中国の中南米戦略に誤算、マドゥロ拘束直前まで特使が協議

by nicoxz

はじめに

2026年1月3日未明、米軍はベネズエラの首都カラカスを急襲し、ニコラス・マドゥロ大統領を拘束しました。この作戦は世界に衝撃を与えましたが、特に驚いたのは中国政府だったかもしれません。

なぜなら、マドゥロ大統領は拘束されるわずか数時間前まで、中国のラテンアメリカ事務特別代表・邱小琪氏率いる代表団と協議していたからです。中国はこの20年間で600億ドル規模ともされる融資・投資をベネズエラに行い、石油供給を確保してきました。

米国の「裏庭」とされる中南米で資源確保を進めてきた中国にとって、今回の事態は大きな誤算となりました。本記事では、中国のベネズエラ戦略の背景と、マドゥロ拘束による影響を解説します。

拘束直前の中国特使との会談

わずか6時間半前の協議

ワシントン・ポスト紙の報道によると、マドゥロ大統領が中国の邱小琪特別代表率いる代表団と会談したのは、2026年1月2日のことでした。両者は米国との緊張激化について協議し、マドゥロ氏は会談後の同日夜、SNSで「中国とベネズエラの力強い友情を再確認した」と称賛する投稿をしています。

しかし、その約6時間半後の1月3日未明、米軍の攻撃が始まりました。カラカスに滞在中だった中国代表団は、攻撃開始を知って衝撃を受けたと報じられています。

トランプ政権の強硬姿勢を読み違えか

中国はトランプ政権の強硬姿勢を読み違えていた可能性があります。マドゥロ氏と数時間にわたって協議していた邱小琪特使は、両国関係の友好を確認したばかりでした。にもかかわらず、その直後に米軍が軍事作戦を実行したことは、中国側にとって完全な不意打ちだったと見られています。

トランプ大統領はマドゥロ拘束直後、「西半球における米国の支配が再び疑問視されることはない」と宣言。19世紀のモンロー・ドクトリン(米州不介入主義)を復活させた「ドンロー・ドクトリン」とも呼ばれる新たな政策を打ち出しました。

中国の対ベネズエラ投資の全容

600億ドル規模の融資・投資

中国は過去20年間で、ベネズエラに対して600億ドル(約9兆円)規模の融資・投資を行ってきたと分析されています。米調査会社ローディアム・グループのデータによると、主に国有企業による投資は48億ドルに上ります。

投資分野は多岐にわたり、エネルギー、インフラ、通信、鉱山開発、農業、軍事協力など600件以上のプロジェクトが進められてきました。

石油供給の確保

中国にとってベネズエラは重要な石油供給国でした。ベネズエラの石油輸出の約8割は中国向けで、2025年12月時点でベネズエラから中国への原油輸出は日量60万バレル以上に達し、中国の原油輸入全体の約4%を占めていました。

ベネズエラは世界最大の確認原油埋蔵量を持つ国です。かつては日量300万バレル以上を生産していましたが、インフラ老朽化や制裁の影響で現在は約100万バレル(世界全体の約1%)にまで落ち込んでいます。

中国の中南米戦略の変遷

米国の「裏庭」への進出

中南米は伝統的に米国の勢力圏(「裏庭」)とされてきました。しかし近年、米国が中南米との経済パートナーシップを軽視する中で、中国は着実に存在感を高めてきました。

現在、中南米の主要5カ国(北米を除く)のうち4カ国で、中国が最大の貿易相手国となっています。米国の経済的な関与が薄れる間に、中南米は中国の製造業を支える原材料の主要な調達先へと変貌しました。

「全天候型戦略パートナーシップ」

中国とベネズエラは「全天候型戦略パートナーシップ」を掲げ、米国の覇権に対抗する強固な同盟関係を構築してきました。中国はマドゥロ政権を一貫して支持し、米国の制裁や国際的孤立に対抗するための後ろ盾となってきたのです。

ベネズエラは中国にとって中南米における主要な政治的同盟国であり、この地域での影響力拡大の拠点でもありました。

中国の対応と限界

外交ルートでの非難

中国外務省の林剣報道官は、米国のベネズエラ攻撃について「国際法と国際関係の基本原則に対する重大な違反であり、ベネズエラの主権を侵害し、中南米・カリブ地域の平和と安全を脅かすもの」と強く非難しました。

中国政府は米国に対し、ベネズエラ政府の転覆を止め、マドゥロ氏を解放するよう求めています。

軍事的対抗手段の欠如

しかし、中国が取り得る対応は外交的抗議に限られるとの見方が支配的です。アナリストによると、「中国ができることはあまりない。率直に言って、中国には軍事力がない。中国は海外に2カ所しか軍事基地を持っていないが、米国は800カ所ある」と指摘されています。

中国は現時点で、ベネズエラ問題でハードパワー(軍事力)を行使するのではなく、外交的抗議にとどめる可能性が高いと分析されています。

今後の注意点と展望

中国の投資は保護されるか

最大の関心事は、中国がベネズエラに行ってきた数十億ドル規模の投資が保護されるかどうかです。新政権下でも中国企業の権益が維持されるのか、あるいは米国企業に取って代わられるのか。この点は今後の米中関係にも影響を与える可能性があります。

トランプ大統領はマドゥロ拘束後、「米国の大手石油会社がベネズエラに入り、数十億ドルを投じて老朽化したインフラを修復し、この国に利益をもたらす」と発言しており、米国企業による石油産業の掌握を明確に打ち出しています。

中南米諸国への波及効果

ベネズエラへの軍事介入は、中南米諸国の対中政策にも影響を与える可能性があります。「今後、中南米諸国は経済面で中国との関係構築により慎重になるかもしれない」という圧力が生じると分析されています。

一方で、今回の事態が中国による台湾への軍事行動を勇気づける可能性を懸念する声もあります。

米中の新たな対立軸

ベネズエラ問題は、米中間の新たな対立軸として浮上しています。トランプ政権がモンロー・ドクトリンを復活させ、西半球における米国の支配を再確認する中、中国の中南米戦略は大きな転換を迫られています。

ただし、中国は依然として中南米の多くの国と経済的な結びつきを持っており、一朝一夕にその影響力が消えるわけではありません。今後は米中がいかにこの地域で競争するかが、国際政治の重要なテーマとなるでしょう。

まとめ

米軍によるマドゥロ大統領の拘束は、中国の中南米戦略に大きな誤算をもたらしました。拘束されるわずか6時間半前まで中国特使と協議していたマドゥロ氏の急転落は、中国がトランプ政権の強硬姿勢を読み違えていた可能性を示唆しています。

中国は過去20年間で600億ドル規模の融資・投資をベネズエラに行い、石油供給の確保と政治的影響力の拡大を図ってきました。しかし、軍事的な対抗手段を持たない中国にとって、今回の事態への対応は外交的抗議にとどまらざるを得ません。

ベネズエラ問題は米中対立の新たな火種となり、中南米全体の地政学にも影響を与える可能性があります。中国の中南米戦略は、大きな岐路に立たされています。

参考資料:

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