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by nicoxz

アンソロピックの法務AI発表で世界株安、選挙期待に冷や水

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はじめに

2026年2月4日、東京株式市場で日経平均株価が一時700円を超える急落を見せました。終値は前日比427円(0.78%)安の5万4,293円となり、前日に史上最高値を更新した勢いは一転、調整局面を迎えることになりました。

この急落の主因となったのが、米AI開発企業アンソロピック(Anthropic)による新しいAIツールの発表です。2月8日投開票の衆院選を控え、「選挙は買い」のアノマリーで上昇ムードが高まっていた市場に、思わぬ冷や水を浴びせる形となりました。

本記事では、アンソロピックの新ツールがなぜこれほどの市場インパクトを与えたのか、そしてソフトウェア業界全体にどのような構造変化をもたらそうとしているのかを詳しく解説します。

アンソロピックが発表した新AIツールの全容

Claude Coworkと法務プラグインの衝撃

アンソロピックは2026年1月31日、AIエージェント「Claude Cowork」向けの新しいプラグイン群を発表しました。その中でも特に市場を揺るがしたのが、2月2日にリリースされた法務プラグインです。

このプラグインは、従来のチャットボット的なAIとは一線を画すものです。契約書レビュー、NDA(秘密保持契約)のトリアージ、コンプライアンスワークフロー、法務ブリーフィングの自動化を実現し、企業の社内法務チーム向けに本格的な業務支援を提供します。

重要なのは、アンソロピックがこのツールを「単なるアシスタント」ではなく、「反復的なホワイトカラー業務の代替」として明確に位置づけた点です。これにより投資家は、AIがソフトウェアサービスを根本から置き換える可能性を現実的な脅威として捉え始めました。

Claude Codeからの進化

アンソロピックは1月12日にClaude Codeの拡張としてCoworkを発売していました。Claude Codeは開発者向けのターミナルベースのコーディングツールですが、Coworkはそのノーコード版として、より幅広いユーザーが利用できる形態で提供されています。

今回の法務プラグインは、このCoworkプラットフォーム上で動作します。アンソロピックは医療・ライフサイエンス向けの垂直統合ソリューションも同時に発表しており、特定業界への本格参入を鮮明にしました。

世界の株式市場を襲った「SaaSpocalypse」

2,850億ドルの市場価値が消失

アンソロピックの発表を受けた2月3日の米国市場では、ソフトウェア、金融サービス、資産運用セクター全体で約2,850億ドル(約43兆円)もの時価総額が消失しました。

ゴールドマン・サックスが算出する米ソフトウェア株バスケットは6%下落し、これは2025年4月の関税ショック以来最大の一日下落率でした。金融サービス企業の指数も約7%下落し、ナスダック100指数は一時2.4%安まで売り込まれました。

ジェフリーズのトレーダー、ジェフリー・ファブッツァ氏はこの状況を「SaaSpocalypse(SaaS株の終末)」と名付け、「売却コストを問わない」トレードスタイルが支配したと表現しています。

法務テック企業への直撃

最も大きな打撃を受けたのは、法務ソフトウェアおよび法務データ関連企業です。

法務データベース「Westlaw」を運営するトムソン・ロイター(Thomson Reuters)の株価は約18%急落し、同社史上最大の一日下落率を記録しました。株価は2021年6月以来の安値水準まで落ち込んでいます。

「LexisNexis」の親会社であるRELXは14%下落し、株価は昨年2月のピークからほぼ半減する水準に。この下落率は1988年以来最大でした。オランダのウォルターズ・クルワー(Wolters Kluwer)も約13%下落しています。

さらに、ファクトセット・リサーチは10.5%安、モーニングスターは9%安、リーガルズームは19.7%もの急落を記録しました。

SaaS大手にも波及

法務テック以外のソフトウェア大手にも売りが波及しました。セールスフォース、ワークデイ、インテュイット、スノーフレークの株価は6%から13%の下落を記録しています。

ジェフリーズのアナリストノートによれば、ソフトウェアセクターへのセンチメントは「過去最悪」の状態にあり、ブルームバーグ・インテリジェンスのアヌラグ・ラナ氏は「放射性廃棄物のような状態」と表現しています。

日本市場への波及

この米国市場の急落は、翌4日の東京市場にも波及しました。アドバンテストや東京エレクトロンなど主力の半導体関連銘柄が売りに押され、日経平均株価は一時700円を超える下落となりました。

前日に史上最高値を更新していたこともあり、利益確定売りが出やすい地合いでしたが、アンソロピック・ショックがその引き金を引いた形です。その後は押し目買いも入り、終値は427円安の5万4,293円で取引を終えています。

