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by nicoxz

トランプ政権のFRB議長人事、4候補の政策と市場への影響

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はじめに

2026年5月にFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長の任期が満了を迎えます。トランプ大統領は週内にも次期議長人事を発表する見通しですが、最終盤まで候補者選びは混沌としています。

過去1カ月間で「最有力」と報じられた候補は3人に上り、さらにパウエル議長が刑事捜査の対象となる異例の事態も発生しています。次期FRB議長が誰になるかは、米国の金融政策だけでなく、世界の金融市場に大きな影響を与えます。

本記事では、4人の候補者の経歴と政策スタンス、そして人事決定が市場に与える影響について解説します。

4人の候補者とその政策スタンス

ケビン・ウォーシュ元FRB理事

現在、予測市場で最有力とされているのがケビン・ウォーシュ元FRB理事です。2006年から2011年までFRB理事を務め、2008年の金融危機時にはウォール街との主要な窓口として活躍しました。

ウォーシュ氏の特徴は、金融市場から「独立性を守る候補」として信頼されている点です。かつてはベン・バーナンキ議長の量的緩和政策に反対し、タカ派として知られていました。しかし現在は、FRBの政策が経済を抑制しており、金利は現状より低くあるべきとの立場に転じています。

ウォーシュ氏はインフレの原因について独自の見解を持ちます。「経済成長が速すぎて労働者の賃金が上がりすぎる」という従来の考え方を否定し、「政府が支出しすぎて紙幣を刷りすぎる」ことが原因だと主張しています。

トランプ大統領は2025年12月の時点で、ウォーシュ氏を候補リストの最上位に位置付けていると発言しました。

ケビン・ハセットNEC委員長

もう一人の有力候補がケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長です。63歳のハセット氏はペンシルベニア大学で経済学博士号を取得し、コロンビア大学の教授を経て、FRB理事会でエコノミストとして働いた経験があります。

ハセット氏は積極的な利下げを主張しており、0.5ポイントの利下げを求めたこともあります。トランプ大統領に近い存在として知られますが、それゆえに懸念も生じています。

金融市場では「ハセット氏は大統領との距離が近すぎるため、経済が必要とする政策ではなく、政治的に求められる低金利を維持するのではないか」という疑念があります。FRBの独立性に対する懸念です。

しかし2026年1月16日、トランプ大統領はハセット氏に「正直に言うと、君には今の場所にいてほしい」と伝え、NEC委員長として留任させる意向を示しました。この発言後、予測市場でのハセット氏の支持率は16%に急落し、ウォーシュ氏が60%に跳ね上がりました。

クリストファー・ウォーラーFRB理事

現職のFRB理事であるクリストファー・ウォーラー氏は、正確な経済予測で評価されています。政治的な色彩が薄く、承認プロセスでの抵抗が少ないと見られる「テクノクラート的候補」です。

イェール大学で開催されたCEO会合の投票では、81%の参加者がウォーラー氏を次期議長として支持しました。ウォーラー氏は一貫して追加利下げを主張しており、2025年7月には利下げに賛成票を投じた早期の支持者の一人でした。

ミシェル・ボウマンFRB副議長

ミシェル・ボウマン氏は現在FRBの監督担当副議長を務めており、銀行規制を担当しています。経済学者ではなく銀行法の専門家という経歴が特徴です。

ウォーラー氏と同様、2025年7月に利下げに賛成票を投じ、FRB内部での意見の分かれ目を示しました。ただし、予測市場での支持率は低く、有力候補というよりはダークホース的な位置付けです。

パウエル議長への刑事捜査という異例の事態

次期議長人事を複雑にしているのが、現職のパウエル議長に対する刑事捜査です。

2026年1月10日、司法省はFRB本部の25億ドル規模の改修工事に関するパウエル議長の議会証言について、大陪審召喚状をFRBに送達しました。捜査はワシントンDC連邦検事局が担当しており、トランプ大統領が任命したジェニーン・ピロ連邦検事が指揮しています。

パウエル議長はこれに強く反発し、声明を発表しました。「刑事告発の脅しは、FRBが大統領の意向ではなく、公益のために最善と判断した金利を設定した結果だ。これは昨年6月の証言や本部改修の問題ではない。それらは口実にすぎない」と述べています。

この捜査については政権内部からも懸念が出ています。ベッセント財務長官は、この捜査に不満を抱いており、市場に悪影響を与えると周囲に漏らしているとの報道があります。共和党のトム・ティリス上院議員(ノースカロライナ州選出、銀行委員会メンバー)は「この法的問題が完全に解決されるまで、パウエル議長の後任指名にも、FRB理事の指名にも反対する」と表明しました。

人事決定のスケジュールと制約

トランプ大統領は1月中に次期議長を指名する必要があります。その理由は2026年1月31日にミラン理事の任期が終了するためです。

新議長を現職理事以外から指名する場合、まずFRB理事として任命し、その後議長に指名するという手順が必要です。ミラン理事の後任枠を活用するには、1月中の決定が求められます。

ベッセント財務長官は次期議長の条件として、以下の4点を挙げています。

  1. 市場の信認を得られる人物
  2. 複雑な経済データを分析できる人物
  3. FOMCのコンセンサスを得られる管理能力を持つ人物
  4. 鋭敏に先行きを予測できる人物

一方、トランプ大統領の選定基準は「利下げを求める大統領への忠誠心」と「金融市場の信認」の2点だと見られています。この2つの基準は必ずしも両立しないため、人事は最後まで予断を許しません。

市場への影響と展望

ウォーシュ氏が指名された場合

ウォーシュ氏は市場から「独立性を守る候補」と見なされています。指名されれば、通貨価値や物価安定への懸念が緩和され、ドル高・債券高の反応が予想されます。

ただし、ウォーシュ氏は過去にタカ派として知られていたため、利下げペースが鈍化するとの見方から、トランプ大統領のコメント後に10年国債利回りが上昇しました。

ハセット氏が指名された場合

ハセット氏の指名は、FRBの独立性に対する懸念を呼び起こす可能性があります。政治的圧力による過度な金融緩和への警戒から、ドル安・債券安となるリスクがあります。

不確実性が続く影響

現状では候補者が絞り込まれておらず、市場は不確実性に直面しています。刑事捜査という政治的要素も加わり、金融政策の予測可能性が低下しています。

まとめ

2026年5月に任期満了を迎えるパウエル議長の後任人事は、最終盤まで混沌としています。予測市場ではウォーシュ元理事が最有力ですが、トランプ大統領の最終判断は予断を許しません。

次期FRB議長が誰になるかは、米国の金融政策の方向性を左右します。利下げに積極的な候補が選ばれるか、FRBの独立性を重視する候補が選ばれるかで、為替・債券市場の反応は大きく異なります。

投資家や企業経営者は、今週中にも発表される可能性がある人事決定を注視し、シナリオ別の対応を検討しておくことが重要です。

参考資料:

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