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by nicoxz

中国軍トップ張又俠失脚、習近平の「個人軍」化が加速

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はじめに

2026年1月、中国政治に激震が走りました。中国人民解放軍の制服組トップである張又俠・中央軍事委員会副主席が突然失脚したのです。習近平国家主席に次ぐ軍の実質的なナンバー2であり、長年の盟友とされてきた人物の粛清は、国内外に大きな衝撃を与えています。

張又俠氏の失脚により、中央軍事委員会のメンバーは習近平氏と張昇民副主席の2人だけとなりました。「共産党の軍隊」である中国軍が、事実上の「個人の軍隊」に大転換したと専門家は指摘しています。

本記事では、張又俠失脚の背景と影響、そして中国軍の行方について解説します。

張又俠とは何者だったのか

実戦経験を持つ稀有な軍人

張又俠は1950年生まれ、陝西省出身の軍人です。父は人民解放軍の上将・張宗遜で、建国の英雄の家系に生まれた「紅二代」(革命第二世代)にあたります。1968年、18歳で軍に入隊し、一貫して軍人としてのキャリアを歩んできました。

張又俠の経歴で特筆すべきは、1979年と1984年のベトナムとの軍事衝突(中越戦争)における実戦経験です。特に1984年の老山戦役では、第14軍40師119団の団長として前線での戦闘を指揮しました。戦後、119団は昆明軍区から集団一等功を記録され、張又俠自身も副師長、師長へと昇進しています。

現代の中国軍において、実戦経験を持つ将校は極めて稀です。張又俠は数少ない「戦場を知る将軍」として、軍内部で高い影響力を持っていました。

習近平との深い絆

張又俠と習近平の関係は、父親の世代にまで遡ります。習近平の父・習仲勲と張又俠の父・張宗遜は、共に陝西省出身の同郷でした。抗日戦争後の第二次国共内戦期には、彭徳懐が指揮する西北野戦軍でそれぞれ副政治委員、副司令員を務めた戦友でもあります。

この親世代の友情は息子たちに受け継がれ、張又俠は習近平の「古い友人で心腹」と見なされてきました。2022年10月、習近平が中共中央総書記と中央軍事委主席に三選した際も、72歳の張又俠は引き続き中央軍事委副主席を務め、序列第一の副主席として軍を取り仕切っていました。

失脚の経緯と背景

突然の「重大な規律違反」発表

2026年1月24日、中国国防部は張又俠が「重大な規律違反」の疑いで調査を受けていると発表しました。同時に、中央軍事委員会委員の劉振立・統合参謀部参謀長も失脚が発表されています。

軍機関紙・解放軍報は1月25日付の社説で、張氏と劉氏が「信頼を裏切り、中央軍事委の主席責任制をひどく踏みにじり破壊した」と厳しく非難しました。「軍に対する共産党の絶対的指導に重大な影響を与え、党の統治の根幹である政治と腐敗の問題を損なった」としています。

米紙が報じた「核情報漏洩」疑惑

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは衝撃的な報道を行いました。張又俠が中国の核兵器に関する機密情報を米国へ漏洩した疑いがあるというのです。これは「反逆罪」に相当する重大な罪であり、極刑の対象となり得ます。

さらに、李尚福の国防部長昇進を支援するために巨額の賄賂を受け取ったとの告発もあります。ただし、中国当局はこれらの具体的な容疑内容を公式には認めていません。

近代化をめぐる路線対立

分析によると、張又俠と劉振立の失脚は、習近平との間で人民解放軍近代化の方法論と時期について実質的な意見の相違があったことが一因とされています。

張又俠は統合作戦能力の完全な確立を2035年までとする段階的アプローチを主張していました。一方、習近平は2027年までの準備完了を要求していたとされます。中国軍は2027年に創設100周年を迎えるため、習近平はそれまでに台湾侵攻能力を整えるよう圧力をかけていたと言われています。

中央軍事委員会の「空洞化」

7人から2人へ

2022年10月の党大会で7人体制で発足した中央軍事委員会は、度重なる粛清により大幅に縮小しています。

まず、何衛東副主席が汚職疑惑で解任されました。中央軍事委の制服組副主席の更迭は、およそ60年ぶりの出来事です。その後任として張昇民が副主席に昇格しましたが、今回の張又俠・劉振立の失脚により、メンバーは習近平主席と張昇民副主席の2人だけとなりました。

