中国GDP「名実逆転」3年連続、デフレ圧力の実態と影響
はじめに
中国国家統計局は2026年1月19日、2025年の国内総生産(GDP)統計を発表しました。実質GDPは前年比5.0%増となり、政府目標の「5%前後」を達成しました。
しかし、この数字の裏には深刻な問題が隠れています。生活実感に近い名目GDPの成長率は実質GDPを下回り、3年連続で「名実逆転」の状態が続いているのです。これは中国経済に根強いデフレ圧力がかかっていることを示しています。
一方で、2025年の貿易黒字は史上初めて1兆ドルを超え、過去最大を記録しました。内需の弱さを外需で補う構図が鮮明となっています。
本記事では、中国経済の「名実逆転」現象の実態、デフレ圧力の背景、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
「名実逆転」とは何か
名目GDPと実質GDPの違い
GDPには「名目GDP」と「実質GDP」の2種類があります。
名目GDPは、その年の市場価格で計算した経済規模を示します。物価変動の影響をそのまま反映するため、生活実感に近い指標とされています。
実質GDPは、物価変動の影響を取り除いた数値です。基準年の価格で計算することで、純粋な経済活動の増減を把握できます。
通常、経済が健全に成長している場合、物価も緩やかに上昇するため、名目GDPの成長率は実質GDPの成長率を上回ります。
逆転が示す意味
2025年の中国では、実質GDPが5.0%増だったのに対し、名目GDPは4.0%増にとどまりました。この差はGDPデフレーターがマイナス、つまり物価が下落していることを意味します。
GDPデフレーターは7四半期連続でマイナスとなっており、中国経済がデフレ状態にあることを示しています。これは2009年のリーマンショック以来の異常事態です。
名実逆転が続くと、企業の売上高や利益が伸び悩み、賃金も上がりにくくなります。消費者の購買力が低下し、さらにデフレ圧力が強まるという悪循環に陥る恐れがあります。
デフレ圧力の背景
不動産市場の長期低迷
中国経済のデフレ圧力の最大の要因は、不動産市場の低迷です。
2025年の不動産開発投資は前年比17.2%減となり、4年連続のマイナスを記録しました。下げ幅は2024年の10.6%減よりもさらに拡大しています。住宅や商業施設の販売面積も8.7%減少しており、市場が上向く兆しは見られません。
不動産は中国のGDPの約3割を占めるとされ、関連産業への波及効果も大きいです。この市場の低迷が、経済全体のデフレ圧力につながっています。
消費の伸び悩み
個人消費の動向を示す社会消費品小売総額は、前年比3.7%増にとどまりました。2023年の7.2%増、コロナ禍前の2019年の8.0%増と比べると、大幅に伸び率が低下しています。
背景には、雇用や賃金の伸び悩み、不動産価格下落による逆資産効果、そして消費者心理の冷え込みがあります。政府による家電や自動車への補助金政策も、効果が限界に達しつつあります。
特に若年層の失業率は高止まりしており、将来への不安から節約志向が広がっています。
供給過剰の構造
中国経済には、消費よりも投資・生産に偏重した構造的な問題があります。
政府は製造業への投資を積極的に支援してきましたが、需要が追いつかない状況では過剰生産につながります。企業は在庫を抱え、価格競争を強いられ、デフレ圧力が高まるという構図です。
特に電気自動車(EV)や太陽電池パネルなどの分野では、国内市場が飽和状態となり、海外への輸出に活路を求める動きが加速しています。
過去最大の貿易黒字
史上初の1兆ドル突破
2025年の中国の貿易黒字は1兆1889億ドル(約180兆円)に達し、史上初めて1兆ドルを突破しました。これは人類史上、単一国家が記録した年間貿易黒字として過去最高となります。
輸出は3兆7718億ドルで前年比5.5%増、輸入は2兆5829億ドルで前年並みでした。輸出が増加する一方で輸入が伸び悩んだことが、黒字拡大につながりました。
世界全体の貿易黒字総額は約1.8兆ドルとされ、中国一国でその約60%を占める計算です。
輸出構造の変化
中国の輸出品目は、かつての衣類や家具から高付加価値の技術製品へと転換しています。
その中核を担うのが「新三様」と呼ばれるEV、リチウム電池、太陽電池です。2025年のEV輸出台数は500万台を突破し、貿易黒字を押し上げる原動力となりました。
一帯一路への依存
米中関係の緊張が続く中、中国は輸出先の多様化を進めています。
広域経済圏構想「一帯一路」参加国への輸出が拡大し、2025年の貿易黒字に占める割合は4割を超えました。これは対米貿易黒字を上回る規模です。
東南アジア、中東、アフリカなどの新興国市場の開拓により、米国への依存度を下げることに成功しています。
黒字拡大の副作用
ただし、巨額の貿易黒字は新たな問題を引き起こしています。
中国国内の有力学者からも「危険な信号」との声が上がっています。他国の産業を圧迫するような独走状態は、国際社会で許容されないという懸念です。
実際、欧州連合(EU)は中国製EVへの追加関税を決定し、各国との貿易摩擦は激化の一途をたどっています。
内需と外需のアンバランス
輸出依存の構図
中国経済は、弱い内需を強い外需で補う構図が鮮明になっています。
国内消費が低迷する中、企業は海外市場に活路を求めています。しかし、これは持続可能な成長モデルとは言えません。各国が保護主義に傾けば、輸出主導の成長は行き詰まります。
「デフレの輸出」リスク
供給過剰の状態で輸出を拡大することは、「デフレの輸出」とも呼ばれます。
中国製品の価格競争力は、国内のデフレ環境に支えられている面があります。安価な製品が世界市場に流入することで、輸入国の物価を押し下げ、国内産業との競争を激化させます。
これは各国との摩擦を深め、中国製品への規制強化につながる恐れがあります。
注意点・今後の展望
2026年の成長鈍化見通し
多くの経済研究機関は、2026年の中国経済が減速すると予測しています。
耐久消費財への補助金政策が一巡し、反動減が懸念されています。不動産不況も続く見通しで、内需の回復は期待しにくい状況です。
2026年の実質GDP成長率は4.4%程度に減速するとの見方が多く、政府目標の達成はより困難になると考えられています。
政策対応の限界
中国政府は景気刺激策を打ち出していますが、効果は限定的です。
金融緩和を進めても、企業や家計が投資・消費を増やさなければ効果は薄いです。財政出動も、地方政府の債務問題を悪化させるリスクがあります。
構造的な問題を解決するには、消費主導型の経済への転換が必要ですが、それには時間がかかります。
日本経済への影響
中国経済の減速は、日本にも影響を及ぼします。
中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、中国向け輸出の減少は日本企業の業績に直結します。また、インバウンド需要にも影響が及ぶ可能性があります。
一方で、中国製品との価格競争が緩和されれば、日本の製造業にとってはプラスに働く面もあります。
まとめ
2025年の中国GDPは実質5.0%増で政府目標を達成しましたが、名目GDPは3年連続で実質を下回る「名実逆転」が続いています。これは根強いデフレ圧力の表れです。
不動産市場の長期低迷、消費の伸び悩み、供給過剰という構造的な問題が背景にあります。内需の弱さを補う形で輸出は好調で、貿易黒字は史上初の1兆ドル超えを記録しましたが、これは持続可能な成長モデルとは言えません。
2026年は成長がさらに鈍化すると予測されており、中国経済の動向は世界経済、そして日本経済にも大きな影響を与えます。今後の政策対応と構造改革の行方に注目が集まります。
参考資料:
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