アパホテルの稼働率が100%を超える仕組みを解説
はじめに
観光庁の統計によると、2024年の東京都の宿泊施設の稼働率は75.1%で、インバウンド需要を追い風にかつてない高水準が続いています。しかし、アパホテルの稼働率はその数字をはるかに超え、一部のホテルでは100%を優に超えています。
通常、稼働率は「販売した客室数÷販売可能客室数」で計算されるため、100%が理論上の上限です。アパホテルはなぜこの上限を超えることができるのでしょうか。その秘密は「1日2度貸し」という独自戦略と、それを可能にするITシステムにあります。
本記事では、アパホテルが稼働率100%超を実現するビジネスモデルと、背景にあるDX戦略を詳しく解説します。
稼働率100%超の仕組み
「24時間を帯で考える」経営哲学
アパグループの元谷一志社長は「24時間を帯で考えている」と語っています。通常、ホテルは15時チェックイン、翌日11時チェックアウトが一般的です。しかし、宿泊客の中には早朝にチェックアウトする人も多くいます。
この「空白の時間」に着目したのがアパホテルの戦略です。早朝にチェックアウトされた部屋を、その日のうちにもう一度別の客に貸し出すことで、1部屋から2回分の売上を得ることができます。これが「2回転」や「1日2度貸し」と呼ばれる手法です。
デイユース(日帰り)プランの活用
具体的には、アパホテルは「デイユース(日帰り)プラン」を積極的に展開しています。多くのホテルでは「11:00〜17:00」の時間帯で最大6時間滞在可能なプランを提供しており、料金は宿泊料金の約半額となる4,000〜5,500円程度です。
デイユースの用途は多岐にわたります。テレワークやリモートワークの作業場所として、カップルの日帰り利用として、出張の合間の休憩として、また大浴場付きのホテルでは日帰り入浴としても利用されています。
驚異の105%を達成した事例
テレビ番組「がっちりマンデー!」で取り上げられたアパホテル巣鴨駅前では、全512室に加えて日帰りプランで27部屋分を追加で販売し、計539室分の売上を計上しました。これにより稼働率は驚異の105%を達成しています。
「アパホテル&リゾート・両国駅タワー」(1,111室)や「アパホテル&リゾート・横浜ベイタワー」(2,311室)などの大型店舗でも、大浴場やプールを利用できるデイユースプランにより、100%を超える稼働率を実現しています。
ITシステムが支える効率経営
アパトリプルワンシステム
2回転を可能にするには、チェックイン・チェックアウトの手続きを極限まで効率化する必要があります。アパホテルが開発した「アパトリプルワンシステム」は、「1ステップ予約」「1秒チェックイン」「1秒チェックアウト」を実現するデジタルサービスです。
公式アプリ「アパ直」で事前にオンライン決済を済ませておけば、宿泊当日はQRコード(会員証)をかざすだけでルームキーを受け取れます。フロントでの手続きが不要なため、待ち時間がほとんどありません。
業界初のエクスプレスチェックアウト
チェックアウト時はさらに簡単です。追加精算がない場合、フロントに立ち寄らずに「エクスプレスチェックアウトポスト」にルームキーを投函するだけで手続きが完了します。投函と同時にリアルタイムでチェックアウト処理が行われる仕組みです。
このシステムの特許出願日は2019年3月18日で、新型コロナウイルス感染症の流行前から開発が進められていました。結果的にコロナ禍での非接触対応にも貢献し、「非接触」「待たない」「並ばない」というストレスフリーの体験を提供しています。
40年の自動化の歴史
アパホテルのIT活用は今に始まったことではありません。1984年に1号店がオープンした時点で、業界初の自動チェックイン機を導入していました。約40年前から効率化を追求してきた実績があります。
現在は専門のIT事業本部を設置し、積極的なICT活用を推進しています。「DXを進めることで、スタッフがホテル本来の仕事である接客に集中できる」というのが同社の考え方です。
空白時間を収益化するテレワーク需要
テレワーク応援プランの展開
コロナ禍をきっかけに広がったテレワーク需要に対応し、アパホテルは「テレワーク応援プラン」を展開しています。朝8時から夜7時までの最大11時間利用できるプランで、料金は4,500円程度です。
5日連続プランも用意されており、月曜日の朝8時から金曜日の夜8時まで通しで利用することも可能です。長時間の作業に集中できる環境として、フリーランスや在宅勤務者から支持を集めています。
他社とは異なる継続戦略
テレワーク需要の減少に伴い、デイユースから撤退するホテルも出ていますが、アパホテルは継続しています。これは単なるテレワーク対応ではなく、「空白時間の収益化」という本質的な経営戦略に基づいているからです。
平日のビジネス需要、週末の観光需要、日中のデイユース需要と、時間帯や曜日に応じて異なる客層を取り込むことで、客室という固定資産の稼働を最大化しています。
2回転を支える運営体制
社員によるベッドメイキング
1日2回転を実現するには、清掃のスピードも重要です。アパホテルでは新入社員の導入研修でベッドメイク研修を実施し、社員が清掃を行える体制を整えています。
外部の清掃業者に完全委託するのではなく、社員が対応できることで、繁忙時の柔軟な対応が可能になります。また、清掃コストを抑えることで、デイユースの低価格設定を維持できています。
RevPARを重視する経営指標
アパホテルは経営指標として「RevPAR(Revenue Per Available Room:販売可能客室1室あたりの売上)」を重視しています。2023年度の実績では、年間客室稼働率86.9%、客室平均単価8,115円に対し、RevPARは7,051円でした。
稼働率だけでなく、1室あたりの売上を最大化する視点が、デイユースの積極展開につながっています。稼働率100%超というのは、RevPAR向上の結果として生まれた数字といえます。
今後の展望と注意点
インバウンド需要との両立
インバウンド需要の回復により、宿泊需要は引き続き旺盛です。訪日外国人観光客の増加は客室単価の上昇につながりますが、デイユース枠とのバランス調整が課題となります。
高単価の宿泊需要が見込める日にはデイユース枠を減らし、平日の閑散期にはデイユース枠を増やすといった、柔軟な在庫管理が求められます。
競合他社の追随
アパホテルの成功を受けて、他のホテルチェーンもデイユースプランを強化する動きがあります。差別化のためには、ITシステムへの継続的な投資と、オペレーションの効率化が必要です。
アパホテルの強みは40年にわたる自動化の蓄積であり、一朝一夕に追いつくことは困難ですが、業界全体としてデイユースが一般化すれば、価格競争が激化する可能性もあります。
まとめ
アパホテルが稼働率100%を超える秘密は、「24時間を帯で考える」という経営哲学と、それを実現するITシステムにあります。デイユースプランにより空白時間を収益化し、「1秒チェックイン、1秒チェックアウト」のシステムで2回転を可能にしています。
この戦略は単なるコロナ禍での一時的な対応ではなく、1984年の創業時から続く効率化への取り組みの延長線上にあります。固定資産である客室の稼働を最大化するという観点から、RevPARを重視した経営を実践しています。
インバウンド需要が好調な中、空白時間の活用という発想は他のホテル事業者にとっても参考になるでしょう。ITシステムへの投資と運営体制の整備が、収益向上の鍵となります。
参考資料:
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