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by nicoxz

欧州・日本の保険会社がアマゾン違法伐採を助長した実態

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はじめに

世界最大の熱帯雨林であるアマゾンの違法伐採問題に、先進国の保険会社が深く関与していることが明らかになりました。日本や欧州を含む複数の保険会社がブラジルで農業保険を引き受け、政府が開発を禁止した地域での農業活動を補償していたのです。

この問題は単なる一企業の不祥事ではなく、グローバルな金融システムが環境破壊を助長してしまう構造的な課題を浮き彫りにしています。本記事では、この問題の背景から具体的な事例、そして今後の対策まで詳しく解説します。

ブラジル農業保険制度の仕組みと問題点

PSR(農業保険補助金プログラム)とは

ブラジルには「Programa de Subvenção ao Prêmio do Seguro Rural(PSR)」と呼ばれる農業保険補助金制度があります。この制度では、政府が農業保険料の一部を補助することで、農家の保険加入を促進しています。

2026年度の計画では、政府は約10億レアル(約250億円)の予算を計上し、8万2000人の農家に対して最大13万件の保険契約をカバーする予定です。対象面積は700万ヘクタール、保険金額は480億レアルに達します。

監視システムの欠陥

問題は、この制度が環境法違反者を十分にスクリーニングできていないことです。本来、違法伐採で「禁輸措置(エンバーゴ)」を受けた土地では農業活動が禁止されており、保険の対象外となるはずです。

しかし実際には、環境当局のデータベースと保険契約システムが連携しておらず、違法伐採地でも保険契約が成立してしまう状況が続いていました。ブラジル農業省は2024年末に監視システムの導入を予定していましたが、実際の運用開始は2025年第1四半期にずれ込んでいます。

具体的な事例と関与した保険会社

Swiss Reの事例

スイスの再保険大手Swiss Reは、ブラジルで特に多くの問題事例が報告されています。Repórter Brasilと国際NGO「Public Eye」の共同調査によると、Swiss Reは2016年から2022年の間に、違法伐採が確認された農場と少なくとも19件の保険契約を結んでいました。

特に顕著な事例として「マント・ヴェルデ農場」があります。この農場でSwiss Reが提供した17件の大豆作物保険の地理座標は、2400ヘクタールの禁輸区域と正確に一致していました。同社がブラジルで保険対象としている総面積は65万9000ヘクタールに及び、これはスイス最大の州であるグラウビュンデン州とほぼ同じ広さです。

Mapfre・Brasilsegの事例

2024年の調査では、スペインのMapfreとブラジルのBrasilsegが、環境違反で禁輸措置を受けた農場に保険を提供していたことが判明しました。マット・グロッソ州で確認された5つの農場は、アマゾンでの違法伐採により禁輸対象となっていたにもかかわらず、政府補助金付きの保険契約を結んでいました。

これらの契約には合計5万2700レアル(約130万円)の補助金が支払われ、禁輸対象面積は1821ヘクタールに達しました。

その他の関与企業

2019年から2023年にかけての調査では、Porto Seguro、Essor、Allianzなど計8社の保険会社が問題のある契約に関与していたことが報告されています。これらの企業は2022年のPSRプログラムで引き受けた保険契約の76%を占めていました。

先進国企業が環境破壊に加担する構図

金融機関のデューデリジェンス不足

この問題の根本には、保険会社による環境デューデリジェンス(適正評価)の不足があります。Swiss Reは「持続可能性への野心と目標に完全にコミットしている」と表明していますが、実際の契約時には禁輸情報のチェックが適切に行われていませんでした。

保険会社がブラジル環境当局のIBAMA(ブラジル環境・再生可能天然資源院)のデータベースを参照していれば、禁輸対象農場への保険提供は避けられたはずです。しかし、そのような確認プロセスが契約フローに組み込まれていなかったのです。

補助金が違法行為を助長

政府補助金が違法行為を経済的に支援してしまう皮肉な構図も問題です。PSRプログラムでは、農家が支払う保険料の一部を政府が負担します。これにより、違法伐採地で活動する農家も低コストで保険に加入でき、リスクをヘッジしながら非合法な農業を続けられる状況が生まれていました。

グローバルサプライチェーンとの関連

この問題は、グローバルな食品サプライチェーンにも波及します。違法伐採地で生産された大豆や牛肉は、最終的に世界中の消費者の食卓に届く可能性があります。2024年末からはEUの「森林破壊フリー製品規則(EUDR)」が施行され、2020年以降に伐採された土地で生産された製品のEU輸入が禁止されます。

アマゾン違法伐採の現状

94%が違法という衝撃的な実態

ブラジルのミナスジェライス連邦大学などの調査によると、アマゾン熱帯雨林と周辺のセラード地域における森林伐採の94%は違法とされています。法律上、アマゾン地域の農場では面積の80%を森林として保全することが義務付けられていますが、この規定はほとんど守られていません。

森林破壊の最大の原因は牧畜業で、伐採地の約77%が牛の放牧地として使用されています。大豆栽培は全体の6%程度ですが、近年急速に拡大しています。

ルラ政権の取り組みと課題

2023年に就任したルラ大統領は森林保全を政策の柱に据え、2030年までに違法伐採ゼロを目標に掲げています。実際、2023年のアマゾン伐採面積は前年比22%減少しました。

しかし課題も山積しています。2025年11月のCOP30終了直後、ブラジル議会の農業ロビーは環境規制を緩和する法案を可決しました。この法律では、許可なく伐採された土地が事後的に合法化できるようになり、違法伐採を報いる結果となっています。

注意点・今後の展望

監視システムの強化

ブラジル農業省は、衛星データと環境当局のデータベースを統合した新しい監視システムの導入を進めています。このシステムが稼働すれば、禁輸対象地や先住民居住地、奴隷労働ブラックリストなどとの照合が自動化され、問題のある契約を事前に防げるようになります。

ただし、システムの運用開始は当初予定より遅れており、2025年中の本格稼働が待たれます。

ESG投資の観点からの圧力

国際的なESG(環境・社会・ガバナンス)投資の潮流も、保険会社の行動変容を促す要因となっています。Swiss Reの年次株主総会では、9万5000人以上の署名による抗議活動が行われ、森林破壊に関与する農業ビジネスへの保険提供停止が求められました。

機関投資家や年金基金からの圧力も高まっており、日本やオランダの年金基金がブラジルの食肉大手に投資していることへの批判も出ています。

2026年の展望

2026年はブラジルにとって重要な年です。大統領選挙が予定されており、その結果次第でアマゾン政策が大きく変わる可能性があります。また、大豆モラトリアム(アマゾン産大豆の取引自粛協定)からCargill、ADM、Bungeなどの大手穀物商社が撤退を表明しており、伐採面積が30%増加する可能性も指摘されています。

まとめ

先進国の保険会社がアマゾンの違法伐採に加担していた問題は、グローバル金融と環境破壊の複雑な関係を示しています。直接的な伐採行為を行っていなくても、金融サービスの提供を通じて間接的に環境破壊を助長してしまうリスクがあるのです。

消費者や投資家として私たちにできることは、購入する製品のサプライチェーンや、投資先企業のESGポリシーに関心を持つことです。保険会社や金融機関が適切なデューデリジェンスを行っているか、監視の目を向けることが、遠く離れたアマゾンの森林を守ることにつながります。

参考資料:

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