日本酒「梵」が富裕層市場を開拓する戦略とは
はじめに
日本酒の海外輸出が拡大を続ける中、福井県鯖江市の酒蔵・加藤吉平商店が手掛ける銘柄「梵(ぼん)」が、独自の戦略で富裕層市場の開拓に挑んでいます。10年以上のマイナス10℃熟成を経た最高級酒「梵・超吟ヴィンテージ」は、1本110万円という価格設定でありながら発売前に完売。ドバイや欧米の高級レストランでプレミアム価格で提供され、注目を集めています。
本記事では、梵が取り組む海外富裕層向け戦略の詳細と、日本酒業界全体における高級化の潮流について解説します。
梵ブランドの特徴と海外展開の歴史
純米酒のみを造る酒蔵のこだわり
加藤吉平商店は、2003年以降、純米酒のみを製造するという明確な方針を打ち出しています。「梵」という銘柄名は、サンスクリット語で「けがれなき清浄」「真理をつく」という意味と、英語の「BORN(誕生・創造)」を掛け合わせたものです。
同社は1963年より全量を「梵」に統一し、1969年には当時としては珍しかった大吟醸酒「梵 超特撰デラックス」を発売しています。2010年にはインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)で「梵・吟撰」がチャンピオン・サケ(最高賞)を受賞するなど、品質の高さは国際的にも評価されています。
100カ国を超える輸出先
日本国内での日本酒消費量が減少する中、加藤吉平商店は積極的に海外展開を推進してきました。30社以上の商社と取引し、2019年3月には日本酒製造会社として初めて輸出先が100カ国を超えました。
現在、梵は40数カ国の民間市場に加え、74カ国以上の在外公館(大使館・領事館)に輸出されています。各国の公式行事の晩餐酒として採用されるなど、外交の場でも梵の存在感は高まっています。
超高級酒「梵・超吟ヴィンテージ」の戦略
1本110万円の最高級酒
「梵・超吟ヴィンテージ」は、兵庫県特A地区産の契約栽培山田錦を100%使用し、精米歩合は「究極の超精白」として非公開とされています。最大の特徴は、マイナス10℃で10年間以上熟成させる製法です。
パッケージにもこだわりが見られます。特注の漆黒ボトルには黄金色の鳳凰が超精細に描かれ、化粧箱は人間国宝級の職人による手作りのピアノブラック仕上げとなっています。
限定200本で販売されたこの酒は、発売前に5倍以上の注文が殺到し完売しました。味わいは「シルクのように妖艶で芳醇」と評され、熟成による複雑な香りと滑らかさが特徴です。
ワインやウイスキーとの比較から見る戦略
加藤吉平商店の社長は、日本酒の高級市場における課題を明確に認識しています。ワインにはロマネ・コンティなど1本数百万円のものが存在し、ウイスキーのヴィンテージ品も数百万円クラスが珍しくありません。一方、日本酒の高級品は数万円程度にとどまっていました。
この状況を打破するため、梵は世界の富裕層が認める価格帯の商品を投入し、日本酒の地位向上を目指しています。
海外富裕層へのアプローチ
ドバイ・ニューヨーク・インドでの展開
梵・超吟ヴィンテージの発売にあわせ、海外の富裕層向けにPR活動が展開されています。ドバイでは王族など世界の富裕層が集う名店「Zuma」で特別会が開催されました。ニューヨークではSOHOのミシュラン星獲得店「Hirohisa」、インドのムンバイでは最大財閥タタ・グループとの共催でタージマハル・ホテルでの特別会も実施されています。
北京の高級ホテル内和食店では、日本価格1万1000円の「梵 夢は正夢」が15万円でメニューに載るなど、海外ではプレミアム価格での取引が定着しつつあります。
なぜ高級酒が海外で売れるのか
日本酒の海外需要は着実に拡大しています。2024年度の日本酒輸出額は434.7億円(前年比105.8%)、輸出量は3.1万キロリットル(前年比106.4%)を記録しました。輸出先国数も過去最高の80カ国に達しています。
特に注目すべきは、高級酒への需要の高まりです。中国やシンガポールを中心に日本酒の単価上昇が顕著で、富裕層向けの高付加価値商品が好まれる傾向にあります。韓国では高級寿司ブームとともに日本酒とのペアリング文化が根付き、ドイツ・フランス・イタリアなどワイン先進国でも、ファインダイニングにおける日本酒提供が増えています。
日本酒輸出市場の今後の展望
政府目標と課題
農林水産省は日本酒を輸出重点品目に指定し、2030年までに輸出総額760億円を目標としています。内訳として、中国200億円、米国200億円、香港90億円などが見込まれています。
ただし、2025年の政府目標600億円については、中国による輸入規制の影響で達成が困難との見方もあります。2024年上半期の輸出では、米国向けが回復する一方、中国向けは不振が続いています。
高級化の流れは加速
日本酒のギフト需要は中国だけでなく世界各地で浸透しつつあり、格調高い高級酒の人気が上昇しています。梵のような熟成酒やプレミアム商品への関心は、今後も高まることが予想されます。
EU全体の輸出額は約27.2億円(前年比116.2%)と過去最高を記録しており、ワイン文化が浸透している市場でも日本酒が新たなポジションを確立しつつあります。
注意点と課題
価格競争との差別化
高級路線を追求する上での課題は、ブランド価値の維持です。単に価格を上げるだけでなく、品質・パッケージ・ストーリーを含めた総合的な価値提案が必要です。梵は熟成期間・製法・デザインのすべてにこだわることで、この差別化に成功しています。
為替変動のリスク
円安は輸出に追い風となりますが、為替変動リスクは常に存在します。海外での販売価格設定やコスト管理において、柔軟な対応が求められます。
まとめ
加藤吉平商店の「梵」は、10年熟成の最高級酒「超吟ヴィンテージ」を核として、世界の富裕層市場を開拓しています。1本110万円という価格は、ワインやウイスキーと肩を並べる日本酒の可能性を示すものです。
日本酒輸出市場は拡大を続けており、特に高級酒への需要が高まっています。梵の戦略は、日本酒の国際的な地位向上に向けた重要な取り組みといえるでしょう。今後も海外のファインダイニングや富裕層市場における日本酒の動向に注目が集まります。
参考資料:
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