FRBが4会合ぶり利下げ見送り、反対2票の背景
はじめに
米連邦準備理事会(FRB)は2026年1月28日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の据え置きを決定しました。利下げの見送りは4会合ぶりです。フェデラルファンド(FF)金利は3.5〜3.75%に維持されます。
今回の決定で注目されたのは、2名の理事が反対票を投じたことと、パウエル議長がFRBの独立性に関して強い危機感を示した点です。トランプ政権による前例のない政治的圧力の中、FRBはどのような判断を下し、今後の金融政策にどのような影響があるのでしょうか。
据え置き決定の背景と経済判断
堅調な経済活動が利下げを不要に
パウエル議長はFOMC後の記者会見で、「米経済は昨年堅調なペースで拡大し、2026年も安定した基盤の上にある」と述べました。FRBは2025年9月から12月にかけて3会合連続で計0.75%の利下げを実施し、政策金利は中立水準と見られる3%台後半まで低下しています。
雇用の伸びは鈍化しているものの失業率は安定化の兆候を見せており、インフレ率はやや高止まりの状態です。こうした経済データを踏まえ、FOMCの大半の参加者は利下げを急ぐ必要はないと判断しました。
関税によるインフレへの影響
パウエル議長は、関税の影響による消費者物価の一時的な上昇について言及し、「2026年半ばまでに関税インフレはピークを迎える」との見通しを示しました。トランプ政権が課した関税が物価にどの程度影響するかを見極める必要があるという認識が、据え置き判断の一因です。
反対2票の意味するもの
ミラン理事とウォラー理事の主張
今回の据え置き決定に対し、スティーブン・ミラン理事とクリストファー・ウォラー理事の2名が反対票を投じました。両名とも0.25%の追加利下げを主張しています。
ミラン理事は2026年に合計1.5%の利下げが適切だと主張しており、今回の反対票は4会合連続の反対です。同理事はトランプ大統領の指名により就任した人物で、1月31日に理事としての任期が切れますが、後任が指名されるまで留任する意向を示しています。
ウォラー理事も次期FRB議長候補の一人とされており、「労働市場の冷え込みを緩和することが最優先」として、今後1.0%の利下げ余地があると指摘しています。両理事ともトランプ大統領が指名した人物であり、政権の意向との関連が指摘されています。
反対票の示唆するFRB内部の対立
反対票が2票となったことは、FRB内部でも金融政策の方向性に関する意見の対立が深まっていることを示しています。経済の堅調さを重視して慎重姿勢を取る多数派と、雇用市場の下振れリスクを懸念して追加利下げを求める少数派との間で、今後も議論が続く可能性があります。
トランプ政権の圧力とFRBの独立性
司法省による刑事捜査
トランプ政権によるFRBへの圧力は、前例のないレベルに達しています。パウエル議長はFRB本部の改修工事を巡る議会証言に関連して、司法省から大陪審への召喚状を受け取ったことを明らかにしました。パウエル氏はこれを「脅しと圧力」と明言し、断固として闘う姿勢を示しています。
リサ・クック理事の解任問題
トランプ大統領はリサ・クックFRB理事の解任を求めており、この合法性を巡る訴訟が連邦最高裁で審理されています。パウエル議長はこの訴訟について「FRBの113年の歴史で最も重要な法的案件の一つだ」と語り、自ら最高裁の口頭弁論にも出席しました。
この訴訟の結果は、大統領がFRB理事を政策上の意見の相違を理由に解任できるかどうかを左右するものであり、FRBの制度的独立性の根幹に関わる問題です。
パウエル議長の退任と後任人事
パウエル議長の任期は2026年5月に満了します。残りのFOMCは3月と4月の2回です。トランプ大統領は後任について「私に反対する者は決してFRB議長にはならない」と発言しており、ハセットNEC委員長やウォルシュ元FRB理事が有力候補として挙がっています。
パウエル氏は後任への助言として「政治には関わらず、巻き込まれないようにすることだ」と語りました。FRB理事としての任期は2028年1月末まで残っており、議長退任後も理事にとどまる可能性も取り沙汰されています。
