日銀は債券市場の「救世主」になれるか?正常化のジレンマを解説
はじめに
2026年1月23日、日本銀行は金融政策決定会合で政策金利を0.75%に据え置くことを決定しました。市場の大方の予想通りの結果でしたが、注目は別のところにあります。長期金利が一時2.275%と27年ぶりの高水準に達する中、日銀が債券市場の安定に向けて「機動的な国債買い入れ」を発動するかどうかが焦点となっています。
高市早苗首相が衆院選に向けて食料品の消費税ゼロ化を表明したことで財政悪化懸念が高まり、国債市場に売り圧力がかかっています。日銀が金利安定に動けば政権の積極財政を支援しているとの批判を招き、動かなければ金利上昇が続くというジレンマに直面しています。本記事では、日銀の政策対応と市場への影響について詳しく解説します。
長期金利急騰の背景
27年ぶりの水準に到達
新発10年物国債利回りは2026年1月に一時2.275%まで上昇し、1999年以来27年ぶりの高水準を記録しました。2025年末からの上昇幅は0.15%を超え、金利上昇のペースが加速しています。
超長期債にも圧力がかかっており、20年債利回りは一時3.25%、30年債利回りは一時3.585%に達しました。財政リスクを反映しやすいとされる超長期債の金利上昇は、市場が日本の財政状況に警戒感を強めていることを示しています。
高市政権の積極財政が引き金に
金利急騰の引き金となったのは、高市早苗首相が1月19日の記者会見で発表した食料品の消費税ゼロ化方針です。2年間の時限措置として食料品を消費税の対象から外すという政策は、年間約5兆円の税収減をもたらす可能性があります。
高市首相は総裁選以降封印してきた消費税減税論を衆院選の公約として復活させました。野党との差別化を図る狙いがあるとされますが、財政規律を重視する自民党内からも戸惑いの声が上がっています。
国債発行増加への懸念
財務省は1月の10年物国債入札で表面利率を2.1%に設定し、1998年以来28年ぶりの高水準となりました。積極財政による国債発行増加への懸念が、投資家の売りを誘発しています。
Bloombergの分析によると、2025年のパフォーマンスが世界の主要債券市場で最悪だった日本は、2026年も苦難が続く見通しとされています。
日銀の政策スタンス
「機動的な国債買い入れ」の意味
植田和男日銀総裁は2025年12月の衆院予算委員会で、長期金利について「やや速いスピードで上昇している」と指摘しました。その上で「通常の市場の動きと異なるような形で急激に上昇する例外的な状況では、機動的に国債買い入れの増額などを実施する」と述べています。
日銀の公式方針では、「長期金利が急激に上昇する場合には、毎月の買入れ予定額にかかわらず、機動的に、買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施する」としています。
減額計画との矛盾
一方で日銀は金融正常化の一環として、国債買い入れの減額を進めています。2024年8月から事実上の量的引き締め(QT)に入り、月間買い入れ額は2024年7月の5.7兆円から2026年1〜3月には2.9兆円に半減します。
2026年4月以降は減額ペースを緩め、四半期ごとの減額幅を現行の4000億円から2000億円に圧縮する方針ですが、それでも2027年1〜3月には月2.1兆円まで買い入れ額は縮小する計画です。
減額を進めながら「機動的な増額」も辞さないという姿勢には、矛盾を指摘する声もあります。
日銀が直面するジレンマ
財政ファイナンス批判のリスク
日銀が長期金利上昇を抑えるために国債買い入れを増やせば、「財政ファイナンス」との批判を招く恐れがあります。政府の積極財政を日銀が支えているとの見方が広がれば、日銀の独立性への疑問が生じ、円の信認低下につながる可能性があります。
野村證券の分析によると、日銀は従来「国債買い入れ額の減額は政策金利を用いた金融政策とは無関係であり、財政ファイナンスとの批判を免れるためにも一定のスケジュールに沿って粛々と実施する」との姿勢を示してきました。
金融抑圧のジレンマ
みずほ総合研究所の門間一夫氏は、中央銀行が直面しうるジレンマについて分析しています。「インフレを抑えるには利上げが必要だが、そうすると国債の価格が下がり、国債を大量に保有する金融機関への悪影響が懸念される」という状況です。
「金利を上げなければインフレになるし、金利を上げれば金融システムに問題が起きかねない、という『王手飛車取り』の状態に置かれたとき、日銀は不本意なレベルのインフレを許容せざるをえなくなることがありうる」と指摘しています。
政策の逆噴射リスク
金融正常化を進める中で債券市場の安定化に動くことは、「正常化の後退」と市場に受け止められる可能性があります。これがかえって円安を加速させ、輸入インフレを招く「逆噴射」のリスクも指摘されています。
実際、長期金利が2%を超える水準まで上昇しているにもかかわらず、円相場は150円台後半で推移しており、金利上昇が円高に結びついていない異例の状況が続いています。
1月会合の結果と今後の見通し
政策金利据え置きを決定
日銀は1月23日の金融政策決定会合で、0.75%程度の政策金利維持を賛成多数で決定しました。2025年12月に利上げを実施したばかりで、その影響を見極める姿勢を示しました。
高田創審議委員は物価目標がおおむね達成されているとして1.0%への利上げを提案しましたが、否決されました。
展望レポートで成長率見通しを引き上げ
新たな経済・物価情勢の展望(展望レポート)では、経済成長率と消費者物価の見通しが引き上げられました。円安への警戒感もにじませる内容となっています。
次の利上げ時期
市場では7月の利上げが完全に織り込まれています。野村総合研究所は次回の利上げを2026年9月と予想し、2027年6月に政策金利が1.25%まで引き上げられてターミナルレートに達するとの見方を示しています。
投資家が注目すべきポイント
植田総裁の記者会見
1月会合後の植田総裁記者会見では、機動的な国債買い入れについての発言が焦点となります。「例外的な状況」の定義や、発動の条件についてどこまで踏み込んだ発言があるかが注目されます。
超長期債の需給動向
財政リスクを反映しやすい超長期債の動向は、市場心理を測る重要な指標です。20年債や30年債の利回り上昇が続けば、財政への警戒感が根強いことを示します。
為替市場との連動
通常、金利上昇は通貨高につながりますが、現在は長期金利上昇と円安が同時進行する異例の状況です。これは市場が日本の財政・金融政策の持続可能性に疑問を持っていることを示唆している可能性があります。
まとめ
日銀は金融正常化と債券市場安定という相反する目標の間で難しい舵取りを迫られています。高市政権の積極財政政策が財政懸念を高める中、日銀が「債券市場の救世主」として行動すれば財政ファイナンス批判を招き、行動しなければ金利上昇が続くというジレンマに直面しています。
投資家にとっては、日銀の政策対応と政府の財政運営の両方を注視する必要があります。長期金利の動向は住宅ローン金利や企業の資金調達コストにも影響を与えるため、今後の日銀の判断は経済全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
2026年は日本の金融政策にとって正念場となりそうです。正常化路線を維持しながら市場の安定をどう図るか、日銀の真価が問われる1年となるでしょう。
参考資料:
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