国連が財政危機、米国の未払いで7月に運営費枯渇の恐れ
はじめに
国連のアントニオ・グテレス事務総長は2026年1月29日、加盟国向けの書簡で、通常予算の分担金未払いによって財政危機が差し迫っていると警告しました。書簡によれば、現状が続けば2026年7月までに運営費が枯渇する可能性が高いと指摘されています。名指しこそされていないものの、最大の分担金拠出国である米国の未払いが主な原因とされています。
国連は創設80周年を迎える節目の年に、組織の存続を脅かす深刻な財政危機に直面しています。本記事では、国連が直面する財政危機の実態、米国をはじめとする加盟国の未払い状況、そして国連が取り組む予算削減策とその影響について、独自調査に基づき詳しく解説します。
国連の財政危機の実態
過去最高の未払い額
2025年末時点で、国連加盟国による分担金の未払い額は15.7億ドル(約2,300億円)に達し、過去最高を記録しました。国連総会予算委員会の報告によれば、2025年9月末時点で全額支払いを完了したのは193カ国中わずか136カ国にとどまり、支払われた分担金は全体の66.2%に過ぎません。
グテレス事務総長は2025年10月にも「財政破綻への道を進んでいる」と警告を発しており、国連の重要な活動が危機に瀕していると繰り返し訴えてきました。今回の書簡では、具体的に2026年7月という期限を示すことで、事態の緊急性を強調しています。
平和維持活動にも影響
通常予算だけでなく、平和維持活動(PKO)の予算も深刻な影響を受けています。2025年9月30日時点で、PKO関連の未払い額は全加盟国合計で約37億ドルに達しています。この資金不足を受け、グテレス事務総長は2025年10月、すべての平和維持ミッションに対して支出を15%削減し、制服を着た要員の25%を本国に送還するよう要請しました。
世界各地の紛争地域で活動する国連PKOにとって、この予算削減は深刻な打撃です。現場での活動縮小は、地域の安定化や紛争後の復興支援に悪影響を及ぼす可能性があります。
米国の未払いと国際的影響
最大拠出国の責任
国連通常予算における分担率は、各国の支払能力に基づいて3年ごとに決定されます。米国は最上位の拠出国として通常予算の22%を負担しており、中国の20%がそれに続きます。しかし、米国の未払い額は2025年第3四半期末時点で通常予算分だけで15億ドルに達し、PKO予算と合わせると総額30億ドル(約4,400億円)に上ります。
この未払いは法的義務の不履行にあたります。国連憲章第17条は、「機構の経費は、国際連合総会によって割り当てられるところに従って、加盟国が負担する」と明記しており、分担金の支払いは加盟国の義務です。グテレス事務総長も、米国には国連機関への資金拠出に関する「法的義務」があると強調しています。
政治的背景と政策転換
米国の未払いには政治的な背景があります。特に2025年以降、米国は国連機関への拠出金を大幅に削減し、通常予算とPKO予算への支払いを事実上拒否する姿勢を示しています。2026会計年度の予算案では、PKO拠出金口座(CIPA)への予算配分がゼロとなっており、これは56億ドル規模のグローバルPKO予算に14億ドルの穴を開けることを意味します。
この政策転換は、多国間主義への疑問や国連の効率性に対する批判を背景としています。しかし、最大の拠出国である米国の不参加は、国連の財政基盤そのものを揺るがす事態となっています。
他国の未払い状況
米国だけでなく、他の主要国も未払いを抱えています。2025年第3四半期末時点で、中国は1億9,200万ドル、ロシアは7,200万ドルの未払いがあります。81カ国が分担金を未払いという状況は、国連の財政運営に深刻な流動性危機をもたらしています。
国連の対応策と組織改革
2026年予算の大幅削減
財政危機に対応するため、加盟国は2026年度予算を前年比約7%減の34.5億ドル(約5,000億円)とすることで合意しました。一部報道では、当初提案された予算案では約15%削減の32億ドル規模とされており、いずれにしても大幅な予算縮小が避けられない状況です。
この予算削減は、国連の活動全般に影響を及ぼします。調査研究、人道支援、開発プログラムなど、多岐にわたる分野で活動規模の縮小が予想されます。