「政治・監察畑」だけが残る

注目すべきは、生き残った張昇民の経歴です。張昇民は規律検査、政治工作畑が長く、習近平の軍粛清を監督する立場にありました。軍事・軍略のエキスパートとは言い難い人物です。

つまり、中国軍の中枢組織には、実際に作戦を指揮できる制服組軍人がほぼ不在という異常事態に陥っています。党中央政治局にも軍人が不在という、党創設以来の異例の事態となりました。

「党の軍隊」から「習氏の軍隊」へ

「今回の粛清によって、人民解放軍は党の軍隊から”習氏の軍隊”へと大きく変わりつつある」とNHKは報じています。

習近平国家主席が軍を直接取り仕切る形となり、専門家からは「共産党の軍隊」である中国軍が事実上の「個人の軍隊」に大転換したと指摘されています。軍の指揮系統における集団指導体制が崩壊し、一人の指導者に権力が集中する構造が形成されつつあります。

止まらない反腐敗運動

過去最大規模の処分

2026年初頭、北京当局は過去1年間で中国共産党中央規律検査委員会(中紀委)が記録的な98万3,000人を処分したと公表しました。習近平は軍制服組トップだった張又俠を粛清しただけでなく、その刃を金融業界や国有企業にも向け、反腐敗の圧力を強めています。

習近平側近も次々と失脚

皮肉なことに、汚職で摘発された将軍の多くは習近平自身が抜擢・重用してきた人物です。

2024年から2025年にかけて、前国防相を含む20人以上の最高幹部が「腐敗容疑」で取り調べを受けました。中央軍事委員会政治工作部長だった苗華も「重大な規律違反」で停職となっています。苗華は習近平と福建省時代からの腹心と言ってもいい人物でした。

習近平派の軍高官が9人一斉に党籍・軍籍を剥奪されるなど、これほど多くの軍高官が同時に追放されるのは極めて異例の事態です。

台湾情勢への影響

短期的にはリスク低下の見方

張又俠の失脚は台湾問題にも大きな影響を与えます。

オーストラリア戦略政策研究所の分析によると、張又俠の解任と人民解放軍の指導部で避けられない混乱により、「中国が即座に台湾を武力で奪取する意図的な軍事行動を起こす可能性は、おそらく低下した」としています。

軍の指揮系統が混乱している状況で、大規模な軍事作戦を遂行することは困難です。短期的には、台湾海峡の緊張が一時的に緩和する可能性があります。

中長期的な懸念

一方で、中長期的には別の懸念があります。習近平が2027年までの台湾侵攻能力確立に固執しているとすれば、軍の粛清が終わった後に急速な軍事行動に出る可能性も否定できません。

また、軍内部での実戦経験を持つ将校の粛清は、作戦遂行能力の低下につながる恐れがあります。張又俠のような中越戦争経験者が排除されることで、軍の実戦ノウハウが失われるリスクも指摘されています。

注意点と今後の展望

情報の不透明性

人民解放軍の内部事情は、外部からは極めて把握しにくい状況にあります。張又俠の失脚理由として報じられている「核情報漏洩」や「賄賂」といった容疑も、中国当局が公式に認めたものではありません。

軍内で何が起きているのか、実情は不明な部分が多く、今後も予想外の展開が起こる可能性があります。一部では、軍内で習近平に対する挑戦が発生しているという観測も広がっています。

中国軍の実力への疑問

今回の大規模粛清は、中国軍に対する根本的な疑問を投げかけています。「戦って勝てる軍隊」を目指す習近平ですが、軍での汚職一掃は極めて難しいのが現状です。「台湾侵攻どころではない」との見方も出ています。

また、習近平に絶対的な忠誠を誓う人物だけで軍を構成した場合、軍事的な専門性や作戦遂行能力が犠牲になる恐れがあります。政治的忠誠と軍事的能力の両立は、どの国の軍隊にとっても難しい課題です。

まとめ

張又俠の失脚は、習近平政権下で最大規模の政変と言えます。父親の世代からの盟友であり、実戦経験を持つ稀有な軍人の粛清は、中国軍の性格を根本から変えつつあります。

中央軍事委員会が事実上2人体制となり、「党の軍隊」から「習氏の軍隊」への大転換が進んでいます。軍事専門家を欠いた指導部が、世界第2位の軍事大国をどのように運営していくのか、国際社会の注視が必要です。

台湾海峡情勢を含む東アジアの安全保障環境は、中国軍の動向に大きく左右されます。今後の展開を注意深く見守る必要があります。

参考資料:

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