100万人弱の不足が生じるリスクがあると指摘されています。

注意点と今後の展望

共生社会の構築が不可欠

外国人労働者の受入れ拡大は、単なる労働力確保の問題ではありません。言語、文化、社会保障、教育など、多岐にわたる課題への対応が必要です。保見団地の30年にわたる経験は、共生社会構築のための貴重な教訓を提供しています。

α世代が主役となる2040年

2040年、α世代(2010年代以降に生まれた世代)が労働市場の主力となります。彼らは生まれた時から多文化環境に慣れ親しんでおり、外国人との共生に対する意識も異なる可能性があります。新しい世代の価値観をどう取り込むかも、「新MADE IN JAPAN」の成否を左右する要素となるでしょう。

まとめ

トヨタの20年ぶりの国内新工場は、日本の製造業が直面する転換点を象徴しています。老朽化した設備の刷新、環境対応、そして何より人材確保——これらの課題に同時に取り組まなければなりません。

保見団地の30年にわたる外国人共生の歴史は、課題と可能性の両面を示しています。2040年に1100万人の労働力不足が予測される中、外国人労働者との共生は避けて通れない課題です。「新MADE IN JAPAN」は、日本人だけでなく、多様なバックグラウンドを持つ人々とともに作り上げていくものとなるでしょう。

参考資料:

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