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by nicoxz

グリーンランド問題でNATO崩壊の危機、米欧対立が深刻化

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はじめに

トランプ米大統領がデンマーク自治領グリーンランドの取得に強い意欲を示し、同盟国である欧州諸国との間で深刻な対立が生じています。スイス・ダボスで開催中の世界経済フォーラム(WEF)年次総会では、この問題が最大の焦点となりました。

米調査会社ユーラシア・グループを率いる国際政治学者イアン・ブレマー氏は、トランプ大統領の圧力が続けば北大西洋条約機構(NATO)が終わりうると警告しています。第二次世界大戦後の国際秩序を支えてきた米欧同盟が、かつてない危機に直面しているのです。

本記事では、グリーンランド問題の背景と経緯、欧州の反発、そしてNATOへの影響について詳しく解説します。

グリーンランドとは何か

世界最大の島の戦略的価値

グリーンランドは北極海と北大西洋の間に位置する世界最大の島です。面積は約216万平方キロメートルで日本の約6倍ですが、人口はわずか約5万5000人に過ぎません。地表の約80%が氷に覆われた極寒の地ですが、地政学的には極めて重要な位置にあります。

北米大陸と欧州の間に位置し、カナダ、アイスランド、英国を経由する海上航路の要衝です。ミサイル攻撃の早期警戒システムや船舶監視の拠点として、軍事的にも高い価値を持っています。現在も米軍のピツフィク宇宙軍基地が設置されています。

豊富な地下資源

グリーンランドにはレアアース(希土類)、ウラン、石油、天然ガスなど豊富な地下資源が眠っています。特にレアアースの埋蔵量は世界最大規模とされ、未開発の鉱床であるクベーンフェルドは注目を集めています。

電気自動車のバッテリー、風力タービン、半導体、軍事装備品などの製造に不可欠なレアアースは、現在中国が採掘・加工で圧倒的なシェアを持っています。米中対立が深まる中、中国以外の供給源としてグリーンランドの戦略的価値は高まっているのです。

デンマークとの関係

グリーンランドは1721年から1953年までデンマークの植民地でした。1979年に自治権を獲得し、2009年には政治的権限が大幅にデンマークから移譲されました。ただし、外交と防衛は現在もデンマーク政府が担っています。

経済的には漁業に依存しており、政府予算の約5割をデンマーク政府の補助金に頼っています。独立を求める声もありますが、経済的な課題から実現は難しいとされてきました。

米国のグリーンランド取得構想

100年以上続く米国の関心

米国がグリーンランドに関心を持ち始めたのは19世紀後半にさかのぼります。1867年にロシアからアラスカを720万ドルで購入した当時の国務長官ウィリアム・スワードは、次の領土拡大候補としてグリーンランドとアイスランドに注目していました。

1860年代にはジョンソン大統領がアラスカに続くグリーンランド買収計画を持っていたとされます。1946年にはトルーマン大統領が1億ドルでの買収を検討したと報じられました。米国は冷戦時代をピークに、100年以上にわたりグリーンランドに食指を動かしてきたのです。

トランプ大統領の強硬姿勢

トランプ大統領のグリーンランド取得構想は、第1次政権時の2018年に始まりました。当初は「最優先事項ではない」とされていましたが、対中強硬派の影響もあり「絶対に必要」な重要戦略へと格上げされました。

2026年1月4日、トランプ大統領は「国家安全保障の観点から、我々にはグリーンランドが必要だ。防衛のために不可欠だ」と強調しました。1月6日には「グリーンランド領有に向けて米軍の活用も選択肢だ」と、軍事力行使も辞さない意向を表明しています。

1月11日にも「いずれにせよ米国が領有することになる」と述べ、「米国が行動しなければロシアと中国によって支配される」と主張しました。

欧州の猛反発

デンマークの警告

デンマークのフレデリクセン首相は1月5日、トランプ大統領がグリーンランドを攻撃すればNATOの終焉を意味すると警告しました。NATO加盟国である米国が、同じくNATO加盟国であるデンマークの領土に軍事行動を起こすことは、同盟の根幹を揺るがす事態だからです。

デンマークと欧州の同盟国は、北極圏の脆弱性への懸念を和らげるため、軍事費の増額とグリーンランドへの小規模な部隊派遣を行いました。しかしトランプ大統領はこれを挑発と解釈し、さらなる強硬姿勢を示しています。

