アフリカ・中東が観光新興地域に台頭、トランプ規制の影響も
はじめに
世界の国際観光が歴史的な転換点を迎えています。国連観光機関(UN Tourism)の最新統計によると、2025年の国際観光客数は15億2,000万人に達し、新型コロナウイルスのパンデミック前である2019年の水準を超えて過去最高を更新しました。
特に注目すべきは、アフリカと中東地域の急成長です。自然の魅力やスポーツイベント、そして観光立国を目指す各国の積極的な政策により、これらの地域が国際的な観光地として存在感を高めています。一方で、第2次トランプ政権による厳格な入国規制がグローバルな人の移動に影響を与え始めており、観光業界は新たな課題にも直面しています。
本記事では、世界観光の最新動向とアフリカ・中東の台頭、そしてトランプ政権の政策が及ぼす影響について詳しく解説します。
過去最高を記録した2025年の国際観光
15億人突破の歴史的達成
UN Tourismの発表によると、2025年の国際観光客到着数は前年比4%増の15億2,000万人となりました。これは2024年より約6,000万人多い数字であり、パンデミック前の2019年を上回る過去最高記録です。
観光による経済効果も顕著で、2025年の観光輸出総収入(観光収入と旅客運賃を含む)は推定2.2兆米ドルに達しました。国際観光収入単体でも前年比5%増の約1.9兆米ドルを記録し、観光産業が世界経済において重要な役割を果たしていることを示しています。
地域別の成長状況
地域別に見ると、ヨーロッパが依然として世界最大の観光地域として君臨しています。2025年には7億9,300万人の国際観光客を受け入れ、前年比4%増、2019年比でも6%増となりました。
アジア太平洋地域は3億3,100万人の観光客を迎え、前年比6%の成長を記録しました。ただし、パンデミック前の水準には依然として9%及ばず、回復途上にあります。
南北アメリカ大陸は2億1,800万人で1%の成長にとどまりました。これは後述するトランプ政権の政策の影響もあると見られています。
アフリカ観光の急成長
二桁成長を続けるアフリカ大陸
アフリカは2025年に最も力強いパフォーマンスを見せた地域の一つです。国際観光客数は8,100万人に達し、前年比8%増という高い成長率を記録しました。特に北アフリカは11%増と、二桁成長を達成しています。
2025年上半期のデータでは、アフリカ全体が前年同期比12%増と最も高い成長率を示しました。北アフリカが14%増、サハラ以南アフリカが11%増と、いずれも二桁成長を実現しています。
エジプトとモロッコが牽引
アフリカの観光成長を牽引しているのがエジプトとモロッコです。
エジプトでは2024年に外国人観光客数が1,570万人となり、前年の1,490万人を大きく上回って過去最高を記録しました。エジプト政府は2028年までに観光客数を3,000万人に引き上げる野心的な目標を掲げており、観光インフラの整備を加速させています。2025年の国際観光客到着数の伸び率は20%に達し、世界でも最も高い成長率を記録した国の一つとなりました。
モロッコも2025年10月末までに観光客数1,660万人を記録し、前年比14%増という目覚ましい成長を遂げています。観光収入の面でも19%増と、世界トップクラスの伸び率を示しました。
モロッコは2030年にサッカーワールドカップの共同開催国となる予定であり、「Vision 2030」と呼ばれる観光戦略のもと、高級ホテル開発などの観光インフラ強化を急ピッチで進めています。トルコの高級ホテルブランドRixos Hotelsとの間で総額約504億円規模の戦略的パートナーシップを締結するなど、大規模な投資が相次いでいます。
中東観光の躍進
パンデミック前を大幅に上回る回復
中東は2025年に3%の成長を記録し、国際観光客数は1億人に迫る水準に達しました。特筆すべきは、2019年比で39%増という驚異的な回復ぶりです。世界で最も回復が進んだ地域として、観光業界の注目を集めています。
ドバイの圧倒的な存在感
中東観光の中心地であるドバイは、2024年に1,870万人の国際観光客を迎え、前年比8.7%増を記録しました。これはパンデミック前の2019年と比較しても12%高い数字です。
2025年1月から7月にかけても前年同期比5%増の1,117万人を記録し、堅調な成長を続けています。ドバイ国際空港は2025年7〜9月の利用客数が2,420万人となり、四半期ベースで過去最高を更新しました。2年以内に年間利用客1億人突破が見込まれています。
UAE全体としても、観光産業の開発、治安の良さ、航空輸送インフラの整備といった効果的な施策により、観光客に最も優しい国の一つとして評価を高めています。
サウジアラビアの観光開放
