クレディセゾンがブラジルでネット銀行設立へ
はじめに
日本の大手クレジットカード会社クレディセゾンが、ブラジルでインターネット銀行の設立に向けて動き出しました。同社はブラジル中央銀行にネット銀行の設立認可を申請し、年内にも個人事業主や中小企業向けの融資サービスを開始する計画です。
少子高齢化が進む日本市場での成長に限界を感じる中、クレディセゾンは新興国市場での収益拡大を加速させています。インドでの事業成功に続き、人口2億1,000万人を超え、若年層が多くデジタル技術が急速に普及するブラジル市場への本格参入は、同社のグローバル戦略における重要な一歩となります。
この記事では、クレディセゾンのブラジル進出の背景、ブラジルのフィンテック市場の現状、そして今後の展望について詳しく解説します。
クレディセゾンのグローバル戦略
インドでの成功体験
クレディセゾンの海外事業は、2014年にシンガポールに統括会社を設立したことから本格的に始まりました。しかし、グローバル事業の転機となったのは2018年に開始したインド事業です。
Credit Saison Indiaは、わずか2年で黒字化を達成するという驚異的な成果を上げました。債権残高は創業から5年間で2,000億円を超え、32倍もの成長率を記録しています。この成功の背景には、現地採用によるマネジメント体制の構築と、デジタルレンディング(オンライン融資)に特化した戦略がありました。
インドでは、銀行口座を持たない人々や、従来の金融サービスにアクセスできない中小企業が多数存在します。クレディセゾンは、こうした「アンダーサーブド層」と呼ばれる顧客層に焦点を当て、現地のフィンテック企業と提携したB2B2Cモデルで事業を展開しました。
ブラジル進出の経緯
クレディセゾンは2023年2月にブラジル、同年3月にはメキシコに事業会社を設立し、ラテンアメリカ地域への進出を果たしました。進出先としてこれらの国を選んだ理由は、世界トップクラスの市場規模と成熟したフィンテック・エコシステムを兼ね備えていたためです。
ブラジルでの事業会社Credit Saison Brazilは、インドで確立したビジネスモデルの横展開を目指しており、「第二のインド」として位置づけられています。現在はB2B2Cモデルでの融資事業を展開しており、将来的にはB2C(消費者直接向け)事業への拡大も視野に入れています。
急成長するブラジルのフィンテック市場
市場規模と成長予測
ブラジルのフィンテック市場は急速な成長を続けています。2024年の市場規模は47.3億米ドルに達し、2033年には175.8億米ドルまで成長すると予測されています。年平均成長率は15.7%という高い水準です。
デジタルバンキングの普及率も著しく、ブラジル国民の70%以上がすでにデジタルバンキングサービスを利用しています。銀行取引全体に占めるデジタル取引の割合は80%を超えており、世界的に見ても非常に高い水準にあります。
Pixの革命的な普及
ブラジルのフィンテック市場を語る上で欠かせないのが、即時決済システム「Pix」の存在です。2020年にブラジル中央銀行が導入したPixは、年間400億件を超える取引を処理しており、クレジットカードやデビットカードの取引量を上回っています。
24時間365日、即時かつ無料で送金が可能なPixは、ブラジル国民の日常生活に深く浸透しています。このデジタル決済インフラの整備が、フィンテック企業の成長を後押ししています。
オープンバンキングの先進国
ブラジルは世界で最もオープンバンキングの普及率が高い国の一つです。オープンファイナンスの利用者数は5,370万人に達し、成人人口の約25%が利用しています。
オープンバンキングとは、顧客の同意のもと、銀行が保有する顧客データを他の金融機関やフィンテック企業と共有する仕組みです。この制度により、顧客は自身の金融データを活用してより有利な条件でローンを組んだり、新しい金融サービスを利用したりできるようになります。
急成長するデジタルバンク
ブラジルでは、Nubank(ヌーバンク)をはじめとするデジタルバンクが急成長しています。Nubankの顧客数は2025年第3四半期時点で1億930万人に達し、前年比12%増加しました。これはブラジル国内で3番目に大きな金融機関に相当する規模です。
また、Mercado Pagoは6,610万人、PicPayは6,560万人の顧客を抱えており、伝統的な銀行に匹敵する規模に成長しています。
クレディセゾンのブラジル戦略
ネット銀行設立の意義
今回申請されたネット銀行ライセンスは、「SCFI」(Sociedade de Crédito, Financiamento e Investimento:信用・金融・投資会社)と呼ばれる業態です。これは消費者金融や割賦販売金融などを行う金融機関のライセンスであり、クレディセゾンの強みである融資事業を本格展開するための基盤となります。
ネット銀行ライセンスを取得することで、クレディセゾンは現地のフィンテック企業との提携だけでなく、直接顧客にサービスを提供することも可能になります。これはインドで展開している直接貸付(ダイレクトレンディング)モデルのブラジル版ともいえるでしょう。
ターゲット顧客層
クレディセゾンがブラジルで狙うのは、個人事業主や中小企業です。ブラジルには約1,500万の中小企業が存在しますが、その多くは従来の銀行から十分な融資を受けられていません。
フィンテック企業による融資額は2024年に355億レアル(約1兆円)に達し、前年比68%増加しました。これは、従来の銀行がカバーできていない市場の大きさを示しています。
金融包摂への貢献
クレディセゾンのグローバル事業の理念は「ファイナンシャル・インクルージョン」(金融包摂)の実現です。経済的・地理的な理由や、インフラの問題から既存の金融サービスにアクセスできない人々や企業に対して、適切な金融サービスを提供することを目指しています。
ブラジルでは、銀行口座を持っていても融資を受けられない人々が多数存在します。クレディセゾンは、デジタル技術を活用したスコアリング(信用評価)により、こうした顧客層にも融資サービスを提供できると考えています。
今後の展望と課題
収益目標
クレディセゾンは2026年度までの中期経営計画で、事業利益1,000億円を掲げています。そのうち2割(200億円)をグローバル事業で稼ぐことを目標としており、インドとブラジルがその中核を担います。
ブラジルとメキシコでは、3〜5年後までに合計1,000億円規模の融資残高を目指しています。この目標を達成できれば、クレディセゾンのグローバル事業は新たな成長ステージに入ることになります。
競争環境の厳しさ
一方で、ブラジルのフィンテック市場は競争が激化しています。Nubankをはじめとする現地のデジタルバンクは強固な顧客基盤を築いており、後発のクレディセゾンがシェアを獲得するには差別化が必要です。
クレディセゾンの強みは、インドで培った中小企業向け融資のノウハウと、日本企業としての信用力です。現地パートナーとの連携を深めながら、独自のポジションを確立できるかが成功の鍵となるでしょう。
規制対応
ブラジル中央銀行は金融機関に対する規制を厳格に運用しています。ネット銀行ライセンスの取得には時間がかかる可能性があり、認可後も継続的なコンプライアンス対応が求められます。
また、ブラジル特有の税制や労働法規への対応も課題です。現地法人の経営陣を現地採用で固めるというクレディセゾンの方針は、こうした現地特有の課題に対応するためでもあります。
まとめ
クレディセゾンのブラジルでのネット銀行設立は、日本の金融機関による新興国市場開拓の重要な事例となります。インドでの成功モデルを横展開し、急成長するブラジルのフィンテック市場で存在感を示せるか注目されます。
少子高齢化が進む日本では、金融機関の成長余地は限られています。クレディセゾンのようなグローバル展開の動きは、今後他の日本企業にも広がる可能性があります。ブラジルでの事業成否は、日本の金融業界全体にとっても重要な示唆を与えることになるでしょう。
参考資料:
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