日本国債に投資マネー離れ、長期金利上昇の背景と財政リスク
はじめに
日本の国債市場で異変が起きています。2026年1月19日、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが2.23%台に上昇し、約27年ぶりの高水準を記録しました。投資家が日本国債を敬遠する動きが強まっています。
背景には、2月8日に投開票が予定される衆議院選挙を前に、与野党各党が消費税減税を掲げていることがあります。財政悪化への警戒感から国債の売り圧力が高まり、金利が上昇しているのです。
本記事では、なぜ投資マネーが国債から離れているのか、政府の利払い負担がどう変化するのか、そして財政の持続可能性にどのような影響があるのかを詳しく解説します。
国債金利上昇の現状
約27年ぶりの高水準に
2026年1月の国内債券市場では、長期金利が急速に上昇しています。10年物国債の利回りは2.23%に達し、これは1999年2月以来、約27年ぶりの高水準です。
超長期金利の上昇はさらに顕著です。30年物国債の利回りは1999年の発行開始以降で初めて3.2%台に上昇しました。20年金利、30年金利の方が10年金利よりも上昇幅が大きいという特徴があり、これは長期的な財政悪化への懸念を反映しています。
金利上昇の複合的な要因
長期金利上昇の背景には、複数の要因が絡み合っています。
1. 消費税減税論による財政悪化懸念
衆院選を控え、与野党各党が消費税減税を公約に掲げる動きが広がっています。財政拡張への警戒感から、国債を売る動きが強まっています。
2. 日銀の金融政策正常化
日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後も利上げを続けています。市場は次の利上げを2026年6月頃に織り込んでおり、金融緩和からの転換が金利上昇圧力となっています。
3. 量的引き締め(QT)の進行
日銀は2024年8月から国債買い入れの減額を開始しました。月間の買い入れ額を段階的に減らしており、国債市場での需給が緩んでいます。日銀の国債保有比率は2025年第3四半期に50%まで低下しました。
4. 海外金利上昇の影響
米国をはじめとするグローバルな金利上昇も、日本の金利上昇に影響を与えています。
政府の利払い負担が急増
2026年度予算案で国債費は過去最大
政府の2026年度予算案では、一般会計総額が122兆3092億円と過去最大を更新しました。その中で、国債の返済や利払いに充てる国債費は31兆2758億円に上り、これも過去最大です。
特に注目すべきは、利払い費の計算に使う想定金利が3.0%に引き上げられたことです。「金利のある世界」が到来し、国債費は初めて30兆円を突破しました。社会保障費と国債費だけで、歳出全体の約6割を占める状況です。
10年後には利払い費が3倍近くに
財務省の試算によると、今後金利が上昇し続けた場合、利払い負担は大幅に増加します。
- 2026年度: 利払い費は約13兆円
- 2028年度(金利2.5%想定): 利払い費は約16.1兆円
- 2034年度: 利払い費は約25.6兆円
つまり、10年後には現在の約2〜3倍の利払い費が必要になる可能性があります。
さらに、金利が想定より1%上昇した場合、2034年度の利払い費は追加で8.7兆円増加するという試算もあります。普通国債残高が1,000兆円を超えている日本では、金利上昇が財政に与える影響は極めて大きいのです。
投資家が国債を敬遠する理由
財政規律への不信感
投資家が日本国債を敬遠する最大の理由は、財政規律に対する不信感です。高市政権の財政拡張志向の強さが意識される中、政策金利と長期金利のスプレッド(差)は異常なほど拡大しています。
通常、利上げ局面では短期金利と長期金利の差は縮小傾向にあります。にもかかわらず長短金利差が拡大しているということは、投資家が長期的な財政悪化を懸念していることの表れです。
海外投資家の動向
日本国債市場における海外投資家の存在感は高まっています。超長期国債市場では、売買高全体に占める海外投資家の割合は約5割に達し、生命保険会社など国内勢を引き離しています。
海外投資家は流通市場での取引が活発で、現物では48.2%、先物では76.3%の売買シェアを占めています。保有割合は約12%程度にとどまりますが、市場でのプレゼンスは保有比率以上に大きいのです。