かつて観光目的の入国が原則認められていなかったサウジアラビアも、2019年9月に観光ビザを解禁し、国際観光市場に本格参入しました。2022年には聖地メディナへの観光客受け入れも開始しています。
現在、日本を含む49カ国の国民に対して電子ビザ(eVisa)の発給を行っており、1年間有効で最大90日間の滞在が可能となっています。サウジアラビアは「Vision 2030」のもと、観光産業を経済多角化の柱として位置づけ、積極的な投資を続けています。
トランプ政権の入国規制と観光への影響
厳格化する米国の入国政策
第2次トランプ政権は、厳しい入国規制を相次いで打ち出しています。2025年6月には「外国のテロリストおよびその他の国家安全保障・公共安全上の脅威から米国を守る」ことを目的とした大統領布告に署名し、19カ国からの入国を制限する措置を発表しました。
さらに12月には入国禁止・制限対象国を39カ国に拡大する大統領令に署名しました。全面入国禁止国にはブルキナファソ、マリ、ニジェール、南スーダン、シリアの5カ国が追加され、2026年1月1日から発効しています。
観光客にも広がる影響
規制の影響は観光客にも及んでいます。米政府は2025年12月、ビザなしで観光に訪れる外国人に対し、最大5年分のSNS利用情報の提出を義務付ける規制案を公表しました。対象国は日本や欧州諸国を含む数十カ国に上り、電子渡航認証システム(ESTA)の申請時にSNS情報の開示が必須となる見込みです。
実際に、ドイツ人や英国人などの外国人渡航者が米国入国の際に拘束されるという事例が報告されています。観光目的の旅行者や永住権保有者まで影響が及んでおり、英国やドイツなどの外務省は最悪の場合、米当局により逮捕・拘留される可能性があると警告しています。
米国観光への影響
こうした厳格な政策の結果、南北アメリカ大陸の観光成長率は2025年に1%にとどまりました。UN Tourismも米国の結果を「弱い」と評価しており、トランプ政権の政策が観光業に影を落としていることを示唆しています。
一部の専門家からは「もはや観光目的で米国を訪れることさえ安全とはいえない」という声も出始めており、米国への旅行を敬遠する動きが広がる可能性があります。
今後の展望と注意点
2026年以降の見通し
UN Tourismは2026年の国際観光客数が2025年比で3〜4%成長し、15億8,000万人に達すると予測しています。専門家パネル調査では、約58%が「2026年は2025年よりも良い年になる」と回答しており、国際観光の勢いは当面続くと見られています。
2030年には国際観光客到着数が20億人に達するという予測もあり、持続可能で包括的な成長に向けた取り組みの重要性が増しています。
地政学リスクへの注意
観光業界にとって、地政学的なリスクは常に注視すべき要素です。トランプ政権の入国規制に加え、中東や東欧での紛争、経済的な不確実性などが観光需要に影響を与える可能性があります。
また、アフリカ・中東地域への旅行を計画する際は、各国の治安状況や入国要件を事前に確認することが重要です。特にサウジアラビアでは、イスラム暦の大巡礼期間中に観光目的での入国が制限される場合があります。
まとめ
2025年の国際観光は15億人を突破し、パンデミックからの完全回復を果たしました。アフリカと中東は自然やスポーツの魅力、そして観光立国を目指す積極的な政策により、世界の観光地図において存在感を急速に高めています。
一方で、トランプ政権の厳格な入国規制が米国への観光に影を落としており、グローバルな人の移動のあり方に変化をもたらしつつあります。今後の国際観光は、各国の政策動向や地政学的リスクを注視しながら、持続可能な成長を模索していくことになるでしょう。
旅行を計画する際は、目的地の最新情報を確認し、必要な準備を整えることが大切です。
参考資料:
- UN Tourism - International tourist arrivals up 4% in 2025
- 2025年の世界観光客数は15.2億人 - やまとごころ.jp
- エジプト観光客、過去最高の1570万人に - EMB BUSINESS NEWS
- UN Tourism Reports Robust Global Recovery With 1.52 Billion Arrivals In 2025 - BW Travel
- モロッコとRixos Hotelsが高級ホテル開発で提携 - ジェトロ
- 好調なU.A.Eの観光産業 - ドバイ経済新聞
- トランプ大統領が新たな入国禁止令を発令 - 特典旅行
- 観光客も米国で拘束 - JBpress
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