アパホテルの1秒チェックイン、DX推進を支えるIT戦略
はじめに
ホテルのフロントに並ぶ長い列。チェックイン手続きにかかる時間は、宿泊客にとってストレスの原因となりがちです。アパホテルは、この課題を「1秒」で解決するシステムを実現しました。スマートフォンのQRコードをかざすだけでチェックインが完了する「アパトリプルワン」は、ホテル業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を象徴する取り組みとして注目を集めています。
現在、全国に約1,000ホテル、13万室以上を展開するアパグループ。その差別化戦略の柱となっているのが、少数精鋭のIT部門が主導するデジタル化です。本記事では、アパホテルの「1秒チェックイン」の仕組みと、それを支えるIT戦略について詳しく解説します。
「1秒チェックイン」とは何か
アパトリプルワンシステムの全容
アパホテルが展開する「アパトリプルワン」は、宿泊予約、チェックイン、チェックアウトをそれぞれ1秒で済ませることを目指したシステムです。具体的には以下の3つの機能で構成されています。
- 1ステップ予約: アプリでホテルをお気に入り登録しておけば、画面遷移なしに1タップで予約が完了
- 1秒チェックイン: アプリで事前決済と客室選択を済ませておき、当日はフロント横の専用機にQRコードをかざすだけ
- 1秒チェックアウト: カードキーを専用ポストに投函するだけで手続きが完了
このシステムは、コロナ禍が始まる直前の2020年初頭にはサービスインできていました。非接触・非対面のニーズが高まった時期に、すでに体制が整っていたことがアパホテルの強みとなりました。
業界初の専用チェックイン機
「1秒チェックイン」の核となるのが、オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社と協業開発した「アプリチェックイン専用機」です。アプリ会員証のQRコードによるルームキー発行に特化したチェックイン機としては業界初となります。
この専用機には以下の特徴があります。
- 画面操作が一切不要: QRコードを読取口にかざすだけ
- 完全非接触対応: タッチパネル操作なしでカードキーを受け取れる
- 瞬時にルームキー発行: 体感1秒でのスピーディな対応
開発当初、システムのベンダーからは「最低でも2秒から3秒はかかる」と言われていました。しかし、アパホテル側の「1秒へのこだわり」に納得してもらい、コンマ数秒単位での改善を両社で検討した結果、目標を達成しました。
DXを支えるIT部門の戦略
「顧客体験」を最優先するIT投資
アパグループのIT戦略を統括するIT事業部では、「当社のIT施策の優先順位はお客様の利便性が最優先。次いで従業員の負荷軽減だ」という方針を掲げています。
アパホテルの元谷芙美子社長は「当社はまずテクノロジーありきではなく、どうしたらお客様に喜んでいただけるかをひたすら考えている。その結果、テクノロジーを選んでいるだけ。大事なのはおもてなしの気持ち」と強調しています。
この「顧客体験優先」の姿勢が、ホテル業界では珍しい早期からのIT部門設立と積極的なICT活用につながっています。
約10年前からのIT部門設立
アパグループは、ホテル業界としては珍しく、約10年以上前からIT専門部署を設立し、積極的なICT活用を進めてきました。小塚智成氏が2013年にFC事業本部長兼IT戦略担当役員に就任し、2017年からはIT事業本部長を務めています。
実は、自動チェックイン機自体は1984年にアパホテル1号店が開業した時から業界初として導入していました。40年以上にわたるIT活用の積み重ねが、現在の「1秒チェックイン」につながっています。
継続的なアプリ改善
アパホテルの公式アプリは、8年間で98回もの改修を重ねてきました。この継続的な改善姿勢が、ユーザー体験の向上に貢献しています。
アプリのダウンロード数は着実に成長しています。
- 2018年10月: 40万ダウンロード突破
- 2021年1月: 200万ダウンロード突破
- 2025年3月末目標: 500万ダウンロード
- 最新: 700万ダウンロード突破
アパホテル会員の累積会員数も1,900万人を超えており、ビジネスホテルとしては国内最大級の顧客基盤を構築しています。
効率経営を支える「稼働率100%超」の仕組み
エクスプレスチェックアウトポストの革新
「1秒チェックアウト」を実現するエクスプレスチェックアウトポストは、単なるカードキーの回収ボックスではありません。内部にセンサーを搭載しており、カードキーの投入を検知すると、空室となった部屋番号を清掃スタッフのスマートフォンへ即座に通知する仕組みになっています。
この特許取得済みのシステムにより、チェックアウト完了から清掃開始までの時間を大幅に短縮できます。結果として、アパホテルは「稼働率100%超」という驚異的な効率経営を実現しています。
清掃業務のデジタル化
アパホテルは清掃スタッフ向けのアプリを独自開発し、委託先の清掃会社にスマートフォンを貸与する形で運用しています。これにより、以下のような効率化が実現しています。
- リアルタイムの空室情報: チェックアウト直後に清掃開始可能
- 作業進捗の可視化: フロントでの客室状況把握が容易に
- 人員配置の最適化: 需要に応じた柔軟なシフト管理
注意点・今後の展望
人的サービスとの両立
デジタル化を推進する一方で、アパホテルは「おもてなしの気持ち」を重視しています。完全な無人化ではなく、スタッフによるサポートが必要な宿泊客への対応も維持しています。
特に、高齢者やスマートフォンに不慣れな利用者に対しては、従来型のフロント対応も継続しています。テクノロジーはあくまで選択肢の一つであり、顧客のニーズに応じた柔軟なサービス提供が重要です。
インバウンド需要への対応
アパホテルは訪日外国人宿泊人数800万人を目標に掲げており、多言語対応やグローバルスタンダードなシステム連携も進めています。1秒チェックインシステムは言語に関係なく利用できるため、インバウンド客にも好評を得ています。
業界全体への波及効果
アパホテルのDX成功事例は、ホテル業界全体に影響を与えています。オムロン ソーシアルソリューションズの「スマーレ」シリーズは、アパホテル以外のホテルにも導入が広がっており、業界全体のデジタル化を促進しています。
まとめ
アパホテルの「1秒チェックイン」は、40年以上にわたるIT活用の積み重ねと、「顧客体験優先」という明確な方針の結果です。テクノロジーありきではなく、「どうしたらお客様に喜んでいただけるか」を追求した結果として、業界をリードするDXが実現しました。
少数精鋭のIT部門が、ベンダーとの協業を通じて「1秒」にこだわり抜いた開発姿勢は、他業界のDX推進にも参考になるでしょう。今後も、アパホテルのデジタル化の取り組みから目が離せません。
参考資料:
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