中国軍制服組トップに核機密漏洩疑惑、粛清加速
はじめに
2026年1月25日、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は衝撃的なニュースを報じました。中国人民解放軍の制服組トップである張又侠・中央軍事委員会副主席が、中国の核兵器に関する機密情報を米国に漏洩した疑いで調査を受けているというのです。
張氏は習近平国家主席に次ぐ軍のナンバー2であり、習氏の最も近い側近の一人とされてきました。この疑惑が事実であれば、中国軍の規律と統治能力に深刻な問題があることを示すものとなります。習近平政権が進める軍内の反腐敗闘争は、ついに最高幹部にまで及んだことになります。
本記事では、張又侠氏への疑惑の詳細、中国軍で進む大規模粛清の背景、そして今後の中国軍事力への影響について解説します。
張又侠氏への疑惑の詳細
核機密漏洩の疑い
WSJ紙によると、張又侠氏(75歳)に対する最も深刻な疑惑は、中国の核兵器に関する「技術情報」を米国に漏洩したというものです。中国当局は、軍の装備の研究開発・調達を担当する強力な機関を張氏がどのように監督してきたかについても調査しています。
疑惑の一部は、中国核工業集団(CNNC)の元最高経営責任者である古軍氏から得られた情報に基づいているとされています。CNNCは中国の民生・軍事両面の核プログラムすべてを監督する国有企業です。1月24日に開かれた報告会では、CNNCの元幹部を調べる中で張氏の「核部門での安全侵害」への関与が判明したと説明されたとのことです。
汚職の疑い
核機密漏洩に加え、張氏は公務に関連して賄賂を受け取った疑いも持たれています。具体的には、李尚福氏を国防部長に昇進させる見返りとして多額の賄賂を受け取ったとされています。李氏は2023年に公の場から姿を消し、その後国防部長を解任されました。2024年には汚職容疑で共産党を除名されています。
さらに、張氏は共産党の団結を損なうグループを形成した疑いもあるとされています。
調査の範囲と手法
習近平は張氏が瀋陽軍区司令官を務めた2007年9月から2012年10月までの5年間について徹底調査を命じ、特別作業部会を瀋陽に派遣しました。注目すべきは、この作業部会が張氏の地元支援ネットワークの影響を避けるため、軍基地ではなく地元のホテルに宿泊するほど慎重を期していることです。
張又侠氏の経歴と習近平との関係
軍制服組トップとしての地位
張又侠氏は2017年から中央軍事委員会副主席を務めており、習近平国家主席が主席を務める同委員会において、制服組のトップの地位にあります。中央軍事委員会は中国の最高軍事指揮機関であり、張氏は習近平に直接次ぐ軍のナンバー2です。
「太子党」としての絆
張氏と習近平は「太子党」(共産党高官の子弟)という共通の背景を持っています。張氏の父・張宗遜は人民解放軍の初代上将の一人であり、習近平の父・習仲勲と共に革命を戦った同志でした。この関係性から、張氏は習近平政権において最も信頼される軍幹部とみなされてきました。
それだけに、今回の疑惑は中国政治において極めて異例であり、衝撃的なものです。
加速する軍内大粛清
2023年以降の失脚者数
WSJ紙によると、2023年夏以降、50人以上の上級将校と国防産業幹部が失脚しています。2025年10月だけで9人の将軍が解任され、その中には別の中央軍事委員会副主席も含まれています。複数のアナリストは、現在の粛清を毛沢東時代以来最も大規模な軍指導部の再編と評しています。
主な失脚者
失脚した主要人物には以下が含まれます。
魏鳳和・元国防部長:2024年6月、収賄と規律違反の容疑で党籍剥奪処分
李尚福・元国防部長:2023年に公の場から姿を消し、2024年に汚職容疑で党除名
何衛東・元中央軍事委員会副主席:2025年4月に汚職疑惑で解任と報道。制服組副主席の更迭は約60年ぶり
苗華・元中央軍事委員会政治工作部主任:習近平の福建省時代からの腹心とされたが、重大な規律違反で停職処分
重要会議での大量欠席
2025年10月下旬に開かれた共産党の重要会議では、参加資格を持つ人民解放軍幹部の6割超が欠席しました。多くが汚職容疑で拘束中とみられています。大規模不正の元凶を追うと、習近平の福建省勤務時代に知遇を得た「福建閥」が浮かび上がっているとされます。
反腐敗闘争の背景と矛盾
習近平政権の反腐敗闘争の変遷
習近平の反腐敗闘争は政権発足以来継続しており、ターゲットは時期によって変化してきました。第一期政権(2012〜2017年)では石油部門、第二期政権(2017〜2022年)では公安・司法部門、そして2022年以降の第三期政権では軍が主要な標的となっています。
自らの側近を標的に
今回の粛清で注目されるのは、習近平自身の右腕とされてきた人物の出身部門が標的になっている点です。張又侠氏と縁の深い装備発展部(軍装備の研究開発・調達担当)に重点を置いて調査が進められています。
2025年11月には、張氏自身が軍内部の「反腐敗闘争」を貫徹すると宣言し、人民日報への寄稿で「毒を全面的に粛清する」と表明していました。皮肉にも、その2カ月後に自身が調査対象となったことになります。
今後の注意点と展望
処罰の可能性
中国の反スパイ法では、国家安全に関わるあらゆる事項がスパイ行為の対象となりえます。処罰は長期の禁固刑から死刑まで幅があります。張氏が核機密漏洩の容疑で有罪となれば、最も厳しい処分が下される可能性もあります。
軍の士気と統治能力への影響
軍の頂点に近い人物に核関連の疑惑が向けられたことは、対外的な抑止力よりも「内部の統治コスト」が上昇していることを示唆しています。人事・調達・機密管理が同時に揺らぐ状況では、短期的には規律強化が進む一方、意思決定の硬直化や現場の萎縮が起きれば、長期的な軍改革そのものが不安定化する恐れがあります。
台湾情勢への影響
一部のアナリストは、今回の粛清により中国の台湾侵攻計画が数年遅れる可能性を指摘しています。軍最高幹部の相次ぐ失脚は指揮系統の混乱を招きかねず、大規模軍事作戦の遂行能力に疑問符がつくためです。
情報の信頼性
今回の報道はWSJ紙の情報筋に基づくものであり、中国当局からの公式確認はありません。中国の政治・軍事情報は不透明な部分が多く、報道内容の全てが事実かどうかは慎重に見極める必要があります。
まとめ
張又侠氏への核機密漏洩疑惑は、習近平政権の軍内粛清が最高幹部にまで及んだことを示す衝撃的な展開です。習近平にとって最も信頼できる側近とされてきた人物が調査対象となったことで、中国軍の規律と統治能力に深刻な問題があるのではないかとの見方が強まっています。
「世界一流の軍隊建設」を掲げてきた習近平政権にとって、今回の事態は大きな打撃です。軍の近代化と反腐敗闘争の両立がいかに困難であるかを物語っています。今後、張氏への処分がどのように進むのか、そして軍の指揮系統にどのような影響が出るのか、注視が必要です。
参考資料:
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