職員削減と組織スリム化
予算削減に伴い、国連は職員の大幅削減にも着手しています。報道によれば、約19%にあたる2,680人の職員削減が発表されました。また、求人募集は半減し、世界各地の平和維持部隊の4分の1が削減される見通しです。
さらに、組織改革の一環として、一部業務をケニアやウガンダなどに集約・移転する計画も進められています。これは人件費の削減だけでなく、運営コストの効率化を図る狙いがあります。
効率性向上への取り組み
グテレス事務総長は、2026年修正予算案において「説明責任の強化、成果の改善、コスト削減」を目標に掲げ、より効果的かつ効率的に任務を遂行するための実践的改革を進めるとしています。限られた予算の中で国連の機能を維持するため、業務プロセスの見直しや重複の排除が進められています。
分担金制度の仕組みと課題
分担率の決定方法
国連分担金は、国連憲章に基づき加盟国が負担することが義務付けられており、通常予算分担金とPKO分担金の2種類があります。分担率は3年に1回、加盟国間の交渉を経て国連総会で決定されます。
現行の分担率は、国民総所得(GNI)を基礎とし、低所得国への割引制度や債務負担調整などを適用して算出されます。例えば、2024年の分担率交渉では、日本の分担率は過去3年間の8.033%から6.930%(2025〜2027年)に減少しました。
制度の限界と改革の必要性
この制度は各国の支払能力を反映する一方で、構造的な課題も抱えています。最大の問題は、分担金の支払いが法的義務であるにもかかわらず、強制力が弱いことです。未払いに対する罰則が事実上機能していないため、政治的判断によって支払いを拒否する国が出てきています。
また、分担率の決定プロセスにおける政治的交渉も課題です。特に大国間のパワーバランスが分担率に影響を及ぼすケースもあり、公平性や透明性の向上が求められています。
今後の展望と課題
7月までの資金繰り
グテレス事務総長の警告通り、2026年7月までに運営費が枯渇する可能性は現実味を帯びています。短期的には、加盟国からの分担金支払いを促進することが最優先課題です。特に米国をはじめとする主要拠出国の支払い再開が鍵を握ります。
国連は加盟国に対して「期日通りに分担金の全額を支払う」よう繰り返し要請していますが、政治的意思の欠如が最大のハードルとなっています。
国連の役割と存在意義の再確認
財政危機は、国連の役割と存在意義を再考する契機ともなっています。多国間主義が挑戦を受ける現代において、国連は平和維持、人権保護、持続可能な開発など、単独の国家では対応できない地球規模の課題に取り組む唯一の普遍的な国際機関です。
しかし、その機能を維持するには安定的な財政基盤が不可欠です。加盟国は短期的な政治的利益を超えて、国際協調の枠組みを維持する長期的な視点が求められています。
改革の方向性
今後の国連には、財政の持続可能性を確保するための抜本的な改革が必要です。具体的には、分担金制度の見直し、未払いに対する実効性のある措置の導入、民間資金の活用拡大などが検討課題となります。
同時に、組織の効率性向上と透明性の確保も重要です。加盟国や市民からの信頼を回復し、資金拠出の正当性を示すことが、長期的な財政安定化につながります。
まとめ
国連が直面する財政危機は、単なる会計上の問題ではなく、国際秩序と多国間協調の基盤を揺るがす深刻な事態です。米国をはじめとする主要国の分担金未払いにより、2026年7月までに運営費が枯渇する可能性が現実味を帯びています。
国連は予算削減と職員削減で対応していますが、これは活動規模の縮小を意味し、世界各地で展開される平和維持活動や人道支援に深刻な影響を及ぼします。分担金は法的義務であるにもかかわらず、政治的判断による不払いが常態化している現状は、国連憲章の理念からの逸脱といえます。
この危機を乗り越えるには、加盟国が国際協調の価値を再認識し、財政的責任を果たすことが不可欠です。同時に、国連自身も効率性と透明性を高め、21世紀の課題に対応できる組織へと進化していく必要があります。今後数カ月の動向が、国連の未来を左右する重要な分岐点となるでしょう。
参考資料:
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