市場のデータからは、海外勢が日本の財政悪化リスクを背景に一段の金利上昇を見込んでいる様子がうかがえます。
日銀の買い支え余力の低下
長らく日本国債の最大の買い手だった日銀ですが、その買い支え余力は低下しています。
日銀は異次元緩和で大量の国債を買い入れ、一時は発行済み国債の半分以上を保有していました。しかし、金融政策の正常化に伴い、買い入れを減らす方向にシフトしています。
2024年8月から始まった量的引き締め(QT)により、日銀は保有国債を段階的に減らしています。2026年4月以降も減額は継続される予定ですが、長期金利の急上昇を避けるため、ペースは緩められる見込みです。
「日本版トラス・ショック」のリスク
英国の教訓
2022年9月、英国のリズ・トラス首相が大型減税など拡張的な財政運営を掲げて就任しました。市場は即座に反応し、長期金利が急上昇、ポンドも急落。トラス首相はわずか1か月半で辞任に追い込まれました。
この「トラス・ショック」は、市場との対話を軽視した財政拡張の末路として、世界に衝撃を与えました。日本でも消費税減税が進めば、同様の事態が起きるのではないかという懸念が広がっています。
日本の状況との違い
ただし、日本と英国では状況が異なる点もあります。
リスクを抑制する要因:
- 日本の消費税減税はまだ議論の段階であり、確定していない
- 日本は経常黒字国であり、円や国債に対する信認が構造的に高い
- 国債の約9割を国内投資家が保有している
リスクを高める要因:
- 政府債務のGDP比は約235%で、先進国平均の2倍以上
- 与野党ともに消費税減税を掲げており、選挙後に実現する可能性がある
- 長期金利がすでに上昇傾向にある
格下げリスク
特に警戒されているのは、日本国債の格下げです。消費税減税が決まれば、格付け会社が日本国債を格下げする可能性があります。
格下げが現実のものとなれば、長期金利の上昇がさらに加速し、利払い費の増加を通じて財政環境を一段と悪化させる「悪循環」に陥るリスクがあります。
注意点・今後の展望
異なる見解も存在
財政リスクについては、異なる見解も存在します。
元日銀副総裁などの一部専門家は、日本の名目GDP成長率が10年物国債金利を下回っており、国債残高のGDP比が安定化する条件を満たしているため、金利暴騰のリスクは低いと主張しています。
また、長期金利上昇の主因はデフレ脱却による金融政策の正常化であり、財政悪化への懸念は限定的という見方もあります。
プライマリーバランス黒字化の行方
2026年度予算案では、国債費を除く歳出を税収・税外収入で賄えるかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)が、1兆3429億円の黒字に転じる見込みです。
しかし、消費税減税が実施されれば、この黒字化はすぐに崩れる可能性があります。財政健全化の目標と減税政策をどう両立させるかが、今後の焦点となります。
衆院選後の動向に注目
2026年2月8日の衆院選は、日本の財政政策の方向性を決める重要な分岐点となります。
- 与党(自民・維新連立): 2年間限定の食品消費税ゼロを検討
- 野党(立憲・公明連合): 1年間の食品消費税ゼロを公約
- 国民民主党: 消費税一律5%への引き下げ
いずれの勢力が勝利しても、何らかの形で消費税負担の軽減が進む可能性が高い状況です。その財源をどう確保するのか、財政の持続可能性をどう担保するのかが問われます。
まとめ
日本の長期金利が約27年ぶりの高水準に達し、投資マネーの国債離れが進んでいます。背景には、衆院選を前にした消費税減税論の台頭と、それに伴う財政悪化への懸念があります。
政府の利払い負担は今後急増する見込みで、10年後には現在の約3倍に近づくとの試算もあります。1,000兆円を超える国債残高を抱える日本にとって、金利上昇は財政運営に大きな制約となります。
投資家は財政規律への不信感から国債を敬遠しており、特に海外投資家は財政悪化リスクを背景に一段の金利上昇を見込んでいます。日銀も金融政策正常化に伴い、買い支え余力が低下しています。
衆院選後の政策運営次第では、「日本版トラス・ショック」や国債格下げといったリスクシナリオも想定されます。財政の持続可能性と経済対策のバランスをどう取るのか、今後の動向に注目が必要です。
参考資料:
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