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by nicoxz

巨大テック企業がICE射殺事件で沈黙する理由

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はじめに

2026年1月、米ミネソタ州ミネアポリスで連邦捜査官による市民の射殺事件が相次ぎ、全米に衝撃が走っています。ICU看護師のアレックス・プレッティ氏が国境警備隊員に射殺された事件を受け、テック業界の従業員450人以上がCEOに対応を求める公開書簡に署名しました。

しかし、GoogleやMeta、Amazonといった巨大テック企業のトップは沈黙を貫いています。約5年前、同じミネアポリスでジョージ・フロイド氏が警官に暴行され死亡した事件では、Apple、Uber、Intelなど主要テック企業5社以上が即座に声明を発表しました。この対応の落差は何を意味するのでしょうか。

本記事では、巨大テック企業の沈黙の背景にある政権との関係変化、従業員からの反発、そして企業の社会的責任の行方について解説します。

ミネアポリスで何が起きたのか

相次ぐ連邦捜査官による射殺事件

2026年1月、トランプ政権は不法移民の取り締まり強化を掲げ、ミネアポリスに約3,000人の連邦捜査官を派遣しました。これはミネアポリス市警の5倍の規模です。この大規模な移民取り締まり作戦の中で、複数の射殺事件が発生しました。

特に注目を集めたのが、37歳のICU看護師アレックス・プレッティ氏の射殺事件です。目撃者の証言やビデオ映像は、連邦当局の説明と食い違っており、NPRの報道によれば、事件の経緯について重大な疑問が提起されています。

州と連邦の対立

ミネソタ州当局は事件の独自調査を求めていますが、FBIは州の捜査官を調査から排除しています。ワシントン・ポスト紙によれば、州の検察官は将来的な起訴に備え、捜査資料へのアクセスを確保するための見直しを進めています。この連邦と州の対立は、事件の深刻さをさらに浮き彫りにしています。

巨大テックの沈黙とその理由

2020年との決定的な違い

2020年5月、ジョージ・フロイド氏の死亡事件が起きた際、シリコンバレーは迅速に反応しました。Apple、Airbnb、Uber、Intel、YouTubeなどが声明を発表し、平等と機会を推進する団体に多額の寄付を行いました。

しかし2026年の現在、同じミネアポリスで起きた連邦捜査官による市民射殺に対し、これらの企業トップの多くは沈黙しています。CNBCの調査では、経営者の18%が「トランプ政権からの報復を恐れて発言を控えている」と回答しました。さらに3分の1が「自社のビジネスに関係ない」と回答しています。

政権への接近がもたらす自己規制

巨大テック企業の沈黙には、明確なビジネス上の理由があります。Amazon Web Services、Microsoft、Oracleは、国土安全保障省(DHS)やICEにクラウドインフラを提供しています。Palantirは3,000万ドルの契約で「ImmigrationOS」と呼ばれるAI駆動の監視プラットフォームを構築しています。Clearview AIは顔認識技術をICEに提供しています。

トランプ政権2期目に入り、テック企業のCEOたちは政権との関係強化を進めてきました。政府との契約を維持し、規制面で有利な立場を確保するために、政権批判を避ける判断をしていると見られています。

発言した経営者、しなかった経営者

すべてのテック経営者が沈黙しているわけではありません。LinkedInの共同創業者リード・ホフマン氏は「政治はあっても、人間性はそれを超越すべきだ」と述べました。Anthropicの共同創業者クリス・オラー氏は「連邦捜査官がICU看護師を理由もなく射殺した事件は良心に衝撃を与える」と発言しています。

AppleのティムクックCEOは社内メモで「胸が痛む」と述べ、「今はエスカレーションを避けるべき時だ」と書きました。OpenAIのサム・アルトマンCEOも社内Slackで「ICEの現状は行き過ぎだ」と発言しています。ただし、これらはいずれも社内向けの発言であり、公式声明とは異なります。

従業員の反発と企業の岐路

450人超の従業員が公開書簡に署名

Google、Meta、Amazon、OpenAI、Salesforceなどの従業員450人以上が、CEOに対して3つの具体的な要求を掲げる公開書簡に署名しました。その内容は、ホワイトハウスに電話してICEの都市部からの撤退を求めること、ICEとの契約をすべて解除すること、そしてICEの暴力に対して公に声を上げることです。

The Registerの報道によれば、従業員たちは「自分たちの技術が市民の監視や取り締まりに使われている」ことへの懸念を表明しています。

沈黙のコストは高くつく可能性

危機管理コンサルタントのブレット・ブルーエン氏は「この事態には次の章がある。多くの消費者、利害関係者、政治指導者がこの沈黙を記憶するだろう」と警告しています。CNBCの調査では、56%の経営者が「過去と比べて発言するのが非常に難しくなった」と回答し、29%が「やや難しくなった」と答えています。

ミネソタ州では、Targetやユナイテッドヘルスなど60社以上の地元企業のCEOが「緊張の即時緩和」を求める書簡に署名しており、全国規模のテック企業との対応の差が際立っています。

注意点・展望

今回の事態は、テック企業の社会的責任を巡る議論に新たな局面をもたらしています。2020年には「企業は社会問題に声を上げるべきだ」という風潮が支配的でしたが、現在は政治的二極化が進み、発言のリスクが格段に高まっています。

ただし、沈黙にもリスクがあります。従業員の士気低下、優秀な人材の流出、消費者からの信頼低下など、長期的な代償を払う可能性があります。特にZ世代やミレニアル世代の従業員は、企業の社会的姿勢を重視する傾向が強く、沈黙は採用競争力の低下につながりかねません。

今後、議会での公聴会や市民団体による不買運動など、テック企業への圧力が高まる可能性があります。ICEとの契約の透明性を求める動きも加速するでしょう。

まとめ

ミネアポリスでの連邦捜査官による射殺事件は、巨大テック企業と政権の関係を浮き彫りにしました。2020年のジョージ・フロイド事件では即座に声明を出した企業が、今回は沈黙を選んでいます。その背景には、政府契約の維持や政権からの報復への懸念があります。

一方で、450人以上の従業員が声を上げ、一部の経営者も発言を始めています。企業が社会的責任をどう果たすかは、政治的立場に関わらず注視すべき問題です。テック企業の選択が、今後の業界全体の方向性を左右する可能性があります。

参考資料:

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