トランプ政権1年の物価対策と中間選挙への焦り
はじめに
2025年1月20日に発足した第2次トランプ政権が、1年の節目を迎えました。この1年間、トランプ大統領は選挙公約の実現に向けて精力的に動いてきましたが、有権者が最も重視する物価高対策では期待に応えられていないとの評価が広がっています。
2026年11月の中間選挙まで残り10カ月となり、支持率低迷に焦るトランプ政権は、看板政策であった相互関税の一部撤廃に踏み切るなど、政策の軌道修正を余儀なくされています。本記事では、トランプ政権の経済政策の現状と、中間選挙に向けた課題について詳しく解説します。
支持率低迷の背景にある物価問題
就任時から続く支持率の下落傾向
トランプ大統領の支持率は、就任直後の2025年1月には47%を記録していましたが、徐々に下落傾向をたどっています。ギャラップ社の調査によると、2025年12月には36%まで低下しました。
2026年1月中旬に実施されたマリスト世論調査では、支持率38%、不支持率56%という結果が出ており、ネット支持率はマイナス18ポイントと、第2次政権発足以来の最低水準を記録しています。
特に深刻なのは、2024年大統領選でトランプ氏を支持した無党派層やラテン系有権者の離反が進んでいる点です。複数の世論調査や2025年の地方選挙結果から、これらの層の支持が明確に低下していることが確認されています。
「インフレ対策」への不満が最大の要因
NBCテレビの世論調査では、トランプ大統領の不支持率が55%に上昇しました。「期待に応えていない政策」として最も多く挙げられたのが「インフレ」「生活費」で、66%の回答者が不満を表明しています。
CBS Newsの世論調査でも、多くの有権者が「物価引き下げへの取り組みが不十分」と回答しています。大多数のアメリカ国民は、自分の収入がインフレに追いついていないと感じており、この不満が政権支持率を押し下げる主要因となっています。
トランプ大統領自身、2025年12月のインタビューで「中間選挙はこの国の成否が問われるものになる。争点は物価だ」と語っており、問題の深刻さを認識していることがうかがえます。
大型減税法成立も物価改善には至らず
OBBBA(One Big Beautiful Bill Act)の成立
2025年7月4日の独立記念日、トランプ大統領は「ひとつの大きく美しい法案(One Big Beautiful Bill Act、OBBBA)」に署名し、大型減税法が成立しました。この法律は1,000ページを超える包括的なもので、税制改革だけでなく国防、国境警備、エネルギー政策など広範な分野をカバーしています。
主な減税措置としては、残業代やチップへの課税免除(高額所得者を除く)、児童税額控除の2,000ドルから2,200ドルへの引き上げ、州税控除(SALT控除)上限の40,000ドルへの大幅引き上げなどが盛り込まれました。
法人向けには、100%ボーナス償却の復活や国内研究開発費の即時損金化など、投資を促進する措置が含まれています。
減税の恩恵が実感されない現実
しかし、これらの減税措置は物価高に苦しむ一般家庭の生活改善には直結していません。10年間で3.4兆ドルの財政赤字拡大が見込まれる中、米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は「富裕層への減税のために、働く世帯に高額な医療費負担を強いている」と批判しています。
実際、OBBBAにはメディケイド(低所得者向け医療保険)の受給要件厳格化も含まれており、14歳以下の子どもがいない健常な65歳未満の成人に対して、月80時間以上の就労等を受給条件とする規定が設けられました。これにより医療保険を失う国民が出る可能性も指摘されています。
相互関税の軌道修正と「ポピュリズム政策」への転換
食品220品目超の関税撤廃
物価高批判の高まりを受け、トランプ政権は2025年11月14日、看板政策であった相互関税の軌道修正に踏み切りました。220品目を超える食料品について、原産国を問わず相互関税を撤廃する大統領令に署名したのです。
対象となったのはコーヒー、牛肉、バナナなど日常的に消費される食品で、日本を含むすべての国からの輸入品が撤廃対象となりました。これは明らかに国内のインフレ圧力を懸念した措置であり、生活費高騰に対処する姿勢を示すことで、政権への批判をかわす狙いがあります。
現金給付など大衆迎合策の連発
関税撤廃に加え、トランプ政権は様々な「ポピュリズム的政策」を打ち出しています。全ての米軍人に対して、建国年にちなみ1人当たり1,776ドル(約28万円)を配る現金給付を実施したほか、医療費削減や住宅価格改革も表明しています。
これらの政策は、11月の中間選挙を強く意識したものです。トランプ大統領は中間選挙で負けられない状況に追い込まれており、低中所得層へのアピールを強化しています。
2026年中間選挙の展望と課題
与党に厳しい中間選挙の歴史的傾向
過去の中間選挙では、与党が苦戦するのが一般的です。特に全議席が改選される下院選挙でこの傾向が顕著で、クリントン政権以降の8回の中間選挙のうち、7回で与党が全米得票率を減らし、ねじれ議会に陥っています。
2026年11月の中間選挙についても、現時点では民主党がリードしています。どちらの政党の勝利を望むかという質問に対し、共和党と答えた人は42%(2025年3月から5ポイント低下)、民主党と答えた人は50%でした。
2025年の地方選挙が示す警告サイン
2025年11月に実施されたバージニア州とニュージャージー州の知事選では、いずれも民主党候補が勝利しました。両州の民主党候補は、2024年大統領選のハリス候補よりも支持を伸ばしています。
同月のニューヨーク市長選など3つの地方選挙でも共和党候補が全敗しており、トランプ政権への逆風が明確に表れています。
物価動向と最高裁判決が今後の鍵
2026年の物価上昇率は前年比2.7%程度と予測されており、年末には2%台半ばまで鈍化する見通しです。この物価安定化が政権支持率の回復につながるかどうかが、中間選挙の行方を左右する重要な要素となります。
また、トランプ政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に課した関税の合憲性について、連邦最高裁の判断が注目されています。違憲判決が出た場合、政権は関税政策の再構築を迫られることになります。
まとめ
トランプ政権の1年目は、減税法成立など公約実現に向けた成果を上げた一方で、最も重要な物価高対策で有権者の期待に応えられませんでした。支持率は就任時の47%から36%へと大きく低下し、中間選挙への危機感から食品関税撤廃など政策転換を余儀なくされています。
2026年中間選挙まで残り10カ月、トランプ大統領にとっての最大の課題は物価安定化です。歴史的に与党が苦戦する中間選挙において、議会多数派を維持できるかどうかは、今後の物価動向と有権者の経済への実感次第と言えるでしょう。
参考資料:
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