ベネズエラ介入でOPECの価格支配力は低下するのか

by nicoxz

はじめに

2026年1月、トランプ米政権がベネズエラへの軍事介入を実施し、同国の石油開発に乗り出す方針を示しました。世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラの石油産業が米国の管理下に置かれることで、石油輸出国機構(OPEC)の価格支配力が一段と低下するとの見方が広がっています。

国際原油指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は現在1バレル59ドル程度で推移しており、米エネルギー情報局(EIA)は2026年の原油価格が平均50ドル前後になると予測しています。OPECの盟主サウジアラビアをはじめとする湾岸アラブ産油国は、脱石油の改革を一段と急ぐ必要に迫られています。

この記事では、ベネズエラ介入の背景、OPECへの影響、そして産油国が直面する構造的な課題について詳しく解説します。

ベネズエラ介入の背景と石油利権

世界最大の埋蔵量を持つ資源大国

ベネズエラは約3,030億バレルの原油埋蔵量を保有しており、これは世界全体の約17~19%を占めます。サウジアラビアやイラクを上回る世界最大の埋蔵量です。しかし、政治的混乱と経済制裁、インフラの老朽化により、生産量は1990年代後半の日量300万バレル超から、2025年時点で日量約93万バレルまで落ち込んでいます。

トランプ大統領は2026年1月3日、ベネズエラへの軍事攻撃を実施し、マドゥロ大統領を拘束・国外移送したと発表しました。その背景には、反米のマドゥロ政権が続くことで中国やロシアとの取引が拡大し、南北アメリカを「米国の縄張り」とする政権構想に支障をきたすとの判断がありました。

米国が重質油を必要とする理由

シェール革命により米国は世界最大の産油国となりましたが、国産原油の品質には偏りがあります。ガソリンなどの石油製品を低コストで精製するには、軽質油だけでなく重質油も必要です。ベネズエラ産の重質原油は、米国の製油所にとって品質面で国産原油を補完する重要な存在となっています。

トランプ大統領は1月5日、米国の石油企業がベネズエラでインフラ再建に取り組めば18カ月以内に事業を拡大できるとの見通しを示し、企業が負担した費用は米政府が返済すると表明しました。

石油企業の慎重な姿勢

一方で、米国の大手石油企業は慎重な姿勢を示しています。エクソンモービルのダレン・ウッズCEOはトランプ大統領との会談で「現時点で投資は不可能だ」と伝えました。ベネズエラの石油インフラは過去50年間ほとんど更新されておらず、生産能力を回復させるには580億ドル(約8兆円)規模の投資が必要との試算もあります。

また、ベネズエラの原油は「超重質油」と呼ばれるアスファルトのような粘度の高い油種で、精製には特別な設備が必要です。メタンの漏出やフレアリング(余剰ガスの焼却処分)のリスクも高く、環境面での課題も指摘されています。

OPECの価格支配力低下

原油価格低迷の構造的要因

国際エネルギー機関(IEA)によると、2026年の世界石油供給は需要を日量380万バレル上回り、記録的な供給過剰となる見通しです。原油価格は2025年に約18%下落し、1バレル60ドル前後で推移しています。

OPEC+は2022年後半から減産を続けてきましたが、価格下落を止められていません。2026年第1四半期も生産枠を据え置く方針を確認しましたが、市場の弱気心理を変えることはできませんでした。多くのアナリストは、2026年は原油にとって「非常に弱気な年」になると予測しています。

ベネズエラ増産が与えるインパクト

ベネズエラが2015年水準の生産量を回復した場合、日量100~150万バレル(世界生産の1~1.5%程度)の増産が見込まれます。これは世界的な原油相場に対して一定の価格下落圧力となります。

ただし、大幅な増産には巨額の投資と時間が必要です。専門家は「数年間にわたり数百億ドル規模の投資」が必要と試算しており、短期的に生産量が急拡大する可能性は低いとの見方が優勢です。

OPEC+の選択肢の狭まり

OPEC+にとって選択肢は限られています。さらなる減産を行えば市場シェアを失い、増産すれば価格下落を加速させます。現状維持を続ければ、非OPEC産油国の増産により徐々に影響力が低下していきます。

世界の石油生産に占めるOPEC+のシェアは約40%ですが、米国のシェールオイル、ブラジル、ガイアナなど非OPEC産油国の生産拡大により、その支配力は着実に弱まっています。

湾岸産油国の脱石油改革

サウジアラビア「ビジョン2030」の進捗

サウジアラビアは2016年に発表した経済改革計画「ビジョン2030」の下、石油依存からの脱却を進めています。2025年12月に発表された2026年国家予算では、歳入1兆1,470億リヤル(約47兆7,000億円)を見込んでいます。

非石油部門のGDP比率は着実に上昇していますが、改革資金の元手となる石油収入が原油安で減少するなか、投資の優先順位見直しを迫られています。政府系ファンドは海外投資の割合を30%から18~20%に引き下げ、国内投資を優先する方針に転換しました。

新エネルギー分野への投資

サウジアラビアは新都市プロジェクト「NEOM」を核に、水素エネルギーの製造拠点を目指しています。2060年までのカーボンニュートラル達成を掲げ、再生可能エネルギーとクリーン水素の供給国として世界市場でのポジションを確立しようとしています。

石油に代わるエネルギー源の確保は、長期的な国家存続に関わる課題です。しかし、現時点で石油収入に代わる柱は育っておらず、改革の道半ばにあります。

注意点・展望

短期的には影響限定的

ベネズエラの石油生産回復には長い時間がかかります。インフラの復旧、投資環境の整備、熟練労働者の確保など、課題は山積しています。市場は短期的な生産増を織り込んでおらず、原油価格への直接的な影響は限定的と見られています。

出光興産の木藤俊一会長も「ベネズエラの原油は重質で硫黄分が多く、日本の製油所では使いにくい」と述べており、日本の原油調達に直接の影響はないとの見方を示しています。

中長期的な構造変化

しかし中長期的には、世界の石油市場における力学が変化する可能性があります。ベネズエラが仮に生産を回復させれば、OPECの価格調整能力はさらに低下します。産油国は「脱石油」の改革を急ぐ必要がありますが、原油価格の低迷がその原資を削っているというジレンマに直面しています。

地政学リスクの継続

ベネズエラ介入は、ロシア・ウクライナ戦争、イラン情勢と並ぶ地政学リスクとして市場の不確実性を高めています。米国が主導する新たな石油秩序の構築は、既存の産油国との対立を生む可能性があり、エネルギー安全保障を巡る国際関係は一層複雑化しそうです。

まとめ

トランプ政権によるベネズエラ介入は、OPECの価格支配力低下を加速させる可能性がありますが、その影響が顕在化するまでには時間がかかります。ベネズエラの石油インフラ復旧には数年と数百億ドル規模の投資が必要であり、短期的な原油価格への影響は限定的です。

しかし、世界の石油市場は構造的な供給過剰に直面しており、2026年の原油価格は50~60ドル前後で低迷する見通しです。サウジアラビアをはじめとする湾岸産油国は、石油収入の減少という逆風の中で「脱石油」改革を進める難しい局面を迎えています。

エネルギー市場の変化を注視しつつ、産油国の改革動向と国際関係の変化に注目していく必要があります。

参考資料:

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