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by nicoxz

張又俠とは何者か:習近平の盟友が粛清された背景

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はじめに

2026年1月24日、中国国防部は衝撃的な発表を行いました。人民解放軍の制服組トップである張又俠・中央軍事委員会副主席が「重大な規律違反」の疑いで調査を受けているというものです。

張又俠氏は習近平国家主席と幼少期からの親交があり、2022年には年齢制限の慣例を破ってまで副主席に留任させられた人物です。習近平体制において最も信頼された軍人の一人が、なぜ突然失脚したのでしょうか。本記事では、張又俠氏の人物像と習近平との関係、そして粛清の背景を詳しく解説します。

張又俠とは何者か

「紅二代」としての出自

張又俠氏は1950年、北京で生まれました。父親の張宗遜は中国内戦で活躍した共産党の将軍であり、毛沢東と共に秋収起義(1927年)に参加し、長征(1934〜1936年)も経験した革命の英雄です。

このような共産党創設期の幹部の子弟を「紅二代」と呼びます。習近平国家主席も同様に、父・習仲勲が革命世代の指導者であり、紅二代に属します。張又俠と習近平の父親同士は、いずれも陝西省渭南出身で、抗日戦争や国共内戦を共に戦った戦友でした。

習近平との深い絆

国共内戦時、彭徳懐が司令員を務める西北野戦軍(後の第一野戦軍)において、張宗遜は副司令員、習仲勲は副政治委員を務めていました。この関係から、習近平と張又俠は幼少期から北京で知り合い、「義兄弟」とも称される深い信頼関係を築いてきたとされています。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は張又俠氏を「習近平とその兄弟姉妹にとっての『義兄弟』」と表現しており、両者の関係の深さがうかがえます。

唯一の実戦経験を持つ軍指導者

張又俠氏の軍歴で特筆すべきは、1979年の中越戦争への参加です。現在の人民解放軍指導部の中で、実際の戦闘経験を持つのは張又俠氏だけでした。

台湾統一を視野に入れ「戦争に勝てる軍隊」の構築を目指す習近平にとって、張又俠氏の実戦経験と感覚は極めて重要な価値を持っていたと考えられています。

2022年の異例の続投

68歳ルールの例外

中国共産党には「68歳以上なら引退」という慣例があります。2022年10月の共産党大会時点で、張又俠氏は72歳に達していました。通常であれば引退するはずの年齢です。

しかし習近平は、この慣例を破って張又俠氏を政治局委員・中央軍事委員会副主席に留任させました。68歳以上で政治局入りしたのは張又俠氏と王毅・外事工作委員会弁公室主任だけであり、両者が習近平にとっていかに欠かせない存在であったかを示しています。

信頼と警戒の複雑な心境

習近平が張又俠氏を続投させた理由は、単純な信頼だけではなかったとの見方があります。張又俠氏は軍内で絶大な影響力を持ち、習近平にとっては頼りになる存在である一方、その影響力の大きさ自体が潜在的な脅威でもあったとされています。

信頼できる盟友を近くに置きつつも、その動向を監視するという複雑な心境が、2022年の続投決定には反映されていたと分析されています。

突然の粛清

発表された容疑

2026年1月24日、中国国防部は張又俠氏と劉振立・統合参謀部参謀長が「重大な規律違反」の疑いで調査を受けていると発表しました。

報道によれば、張又俠氏には以下の容疑がかけられています。

  • 中国の核兵器に関する機密情報を米国に漏洩
  • 李尚福の国防部長昇進を支援するために巨額の賄賂を受け取った
  • 汚職行為
  • 側近・家族・親族への監督不行き届き
  • 問題を党指導部に報告しなかった
  • 「政治派閥」の形成

1971年以来最高位の失脚

張又俠氏の失脚は、1971年の林彪事件以来、最高位の軍高官の失脚となりました。林彪は毛沢東の後継者に指名されながら、クーデター計画が発覚して逃亡中に飛行機事故で死亡したとされる人物です。

サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によれば、張又俠氏は1月19日に逮捕されたとされています。軍機関紙・解放軍報は「信頼を裏切り、中央軍事委の主席責任制をひどく踏みにじり破壊した」と厳しく非難しました。

空洞化する軍指導部

張又俠氏と劉振立氏の失脚により、中央軍事委員会は習近平本人と紀律検査担当の張昇民副主席の2人だけとなりました。2022年10月に7人で発足した現体制は、相次ぐ粛清で4人に減っていましたが、今回さらに2人が消えたことになります。

政治局委員を兼務する張又俠氏の失脚で、党中央政治局に軍人が不在という異例の事態も生じています。習近平が2012年に権力を握って以来、20万人以上の官僚を処罰してきた「反腐敗運動」の一環とされますが、これほど習近平に近い人物が標的になったのは初めてです。

台湾情勢への影響

短期的には「安全」に見えるが

張又俠氏の失脚により、人民解放軍の短期的な戦力が損なわれるとの見方があります。指揮系統の再編、古参将校の退場、新人の登用、相互信頼の不足は、統合作戦能力に悪影響を与えるためです。

台湾メディアは、軍権闘争と内部安定に忙殺されることで、台湾に対する大規模作戦を発動する余裕がなくなると報じています。

長期的にはより危険な可能性

しかし専門家は、長期的な視点での危険性を指摘しています。前米国国防部中国科科長のドリュー・トンプソン氏は「これは単なる腐敗粛清ではなく、習近平の周囲から唯一真実を語り、実戦経験を持つ軍事顧問を失うことを意味する」と警告しています。

複数の消息筋によれば、張又俠氏は内部会議で即時の武力行使に明確に反対していたとされています。台湾の防御体系はイスラエルに次いで高く、米・日・豪の介入可能性が極めて高いため、長期戦になれば国内動乱を引き起こすと主張していたといいます。

このような異論を唱える人物がいなくなれば、習近平が武力行使を命じた場合に軍事的観点から反論できる者がいなくなり、「災難的な誤判」のリスクが急上昇するとトンプソン氏は分析しています。

注意点・展望

情報の不確実性

中国の軍内部で何が起きているかについて、外部から確認することは極めて困難です。報道されている容疑の内容も、匿名の情報源に基づくものが多く、中国政府による公式な詳細発表はありません。

「核兵器情報の米国への漏洩」という容疑が事実かどうかも、現時点では検証不可能です。粛清の真の理由が権力闘争にあるのか、本当に汚職があったのかは、今後の展開を注視する必要があります。

習近平体制の行方

2022年に習近平が任命した中央軍事委員会の6人の指揮官は、全員が解任されました。これは習近平が「絶対服従」する軍隊を求めていることを示唆しています。

米テキサス州の翁履中准教授は、現在の粛清を「滑走路の整備」に例え、将来の行動をより制御可能にするためのものだと指摘しています。台湾問題について「北京には先延ばしにできない圧力がある」とも述べており、この期間を「安全期間」と見なすことは危険だと警鐘を鳴らしています。

まとめ

張又俠氏は習近平の幼馴染であり、紅二代としての絆で結ばれた盟友でした。2022年には年齢制限を破って続投させるほど信頼されていましたが、2026年1月に突然の失脚となりました。

この粛清は、1971年の林彪事件以来最高位の軍高官の失脚であり、習近平体制の軍掌握がさらに進んだことを示しています。一方で、実戦経験を持つ唯一の軍指導者を失ったことで、台湾情勢における「誤判」のリスクが高まったとの見方もあります。

今後の中国軍指導部の動向と、台湾海峡の安全保障環境への影響が注目されます。

参考資料:

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