ミネアポリスで連邦捜査官が市民射殺、トランプ移民政策に全米抗議
はじめに
米中西部ミネソタ州ミネアポリスで、移民を取り締まる連邦捜査官による市民の射殺事件が相次いでいます。2026年1月だけで2件の死亡事件が発生し、全米規模の抗議デモに発展しました。
トランプ政権が強硬に進める移民摘発政策の中で、アメリカ市民までもが犠牲になる事態となっています。「米国人の種類」を問うかのような政策に対し、国民の間で深刻な分断が広がっています。
本記事では、ミネアポリスで起きた2件の射殺事件の経緯、トランプ政権の移民政策の実態、そして社会的影響について解説します。
ミネアポリスで起きた2件の射殺事件
1件目:レネ・グッドさんの死亡(1月7日)
2026年1月7日、米国移民・税関捜査局(ICE)職員の発砲により、レネ・ニコール・グッドさん(37歳)が死亡しました。グッドさんはコロラド州生まれの米国市民で、15歳、12歳、6歳の3人の子どもを育てる母親でした。
事件当日、グッドさんは6歳の子どもを学校に送り届けた後、帰宅途中にICEの摘発現場に遭遇したとされています。トランプ政権はグッドさんを「国内テロリスト」と指摘し、ICE職員の発砲は自己防衛だったと主張しています。
しかし、この主張は地元当局によって強く否定されています。当局によると、映像ではグッドさんの車両が職員から離れようとしており、職員の命は危険にさらされていなかったとされています。
2件目:アレックス・プレッティさんの死亡(1月24日)
1月24日には、37歳の看護師アレックス・プレッティさんが複数の連邦捜査官に路上で押し倒され、射殺されました。プレッティさんはミネアポリス在住で、合法的な銃所持の許可証を持っていましたが、犯罪歴はありませんでした。
CNNの映像分析によると、複数の捜査官による銃撃の前に、1人の連邦捜査官がプレッティさんから銃を取り上げているように見えます。武装解除された後に射殺されたとすれば、正当防衛の主張は成り立ちません。
ミネアポリスで連邦職員による市民の射殺が1か月で2件も発生したことは、移民取り締まりの過激化を象徴する事態となっています。
全米に広がる抗議デモ
数万人規模のデモ
グッドさんの死亡事件を受け、ミネアポリスでは地元住民ら数万人が参加する大規模デモが発生しました。参加者たちは「ICEは出て行け」と叫び、トランプ政権の移民政策を非難しました。
デモは東部ニューヨーク、フィラデルフィア、その他の主要都市でも行われ、全米史上最大規模の移民政策抗議活動となりました。
連邦検事の辞任
ミネアポリス連邦検事局では、複数の検察官が辞任を表明しました。ICE側に立って捜査することを拒否したためで、辞任者は少なくとも6人に上り、連邦検事代理を務めていた職員も含まれています。
法執行機関内部からも、政権の移民政策に対する反発が広がっていることを示しています。
政府機関閉鎖の可能性
この事件を受け、複数の米上院議員が政府歳出法案に反対票を投じると表明し、政府機関閉鎖の可能性が高まっています。バージニア州選出のマーク・ワーナー上院議員は「政権が都市への暴力的な連邦介入を続ける限り、国土安全保障省への予算に賛成票を投じることはできない」と述べました。
トランプ政権の移民政策
強硬路線の加速
トランプ政権は2025年1月の第二次政権発足以降、強硬な移民政策を加速させています。2025年1月23日にはICEが聖域都市での家宅捜索を開始し、数百人の不法移民を拘束・強制送還しました。
これまで保護されていた学校、病院、礼拝所での捜索もICEに許可され、移民コミュニティに恐怖が広がっています。
政策担当者の顔ぶれ
第二次政権の移民政策を担うのは、スティーヴン・ミラー、トム・ホーマン、クリスティ・ノームらです。ミラーは第一次トランプ政権期にイスラム教多数派の国からの渡航禁止や国境での家族引き離し政策に携わった人物です。
「国境担当皇帝」と呼ばれる元ICE局長代理のホーマンは、第一次政権で寛容度ゼロ政策を推進したことで知られています。いずれも強硬派であり、不法移民の国外退去処分を最優先で行うと主張しています。
国民の支持離れ
しかし、強硬な移民政策は国民の支持を失いつつあります。キニピアク大学の2025年6月の世論調査では、ICEの職務遂行方法に56%が不支持と回答しました。また、64%が米国に滞在する不法移民の大半に合法的な滞在資格を与えることを支持すると回答し、2024年12月の調査時(55%)から9ポイント上昇しています。
移民社会への影響
日常生活への恐怖
トランプ政権の移民取り締まり強化を受け、米国に住む移民や外国人の間で不安が広がっています。突然の摘発を恐れ、通勤や通院もためらうという声が聞かれます。
移民たちは当局の取り締まりに対抗する策を準備し始めており、地域コミュニティでの相互扶助の動きも広がっています。
「米国人とは誰か」という問い
今回のミネアポリスの事件で注目すべきは、被害者の1人が米国生まれの市民だったという点です。グッドさんはコロラド州生まれで、移民ではありませんでした。
トランプ政権は彼女を「国内テロリスト」と呼びましたが、それは何を根拠にしているのでしょうか。「米国人の種類」を問うかのような政権の姿勢は、アメリカ社会の深刻な分断を象徴しています。
実施上の限界
強硬な移民政策には、実施上の限界もあります。現在ICEは約4万床の収容能力しか確保しておらず、大規模な強制送還を行うには不十分です。また、ICEには移民案件を担当する職員が約5,500人しかおらず、人員も不足しています。
今後の展望
政策の行方
トランプ大統領は2025年11月に「第三世界」の国々からの移民受け入れを「恒久的に停止する」とSNSに投稿し、強硬姿勢をさらに強めています。米国への全ての亡命申請についても一時停止が発表されました。
一方で、国民の反発、連邦検事の辞任、政府機関閉鎖の可能性など、政策への抵抗も強まっています。
2026年中間選挙への影響
移民政策をめぐる対立は、2026年11月の中間選挙の争点となる可能性が高いです。世論調査では政権の移民政策への不支持が過半数を占めており、共和党にとってマイナス材料となる可能性があります。
アメリカ社会の分断
ミネアポリスの事件は、アメリカ社会の深刻な分断を浮き彫りにしています。移民の権利と国境管理のバランスをどう取るか、「アメリカ人とは誰か」という根本的な問いに、社会全体が向き合わざるを得なくなっています。
まとめ
ミネアポリスで連邦捜査官による市民射殺が相次いだ事件は、トランプ政権の強硬な移民政策が生み出した悲劇です。米国市民までもが犠牲になる事態は、政策の過激化を如実に示しています。
全米規模の抗議デモ、連邦検事の辞任、政府機関閉鎖の可能性と、政権への反発は様々な形で表れています。世論調査でも移民政策への不支持が過半数を占め、政権にとって大きな試練となっています。
「米国人の種類」を問うかのような政策は、アメリカ社会の分断をさらに深めるリスクがあります。移民国家としてのアメリカのアイデンティティをどう維持していくか、社会全体での議論が求められています。
参考資料:
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