8カ国への関税制裁

トランプ大統領は1月17日、グリーンランド領有に反対しデンマークを支持する欧州8カ国に対し、10%の輸入関税を課すと発表しました。対象はデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、英国、オランダ、フィンランドです。

2月1日から発効し、「グリーンランドの完全かつ全体的な購入でディールが成立しない限り」、6月には25%に引き上げると警告しました。NATO加盟8カ国を関税で脅すという異例の事態となっています。

EUの報復措置検討

欧州連合(EU)は米国の関税に対抗する措置の検討に入りました。930億ユーロ(約17兆円)規模の報復案を示し、トランプ大統領に撤回を求めています。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、ダボス会議で「新しい形の欧州の独立」を構築する必要性を訴えました。また、米国の超党派議員団との会談では「グリーンランドとデンマーク王国の主権を明確に尊重する必要がある。これは大西洋を越えた関係にとって最も重要だ」と述べています。

イアン・ブレマー氏の分析

NATOの危機

国際政治学者イアン・ブレマー氏は、ダボス会議でのインタビューに応じ、トランプ大統領の圧力が続けばNATOは終わりうると述べました。NATO条約第5条の集団防衛条項では、加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃とみなされます。米国がグリーンランドに軍事行動を起こせば、NATOの存在意義そのものが問われることになります。

ブレマー氏は欧州の指導者たちの心境について「不安だ。誰も彼が何を言うかわからない。彼自身もわかっていないかもしれない」と語りました。

欧州に求められる対応

ブレマー氏は「欧州は対応しなければならない。できることはたくさんあるが、それを十分な数と力で行う覚悟が必要だ」と指摘しています。欧州諸国が単独では米国に対抗できないため、連携して対応する必要があるという認識です。

2026年の最大リスク

ブレマー氏が率いるユーラシア・グループは2026年1月5日、今年の「世界10大リスク」を発表しました。1位には「米国の政治革命」が挙げられ、トランプ大統領が権力を強化し、汚職調査などの監視機能を解体して政治的に運用することへの警戒感が示されています。

報告書では「第1次トランプ政権で持ちこたえていた安全装置の多くが今や崩れつつある」と指摘されました。

注意点・展望

NATO条約の限界

理論上はNATO条約第5条により、米国がグリーンランドに軍事行動を起こせば他の加盟国が防衛にあたることになります。しかし実際には、米国という世界最大の軍事力を持つ国に対して欧州諸国が軍事的に対抗することは現実的ではありません。

このため、NATO条約の抑止力がトランプ政権に対してどこまで有効かは不透明です。

資源開発の現実

グリーンランドのレアアース開発には大きな課題があります。北極研究所のマルテ・ハンパート氏は「グリーンランドを米国のレアアース工場にするという考えはSFだ。月で採掘するのと変わらない」と述べています。

地表の80%が氷に覆われ、北極圏での採掘は通常の5〜10倍のコストがかかる可能性があります。また、レアアースの採掘には放射性物質が伴うことが多く、環境規制も大きな障壁となります。

今後の見通し

ダボス会議でNATO事務総長のマルク・ルッテ氏とトランプ大統領の会談が予定されており、関係各国による外交的な解決の模索が続いています。しかしトランプ大統領が「グリーンランドの完全な購入」を条件に掲げている以上、短期的な解決は難しいと見られています。

フランスのマクロン大統領はダボス会議で「領土主権に対するてこ入れとして使われる関税は、根本的に受け入れられない」と批判しました。米欧関係の修復には相当な時間がかかる可能性があります。

まとめ

トランプ大統領のグリーンランド取得構想は、戦後の国際秩序を支えてきたNATOと米欧同盟に深刻な亀裂をもたらしています。レアアースなどの資源確保と北極圏での中露への対抗という米国の戦略的利益と、領土主権の尊重という国際法の原則が衝突しています。

イアン・ブレマー氏が警告するように、この問題が長引けばNATOの存続自体が危ぶまれる事態に発展しかねません。関税の応酬がエスカレートすれば、世界経済にも大きな影響を及ぼすでしょう。

今後のダボス会議での協議や米欧間の外交交渉の行方を注視する必要があります。

参考資料:

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