トランプ氏、グリーンランド巡り米欧解決策模索へ
はじめに
トランプ米大統領は2026年1月20日、ホワイトハウスで就任1年を記念する記者会見を行いました。会見では、獲得を目指すデンマーク自治領グリーンランドを巡り、米欧間で「満足できる解決策を見つけられるだろう」と述べる一方、北大西洋条約機構(NATO)が米国の有事の際に機能するかについて疑問を呈しました。
グリーンランド問題は、トランプ政権が欧州8カ国に追加関税を課すと表明したことで、米欧関係に深刻な亀裂を生じさせています。NATOの存在意義そのものが問われる事態に発展しており、第二次世界大戦後の国際秩序に大きな影響を与える可能性があります。
本記事では、グリーンランド問題の経緯、NATOへの影響、そして今後の展望について詳しく解説します。
グリーンランド取得問題の経緯
トランプ大統領の執拗な取得意欲
トランプ大統領は就任直後から、デンマーク自治領グリーンランドの取得に強い意欲を示してきました。1月11日には「いずれにせよ米国が領有することになる」と再度述べ、「米国が行動しなければロシアと中国によって支配される」と主張しています。
グリーンランドは北極海と北大西洋の間に位置し、ミサイル攻撃の早期警戒システムや船舶監視の拠点として戦略的に重要です。また、レアアースなどの地下資源も豊富に埋蔵されていると見られており、経済的価値も高いとされています。
欧州8カ国への関税発動
トランプ大統領は1月17日、グリーンランド取得に反対する欧州8カ国に対して追加関税を課すと表明しました。対象国はデンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、英国です。
2月1日から10%の追加関税を課し、6月1日までに合意が成立しなければ税率を25%に引き上げる方針を示しています。同盟国への関税という強硬手段は、国際社会に衝撃を与えました。
軍事力行使の可能性も示唆
ホワイトハウスは1月6日、グリーンランドの領有に向けて「米軍の活用も常に選択肢の一つだ」と表明し、軍事力行使の可能性を排除しませんでした。NATO加盟国であるデンマークの領土に対して軍事行動を示唆するという前例のない発言は、同盟関係に大きな動揺を招きました。
ただし、トランプ大統領は1月21日のダボス会議での演説で「武力は行使しない」と述べ、軍事的手段からは距離を置く姿勢を示しています。
NATOの機能への疑問
「本当に助けてくれるのか」
トランプ大統領は1月7日、北大西洋条約機構(NATO)同盟国が「本当に必要な時に米国を助けてくれるかどうか」に疑問を呈しました。自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」には「たとえNATOが米国を助けてくれなくても、米国はいつまでもNATOを助け続ける」と投稿しています。
さらに「もし米国が助けを求めた場合、フランスや他の国々が守りに来てくれるか確信が持てない」とも発言。NATO加盟国の国防支出が不十分な場合、攻撃を受けても「守るつもりはない」とも明言しました。
集団防衛条項の危機
北大西洋条約第5条は、加盟国のいずれかが攻撃された場合、他の加盟国が協力して防衛にあたることを規定しています。しかし、米国がデンマーク領のグリーンランドに軍事行動を起こせば、理論的にはこの第5条が適用され、他の加盟国は米国と戦うことになります。
実際にはそうした場合、第5条の「集団防衛」の原則は機能不全に陥る可能性が高く、NATOの存在意義そのものが問われる事態になると専門家は指摘しています。デンマークのフレデリクセン首相も「もし米国がNATO加盟国への軍事攻撃を選択すれば、NATOを含め第二次世界大戦後に築かれた安全保障のすべてが停止する」と警告しています。
欧州の反発と対抗措置
デンマークの立場
デンマークは、米国がグリーンランドを購入しなくても、現在の枠組みの延長線上で軍事的プレゼンスを高めることは可能だと主張しています。グリーンランドおよびデンマークの協力のもと、既存の同盟関係を活用するという提案です。
また、住民投票を経てグリーンランドがデンマークから完全に独立すれば、米国が「自由連合協定」を締結することも選択肢として挙げられています。直接的な購入ではなく、段階的なアプローチによる解決策が模索されています。
EUの報復措置
欧州連合(EU)は、トランプ大統領の関税発動に対して強く反発しています。930億ユーロ(約17兆円)規模の報復措置を検討しており、マクロン仏大統領は「貿易バズーカ」と呼ばれる反威圧措置(ACI)の発動を要請しました。
この措置が発動されれば、EU市場へのアクセス制限や輸出規制など、米国への幅広い対抗措置が適用される可能性があります。米欧間の経済関係は急速に冷え込みつつあります。
ダボス会議での動向
トランプ大統領の演説
トランプ大統領は1月21日、スイス東部ダボスで開催中の世界経済フォーラム(WEF)年次総会で演説しました。演説では「グリーンランドはわれわれの領土だ。米国の国家安全保障上の核心的利益だ」と主張しつつ、「武力は行使しない」と述べました。
演説後にはNATOのルッテ事務総長と会談し、「グリーンランドを含む北極圏全体に関する将来の合意に向けた枠組み」を構築したと発表。欧州8カ国への追加関税を撤回する可能性も示唆しています。
解決策への道筋
トランプ大統領は記者会見で「満足できる解決策を見つけられるだろう」と述べており、何らかの妥協点を模索する姿勢を見せています。ダボス会議の場でデンマークやグリーンランドの関係者との会談も予定されており、外交的な解決に向けた動きが進んでいます。
ただし、トランプ大統領の発言は頻繁に変化するため、今後の展開は予断を許しません。米欧間の信頼関係が回復するまでには、相当な時間がかかると見られています。
注意点・今後の展望
同盟関係の変質
グリーンランド問題は、戦後の国際秩序を支えてきた米欧同盟の根本的な変質を示唆しています。米ギャラップ社の世論調査によると、NATO加盟国における米国への支持率は前年比14ポイント減の21%に低下。一方、中国への支持率は8ポイント増の22%と米国を上回り、過去最大の上昇幅を記録しました。
日本への影響
トランプ大統領の同盟軽視の姿勢は、日本の安全保障にも影響を与える可能性があります。日米同盟の信頼性に疑問が生じれば、日本独自の防衛力強化や多角的な安全保障協力の必要性が高まることになります。
今後の注目点
短期的には、2月1日の関税発動期限、6月1日の税率引き上げ期限が重要なマイルストーンとなります。ダボス会議での交渉結果が、今後の米欧関係を左右する可能性があります。
長期的には、NATOの集団防衛体制が維持されるか、欧州独自の防衛機構が強化されるか、国際秩序の再編につながる可能性も視野に入れておく必要があります。
まとめ
トランプ米大統領は就任1年の記者会見で、グリーンランド問題について「満足できる解決策を見つけられる」と述べる一方、NATOの有事対応に疑問を呈しました。グリーンランド取得を巡る米欧対立は、戦後の同盟関係に深刻な亀裂を生じさせています。
欧州8カ国への関税発動、軍事力行使の示唆など、トランプ政権の強硬姿勢は同盟国に衝撃を与えました。ダボス会議での交渉を通じて妥協点が見出されるか、今後の展開に注目が集まります。
国際社会は、米欧関係の行方と、それが世界秩序に与える影響を注視しています。
参考資料:
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