注意点・展望
今後の利下げシナリオ
FF金利先物市場は、2026年中の利下げを最大2回、2027年はゼロ回と織り込んでいます。パウエル議長は「金融政策は予め決められた道筋にはない」「会合ごとに判断する」と繰り返しており、データ次第で方針が変わる可能性があります。
パウエル議長が残り2回のFOMCで利下げに踏み切る可能性は、雇用市場の急激な悪化がない限り低いとの見方が優勢です。むしろ注目されるのは、5月以降の新議長体制でどのような政策運営が行われるかです。
FRBの独立性が試される局面
最高裁のクック理事を巡る判決は、FRBの制度的立場を大きく左右する可能性があります。PIMCOは、FRBの独立性がわずかでも揺らぐ場合、米国の資本市場やドルに潜在的な影響を及ぼし得ると指摘しています。金融市場にとって、FRBの信認維持は極めて重要な問題です。
まとめ
FRBは2026年1月のFOMCで4会合ぶりに利下げを見送り、政策金利を3.5〜3.75%に据え置きました。堅調な経済を背景に慎重な姿勢を維持する一方、ミラン・ウォラー両理事が反対票を投じ、FRB内部の意見対立が浮き彫りになっています。
トランプ政権による前例のない政治的圧力の中、パウエル議長はFRBの独立性を守る姿勢を鮮明にしています。5月の議長交代を控え、FRBの独立性と金融政策の方向性がどうなるかは、世界の金融市場にとって最重要テーマの一つです。
参考資料:
関連記事
FRB利下げ見送りの背景とパウエル議長が守る独立性
FRBが4会合ぶりに利下げを見送った1月FOMC。パウエル議長はトランプ大統領の圧力に屈せず独立性を堅持。5月の退任後のFRBの行方と市場への影響を解説します。
FRBが4会合ぶり利下げ見送り、政権圧力も独立性堅持
FRBは1月FOMCで政策金利を据え置き。反対票2票の異例の展開の中、トランプ政権の利下げ圧力に屈せず独立性を示した背景と今後の金融政策の見通しを解説します。
FRBパウエル議長が独立性を死守、トランプ政権と対峙
パウエルFRB議長が5月の議長退任後も理事として残る可能性を示唆。刑事捜査や後任人事を巡るトランプ政権との対立構図と、中央銀行の独立性の行方を解説します。
トランプ大統領がFRB議長人事を来週発表、利下げ圧力の行方
トランプ大統領がFRB次期議長を来週公表すると表明し、2〜3%の追加利下げを要求。中央銀行の独立性を巡る緊張と市場への影響を解説します。
トランプ政権のFRB議長人事、4候補の政策と市場への影響
パウエル議長の任期満了を控え、トランプ大統領が次期FRB議長候補を絞り込んでいます。ウォーシュ、ハセット、ウォーラー、ボウマンの4候補の経歴・政策スタンスと、金融市場への影響を解説します。
最新ニュース
ビットコイン7万ドル台急落、テック株売りが暗号資産に波及
ビットコインが約1年3カ月ぶりの安値となる7万2000ドル台に急落しました。米ハイテク株の売りが暗号資産市場に波及した背景と、MicroStrategyの含み損問題について解説します。
日銀の量的引き締め出遅れと円安の関係を解説
日銀のマネタリーベース縮小が米欧に比べ緩やかな理由と、それが円安に与える影響について解説します。FRB新議長候補ウォーシュ氏の金融政策姿勢にも注目が集まっています。
書店600店の在庫を一元化|返品率30ポイント削減の新システム
紀伊国屋書店、TSUTAYA、日販が出資するブックセラーズ&カンパニーが、56社603店の在庫を横断管理するデータベースを始動。返品率6割減を実現した事例と、出版業界の構造改革を解説します。
中国海警局の尖閣周辺活動が過去最多に、日中の緊張続く
2025年、中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺の接続水域に357日出没し過去最多を更新。日本の対応策と偶発的衝突防止の課題を解説します。
中国の土地売却収入がピーク比半減、地方財政に深刻な打撃
中国の地方政府の土地売却収入が2025年も前年比14.7%減少し4年連続の減少を記録。ピークの2021年から52%減となり、不動産不況が地方財政を圧迫し続けています。