中国軍トップ張又俠氏ら調査へ 止まらない汚職摘発の衝撃
はじめに
2026年1月24日、中国国防省は衝撃的な発表を行いました。人民解放軍の制服組トップである張又俠・中央軍事委員会副主席と、劉振立・統合参謀部参謀長の2人を「重大な規律・法律違反」の疑いで調査すると公表したのです。
現役の軍制服組トップが汚職疑惑で取り調べを受けるのは極めて異例です。張又俠氏は中国共産党序列23位以内の中央政治局員も兼務しており、習近平政権の中枢を揺るがす事態となっています。
本記事では、中国軍における汚職摘発の現状と、それが台湾有事を含む軍の作戦能力に与える影響について解説します。
張又俠氏の失脚と調査の詳細
調査発表の経緯
中国国防省は1月24日、党中央の審議を経て張又俠氏と劉振立氏への調査を開始すると発表しました。「重大な規律違反および法律違反の疑い」という表現は、汚職などを含む不正を指す際に用いられるものです。
2人の名前は中央軍事委員会のホームページからすでに削除されており、事実上の解任とみられています。
張又俠氏の経歴
張又俠氏は1950年生まれの軍人で、父は人民解放軍の張宗遜上将という軍人一家の出身です。2017年から中央軍事委員会副主席を務め、習近平国家主席の側近として知られていました。
中央政治局員を兼務する軍の最高幹部が汚職疑惑で調査されるのは、習近平政権発足以来でも最も衝撃的な事態の一つです。
劉振立氏について
劉振立氏は中央軍事委員会委員兼統合参謀部参謀長を務めていました。軍の作戦指揮を担う要職であり、彼の調査も軍の運営に大きな影響を与える可能性があります。
止まらない軍幹部の汚職摘発
過去最高の摘発件数
中国で汚職事件で摘発された幹部の人数は、2025年に65人となり、習近平政権下での最多を更新しました。習近平政権の看板政策である「反腐敗キャンペーン」は、開始から13年がたってもむしろ厳しさを増しています。
この数字には軍人は含まれておらず、軍内部の摘発を加えると、実際の数はさらに多くなります。
軍高官の相次ぐ失脚
2025年9月には、軍制服組ナンバー2の何衛東・中央軍事委員会副主席ら幹部9人が重大な規律違反で党籍剥奪処分を受けるという衝撃的な発表がありました。
陸海空各軍、ロケット軍、政治部門、参謀部門、装備部門、武装警察まで、あらゆる部門で高級幹部が失脚しています。特に武器調達に関わる装備部門とロケット軍が集中的な標的となっており、ロケット軍では2015年の設立以来、三代の司令員すべてが摘発されるという異常事態に陥っています。
国防相3代連続の汚職疑惑
魏鳳和元国防部長は2024年6月に収賄や規律違反の容疑で党籍剥奪処分となり、李尚福国防部長にも同様の処分が下されました。さらに現職の董軍国防相も汚職捜査の対象になっていると報じられています。
現職の国防相が3代連続で汚職疑惑をかけられる事態は、中国軍の組織的な腐敗体質を如実に示しています。
「反腐敗闘争」の実態と限界
習近平政権の姿勢
張又俠氏は2025年11月、共産党機関紙の人民日報に寄稿し「毒を全面的に粛清する」と宣言していました。軍内部の反腐敗闘争を徹底すると表明した本人が、その後調査対象となる皮肉な展開となりました。
習近平国家主席は12年以上にわたり「反腐敗闘争」を続けていますが、側近中の側近といわれる軍最高幹部も失脚するなど、威信低下につながりかねない状況です。
「福建閥」の粛清
「福建閥」と呼ばれる軍人グループの失脚も注目されています。彼らは台湾方面を管轄する東部戦区やその前身の旧南京軍区に長く勤務し、習主席の信頼を得て出世してきた人々でした。
習主席は彼らを軍の要職に送り込むことで腐敗体質の軍を改革しようとしましたが、相次いで汚職が見つかり、党籍剥奪や失脚に追い込まれています。
組織的腐敗の深刻さ
これだけ軍の最高幹部が続けざまに失脚する状況は、解放軍高官で汚職に手を染めない者がいないかのような印象を与えています。反腐敗闘争の成果というよりも、軍全体に蔓延する構造的な腐敗の存在を示唆しているといえます。
台湾有事への影響
作戦能力への懸念
軍高官の相次ぐ失脚は、軍の安定性と実力に対する疑問を呈するものです。海外メディアからは、指揮系統の混乱や士気低下が作戦能力に影響を与える可能性が指摘されています。
本来7人いるはずの中央軍事委員会は、2人の調査により残り2人しかいない状態となりました。軍の最高意思決定機関がこれほど弱体化した状態は前例がありません。
中国軍の台湾侵攻計画
中国軍が想定する台湾侵攻作戦は、(1)封鎖およびミサイル・航空攻撃、(2)着上陸侵攻、(3)台湾内部での戦闘という3段階に分けられます。これらの作戦は、どこかの段階で大規模な戦闘の遅延や混乱があれば、作戦全体が頓挫する弱点を抱えています。
軍内部の大規模な汚職摘発が続く中、指揮官の交代や組織の動揺が作戦実行能力にどう影響するかは、台湾海峡の安全保障を考える上で重要な要素となります。
装備調達への影響
特に懸念されるのが、武器調達に関わる装備部門での汚職です。軍需産業関連企業の幹部も軒並み汚職容疑で逮捕されており、軍と企業の癒着の実態が明らかになっています。
装備調達の過程で不正が行われていたとすれば、実際に配備されている兵器の質や数量にも疑問が生じます。
今後の展望と注意点
政権への影響
習近平政権にとって、これほど多くの側近が失脚する事態は政権基盤を揺るがしかねません。反腐敗闘争の強化は、一方で政権の統制力を示すものですが、同時に人事への信頼性を損なう結果にもなっています。
軍の再建と課題
中央軍事委員会のメンバーが大幅に減少した現状では、新たな人事が必要となります。しかし、これほど多くの高官が汚職で摘発される状況では、後任の人選も容易ではありません。
軍の再建には相当な時間がかかると予想され、その間の軍事的な能力低下は避けられない可能性があります。
まとめ
2026年1月24日に発表された張又俠氏ら軍最高幹部の調査は、中国人民解放軍における汚職問題の深刻さを改めて浮き彫りにしました。
習近平政権発足以来続く反腐敗闘争は、軍の組織的腐敗を根絶するどころか、次々と新たな不正を明らかにしています。軍高官の相次ぐ失脚は、台湾有事を含む作戦能力への影響も懸念されます。
中国軍の今後の動向と、国際安全保障への影響を注視していく必要があります。
参考資料:
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