中国軍トップ張又俠が失脚、核機密漏洩疑惑の衝撃と軍粛清の行方
はじめに
2026年1月24日、中国国防部は衝撃的な発表を行いました。人民解放軍の制服組トップである張又俠(ちょう・ゆうきょう)中央軍事委員会副主席が「重大な規律・法律違反」の疑いで調査を受けていることを明らかにしたのです。
さらに米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、張氏が中国の核兵器に関する機密情報を米国に漏洩していたと報じました。習近平国家主席の幼なじみで最も信頼された軍幹部の失脚は、中国政治における激震と言えます。
本記事では、張又俠氏の失脚の経緯、核機密漏洩疑惑の詳細、そして習近平政権下で続く軍粛清の全体像を解説します。
張又俠とは何者か
習近平の「右腕」と呼ばれた軍人
張又俠氏(75歳)は、2017年から中央軍事委員会副主席を務める人民解放軍の最高幹部です。この役職は、習近平国家主席が兼任する中央軍事委主席に次ぐポストであり、軍における実質的なナンバー2でした。
張氏と習氏の関係は特別なものでした。両者は「紅二代」と呼ばれる革命元老の子弟であり、父親世代が共産党革命を共に戦った仲間でした。幼少期からの知り合いであり、習氏にとって張氏は軍内で最も信頼できる人物とされてきました。
実戦経験を持つ稀有な高官
張又俠氏は、人民解放軍の高官の中で数少ない実際の戦闘経験を持つ将軍でした。1979年の中越戦争に参加し、その後も軍の近代化を長期にわたり担当してきました。習近平政権が掲げる「2027年までの軍近代化」において、中心的な役割を果たすことが期待されていました。
核機密漏洩疑惑の衝撃
WSJが報じた内容
ウォール・ストリート・ジャーナルは1月25日、関係筋の情報として、張又俠氏が米国に対して中国の核兵器に関する「技術情報」を漏洩していた疑いがあると報じました。この情報は、中国軍の安全保障部門が24日朝に最高幹部向けに行ったブリーフィングの参加者から得られたものとされています。
報道によると、この疑惑は中国核工業集団公司の元最高経営責任者・顧軍氏への調査から浮上しました。同社は中国の民間・軍事両面の核プログラムを統括する国有企業です。顧軍氏への調査の過程で、張氏と核産業における安全保障上の問題との関連が明らかになったとされています。
その他の容疑
核機密漏洩以外にも、張氏には複数の容疑がかけられています。党の団結を損なう政治的影響力ネットワークの構築、中央軍事委員会での権限乱用、そして軍の調達システムにおける入札で競合他社を優遇する見返りとして巨額の金銭を受け取った汚職などが含まれます。
習近平政権下の軍粛清
2023年以降の大規模粛清
習近平政権下での軍粛清は、2023年夏以降急激に加速しました。これまでに50人以上の高級将校と国防産業幹部が失脚しています。2024年10月だけでも9人の将軍が解任され、その中には中央軍事委員会副主席も含まれていました。
特に注目されるのは「福建閥」と呼ばれるグループの粛清です。彼らは福建省アモイ市に拠点を置いていた旧第31集団軍の出身者で、習主席との福建省時代からの親密な関係を背景に出世してきた人々でした。しかし、習氏自身の派閥であるはずの彼らも粛清の対象となっています。
ロケット軍の問題
核兵器やミサイルを扱うロケット軍では、習主席肝いりで2015年に創設されて以来、トップが4代連続で汚職などにより失脚するという異常事態が続いています。
米国の情報機関の分析によると、ロケット軍内部および国防産業全体における腐敗は非常に広範囲に及んでいます。ミサイル燃料タンクに水が充填されていた、ミサイルサイロの蓋が機能しないなどの欠陥も報告されており、これが習主席の軍粛清を加速させた一因とも言われています。
中央軍事委員会の「空洞化」
一連の粛清の結果、中央軍事委員会は深刻な弱体化に直面しています。7人体制で発足した同委員会は、副主席や国防相の相次ぐ失脚により大幅に縮小しました。今回の張又俠氏と劉振立参謀長の失脚により、残るのは習近平主席と側近1名のみという異例の事態となっています。
国防部長も魏鳳和、李尚福に続いて3人連続で失脚の可能性が報じられており、中国軍の指揮系統は前例のない混乱状態にあります。
粛清の背景と狙い
反腐敗か権力闘争か
習近平政権は2012年の発足以来、「反腐敗」を旗印に軍・政府幹部の大規模な粛清を続けてきました。しかし、専門家の間では、これが純粋な腐敗撲滅なのか、それとも政治的ライバルの排除なのかについて議論があります。
今回の張又俠氏の失脚が特に注目される理由は、彼が習近平主席の最側近であり、「触れてはならない存在」と見なされてきたことにあります。習氏が自らの右腕とも言える人物を粛清したことは、軍内の権力闘争が新たな段階に入ったことを示唆しています。
台湾有事への影響
米国防総省の評価によると、長期的には軍内の粛清が忠誠度と戦力を高める可能性がある一方、短期的には絶え間ない内部清掃が軍の指揮効率を阻害するとされています。
特に、実戦経験を持つ張又俠氏や軍近代化を担ってきた幹部たちの大量失脚は、習近平政権が掲げる「2027年までに台湾を武力統一できる能力を持つ軍の構築」という目標に深刻な影響を与える可能性があります。
今後の注目点
後任人事と権力構造
張又俠氏の失脚後、中央軍事委員会の空席をどのように埋めるかが注目されます。習近平主席が信頼できる人材を見つけることは容易ではなく、軍の指揮系統の再構築には時間がかかる可能性があります。
米中関係への影響
核機密漏洩疑惑が事実であれば、中国の核戦力に関する重要な情報が米国に渡っていたことになります。これが米中間の戦略的バランスにどのような影響を与えるか、また中国側がどのような対応を取るかも今後の焦点となります。
まとめ
張又俠氏の失脚は、習近平政権下で進む軍粛清の中でも最大級の出来事です。習主席の幼なじみで最も信頼された軍幹部が、核機密漏洩という極めて深刻な疑惑とともに調査を受けている事実は、中国軍内部の混乱の深さを物語っています。
中央軍事委員会が実質的に機能不全に陥る中、中国の軍事力と対外政策にどのような影響が出るかは、東アジアの安全保障にとっても重大な関心事項です。今後の展開を注視する必要があります。
参考資料:
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