なぜ今回の発表がこれほどの衝撃を与えたのか

AIが「ゼロサムゲーム」に変化

今回の株価急落は、投資家がAIを「全員にとっての追い風」ではなく、「勝者と敗者を生み出すゼロサムの力」として初めて本格的に認識したことを示しています。

アンソロピックはこれまで大規模言語モデル(LLM)の開発企業として位置づけられてきました。しかし法務プラグインの発表により、同社がアプリケーション層やビジネスワークフローの領域に直接参入する姿勢を明確にしたのです。

これは、知識やデータへのアクセスを収益基盤としてきた既存ソフトウェア企業にとって、根本的な脅威となります。

「知識ビジネス」の終焉か

モルガン・スタンレーのアナリストはロイターに対し、アンソロピックのCoworkアップグレードが法務分野での競争を激化させたと指摘。「潜在的なネガティブ」のサインである可能性があると警告しています。

特に、専門知識のキュレーションとアクセス提供をビジネスモデルの中核としてきた企業は、AIによる代替リスクに直面しています。法務データベース、財務分析、専門情報サービスなど、「知識とアクセス」に依存したビジネスモデルは根本から揺らぐ可能性があります。

インドIT企業への影響も

複数のインドIT大手がClaudeを重要なコーディングワークフローに統合しているため、アンソロピックのソフトウェア進化はこれらの企業にも影響を与えています。

Systematix Groupのアナリストによれば、大規模ベンダーチームへの依存度が低下することで、請求可能時間とマージンが圧迫される可能性があります。タタ・コンサルタンシー・サービシズは6%、インフォシスは7.1%それぞれ株価が下落しました。

「選挙は買い」アノマリーへの影響

衆院選を前にした市場期待

日本市場では、2月8日投開票の衆院選を控え、「選挙は買い」のアノマリーへの期待が高まっていました。過去のデータによれば、衆議院解散日から総選挙までの期間において、1969年以降17回中15回(約88%)で株価が上昇してきた実績があります。

マネックス証券の分析では、今回の衆院選を経て高市早苗政権の基盤が強化されれば、2026年末の日経平均株価は5万9,446円に達するとの試算も出されていました。

外部ショックがアノマリーを打ち消す

しかし、アンソロピック・ショックという予想外の外部要因が、この選挙期待ムードに水を差す形となりました。

三井住友DSアセットマネジメントの分析によれば、選挙アノマリーは確かに存在するものの、株高の期間は比較的短く、選挙が終われば株価は選挙以外の材料に左右されると指摘しています。今回のケースは、まさにその典型例となりました。

今後の注意点と展望

RBCアナリストの警告

RBCのアナリストは「モデルプロバイダーからのイノベーションと発表の速度は、2026年を通してソフトウェア業界全体に重くのしかかり続ける可能性がある」と指摘しています。

アンソロピックは早ければ2026年中にもIPOを計画しているとされ、評価額は3,000億ドルを超える可能性も報じられています。同社の成長戦略が明確になるにつれ、既存ソフトウェア企業への圧力は増す可能性があります。

生き残る企業の条件

ただし、全てのソフトウェア企業が同じリスクに直面しているわけではありません。単純な「知識とアクセス」モデルに依存する企業は危険ですが、独自のワークフロー統合や、AIでは代替困難な人的ネットワーク、規制対応能力を持つ企業は、むしろAIを活用して競争力を高める可能性もあります。

投資家としては、各企業のビジネスモデルがAIによってどの程度代替可能かを精査する必要があります。

日本市場への示唆

日本市場においても、AI関連銘柄の選別が進む可能性があります。半導体製造装置など、AIインフラを支える企業は引き続き恩恵を受ける一方、ソフトウェアサービスに依存する企業は海外同様のリスクを抱えています。

衆院選後の政策期待と、グローバルなAI競争という二つの要因が交錯する中、日本株は当面不安定な展開が続く可能性があります。

まとめ

アンソロピックのClaude法務プラグイン発表は、AI業界の構造変化を象徴する出来事となりました。モデル開発企業がアプリケーション層に進出することで、既存のソフトウェアビジネスモデルが根本から揺らぎ始めています。

世界で約2,850億ドル、日本市場でも一時700円超の株価下落という形で市場はこのリスクを織り込みましたが、これは始まりに過ぎない可能性があります。「選挙は買い」のアノマリーに乗った投資家にとっては痛い一日となりましたが、この出来事はAI時代における投資判断の難しさを改めて浮き彫りにしました。

今後は、AIによる代替リスクを企業ごとに精査し、真の競争優位を持つ銘柄を見極める目が一層重要になるでしょう。

参考資料:

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