米最高裁が関税違憲判決も市場は慎重姿勢を維持
はじめに
2026年2月20日、米連邦最高裁判所はトランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した相互関税を違憲とする判決を下しました。6対3の判断で、大統領には同法を根拠に関税を課す権限がないと明確に示された形です。
判決を受けて同日の米株式市場ではダウ平均が230ドル高と反発し、S&P500やナスダックも上昇しました。しかし、トランプ大統領は即座に通商法122条を根拠とする新たな全世界一律関税を打ち出しており、市場では「関税リスクは終わっていない」との見方が広がっています。本記事では、判決の内容と市場の反応、そして今後の展望を整理します。
最高裁判決の核心と法的意味
IEEPAでは関税を課せないという判断
今回の訴訟は「Learning Resources, Inc. v. Trump」として知られる事案です。ロバーツ首席判事が多数意見を執筆し、ゴーサッチ、バレット、ソトマイヨール、ケイガン、ジャクソンの5判事が同調しました。反対意見を述べたのはトーマス、カバノー、アリートの3判事です。
判決の核心は明快です。IEEPAは大統領に「輸入を規制する」権限を与えていますが、関税や関税率について一切言及していません。ロバーツ首席判事は「大統領が無制限の額・期間・範囲で一方的に関税を課す異例の権限を主張するならば、議会からの明確な授権を示さなければならない」と述べ、IEEPAにはそのような授権がないと結論付けました。
違憲となった関税の範囲
この判決で無効とされたのは、IEEPAを根拠として発動されたすべての関税措置です。具体的には、2025年4月に幅広い国・地域に対して打ち出された「相互関税」(中国向け34%など)と、合成麻薬フェンタニルの米国流入を理由とした中国・カナダ・メキシコへの追加関税が含まれます。
一方、通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム・自動車への関税は今回の訴訟の対象外であり、引き続き有効です。日本の自動車メーカーなどに課されている関税はこの判決の影響を受けません。
株式市場の反応と「踊れない」理由
判決直後の反発
2月20日の米株式市場は、判決を好感して上昇しました。ダウ工業株30種平均は前日比230ドル81セント(0.47%)高の4万9625ドル97セントで引けました。S&P500種株価指数は0.69%上昇の6909.51ポイント、ナスダック総合指数は0.9%上昇の2万2886.07ポイントとなりました。
特にEコマース関連銘柄の上昇が目立ちました。CNBCの報道によると、Amazonの株価は2%上昇し、Etsy は8%の急騰を記録しました。Shopifyは1%高、eBayは3%高と、輸入品を多く扱う企業が関税負担軽減への期待から買われました。Appleも上昇し、関税コスト削減の恩恵を受ける銘柄として注目されました。
楽観できない構造的リスク
しかし、市場の反発は限定的でした。ダウ平均の上昇幅は一時300ドルを超えましたが、終値では230ドル高まで縮小しています。投資家が慎重姿勢を崩さなかった最大の理由は、トランプ大統領の即座の対抗措置です。
判決からわずか数時間後、トランプ大統領はSNSで最高裁を激しく批判するとともに、1974年通商法122条に基づく全世界一律10%の関税を課す大統領令に署名したと発表しました。さらに翌21日には税率を15%に引き上げると表明し、2月24日午前0時1分(米東部時間)の発動を宣言しました。市場参加者にとって、関税の法的根拠が変わっただけで関税リスク自体は残り続ける構図が明らかになったのです。
実際に23日のダウ平均は821ドル安と大幅に反落しました。AI関連の懸念に加え、通商政策の不透明感が重なり、リスク回避の動きが加速しました。
通商法122条の限界と今後の展望
150日間の時限措置
トランプ大統領が新たな根拠とした通商法122条には重要な制約があります。この条項は、国際収支の「基本的な問題」に対処するために大統領が関税を課す権限を定めたもので、過去に一度も使用されたことがありません。
最大の制約は150日間という期限です。税率の上限は15%と定められており、延長には議会の承認が必要です。つまり、2026年7月下旬には期限を迎え、トランプ政権は新たな法的根拠を見つけるか、議会の協力を得る必要に迫られます。
還付問題と企業への影響
判決ではもう一つ大きな論点が残されました。これまでIEEPAに基づいて徴収された関税の還付についてです。ペンシルベニア大学ウォートン校の予算モデル分析によると、IEEPAの権限で徴収された関税は約1335億ドル(約20兆円)にのぼります。NPRの報道では、判決後すでに多くの企業が還付を求めて申請を行っていますが、最高裁は還付の可否や方法について明確な判断を示しませんでした。
また、Wolfe Researchの政策アナリスト、トビン・マーカス氏はトランプ政権が他の権限を使って関税を再構築し続けるとの見方を示しています。通商拡大法232条の適用拡大など、政権が取り得る手段は複数残されており、市場の不確実性は当面続く見通しです。
注意点・展望
今回の判決は「大統領の関税権限に初めて明確な歯止めをかけた」という歴史的意義を持ちます。しかし、投資家が注意すべき点がいくつかあります。
まず、通商法122条の合法性をめぐる新たな訴訟が起きる可能性があります。同条の「国際収支の基本的な問題」という要件を現在の状況が満たすのかについては、法律専門家の間でも意見が分かれています。
次に、150日後の政策転換です。2026年7月下旬の期限切れに向けて、トランプ政権がどのような恒久的な関税措置を模索するかが焦点になります。通商拡大法232条の適用品目拡大や、新たな立法を議会に求める可能性も指摘されています。
さらに、日本企業にとっては232条に基づく自動車関税が継続している点が重要です。違憲判決の恩恵を受けられない分野も多く、業種別に影響を精査する必要があります。
まとめ
米連邦最高裁はIEEPAに基づくトランプ関税を6対3で違憲と判断し、大統領の関税権限に歴史的な制約を課しました。ダウ平均は判決直後に230ドル高と反発しましたが、トランプ大統領が即座に通商法122条による新関税を発動したことで、市場の楽観ムードは長続きしませんでした。
通商法122条には150日間・最大15%という制約があり、中長期的には関税政策の再構築が避けられません。企業や投資家にとっては、法的根拠の変遷を注視しながら、業種ごとの影響を見極めていくことが求められます。
参考資料:
- Supreme Court strikes down most of Trump’s tariffs in a major blow to the president - NBC News
- Supreme Court strikes down tariffs - SCOTUSblog
- Amazon, Etsy, other e-commerce stocks pop after Supreme Court rules against Trump’s tariffs - CNBC
- Trump announces new 10% global tariff after raging over Supreme Court loss - CNBC
- Supreme Court’s Trump tariff decision: five takeaways - CNBC
- What the Supreme Court’s tariff ruling changes, and what it doesn’t - PIIE
- Supreme Court Tariff Ruling: IEEPA Revenue and Potential Refunds - Penn Wharton Budget Model
- 相互関税、違憲判決 米最高裁「大統領に権限なし」 - 時事通信
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