大学共通テスト、初のWeb出願で49万人が挑戦
はじめに
2026年1月17日、大学入学共通テストが全国の会場で一斉に始まりました。今回の試験で最も注目されるのは、初めて導入されたオンライン出願システムです。49万6,237人の受験生が挑むこの試験は、新学習指導要領に基づく試験としては2年目となり、日本の大学入試制度における大きな転換点となっています。
従来は高校を通じて紙の願書を郵送する方式でしたが、2026年からは受験生自らがインターネット上で出願手続きを行い、受験票も自分で印刷する仕組みに変わりました。この変革は、教育現場のデジタル化を象徴する動きであると同時に、受験生と高校教員の双方に新たな課題をもたらしています。
本記事では、Web出願導入の背景と影響、デジタル化によるメリットと課題、そして今後の大学入試の展望について詳しく解説します。
Web出願導入の背景と仕組み
なぜ今、オンライン化なのか
大学入試センターが2026年度の共通テストからWeb出願を導入した最大の理由は、高校教員の負担軽減です。従来のシステムでは、高校が生徒の願書を取りまとめて郵送する必要があり、記入漏れのチェックや書類の管理に膨大な時間を要していました。
また、デジタルネイティブ世代である現代の受験生にとって、紙よりもスマートフォンやパソコンでの入力の方が慣れており、濁点の記入ミスなど紙特有のエラーを防ぐことができます。文部科学省は教育現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、大学入試のオンライン化はその一環として位置づけられています。
新システムの具体的な流れ
2026年の共通テストでは、受験生は「共通テスト出願サイト」にアクセスし、以下の手順で出願を行いました。
- サイトにアカウント登録し、個人情報を入力
- 受験科目を選択し、検定料を支払い
- 出願完了後、マイページから受験票のPDFをダウンロード
- 自宅または学校、コンビニエンスストアで受験票を印刷
- 試験当日に印刷した受験票を持参
このプロセスにより、郵送に要する時間が不要になり、修正が必要な場合も即座に対応できるようになりました。さらに、記入漏れがあれば警告が表示されるため、不備による出願ミスのリスクが大幅に減少しました。
志願者数の動向
2026年度の共通テスト志願者数は49万6,237人で、前年度から1,066人増加しました。注目すべきは、現役生が前年比5,657人減の42万311人(84.7%)だったのに対し、既卒者が6,336人増の7万1,310人(14.4%)と大幅に増加した点です。
この傾向は、新学習指導要領に対応した初年度の2025年度試験で苦戦した既卒者が、再チャレンジしている可能性を示唆しています。Web出願の導入により、既卒者が自分のペースで出願手続きを進めやすくなったことも、志願者増加の一因と考えられます。
デジタル化のメリットと実態
受験生側のメリット
Web出願の最大のメリットは、入力のしやすさと修正の容易さです。紙の願書は黒のボールペンで記入し、訂正する場合は二重線を引いて余白に書き直す必要がありましたが、オンラインであれば何度でも加筆・削除が可能です。
また、記入漏れがあると自動的に警告が表示されるため、出願不備による受験機会の喪失を防げます。スマートフォンやパソコンでの文字入力に慣れた現代の高校生にとって、タイピングの方が手書きよりも速く正確に情報を入力できるという声も多く聞かれます。
さらに、検定料の支払いもクレジットカードやコンビニ決済で即座に完了できるため、銀行振込の手間や郵便局への往復が不要になりました。
高校教員の負担軽減
従来のシステムでは、高校教員が数百人規模の生徒の願書を一つひとつチェックし、まとめて郵送する必要がありました。この作業は通常業務に加えて行われるため、教員にとって大きな負担となっていました。
Web出願の導入により、この取りまとめ業務が完全に不要になり、教員は本来の教育活動に専念できるようになりました。ただし、インターネット環境がない生徒や、操作に不安を感じる生徒へのサポートという新たな役割が生まれています。
システムの信頼性と安定性
大学入試センターは、Web出願システムの構築にあたり、同時アクセスに耐えうるサーバー環境を整備しました。出願期間中は24時間体制でシステムを監視し、トラブル発生時には迅速に対応できる体制を敷いています。
2026年度の出願期間中、大きなシステム障害は報告されておらず、初年度としてはスムーズな導入が実現したと言えます。
新たな課題とトラブル事例
受験票の印刷問題
Web出願の導入で最も懸念されたのが、受験票の印刷トラブルです。従来は大学入試センターから自宅に郵送されていた受験票を、受験生自身が印刷する必要があるため、「プリンターがない」「文字化けする」といった問題が発生しました。
実際に、スマートフォンのブラウザから直接印刷しようとすると文字化けが起こるケースが報告されています。対策として、PDFファイルをいったん端末にダウンロードしてから印刷する、またはパソコンを使用することが推奨されています。
自宅にプリンターがない受験生は、コンビニエンスストアのマルチコピー機を利用できますが、PDFデータをUSBメモリやスマートフォンに保存し、店頭で印刷する手順に不慣れな生徒も少なくありません。大学入試センターは事前に印刷方法の詳細なガイドを公開していますが、デジタルリテラシーの差が受験準備に影響を与える可能性があります。
自己責任の増加と不安
従来のシステムでは、高校が出願をサポートしていたため、生徒は教員の指導のもとで手続きを進めることができました。しかし、Web出願では受験生が単独で手続きを行うため、出願期限を忘れたり、入力ミスに気づかなかったりするリスクが高まります。
特に、インターネット環境や端末を持たない家庭の生徒にとっては、学校や公共施設での出願が必要となり、アクセスの不平等が生じる可能性があります。大学入試センターは代替措置を用意していますが、すべての受験生が平等に利用できるかは課題として残ります。
デジタルデバイドへの懸念
日本国内では都市部と地方で情報通信環境に格差があり、すべての高校生が高速インターネットやパソコンを利用できるわけではありません。また、経済的理由でスマートフォンを持たない生徒や、家庭にプリンターがない生徒も存在します。
こうした「デジタルデバイド」が大学入試の公平性を損なわないよう、学校や自治体による支援体制の整備が求められています。
新学習指導要領と試験内容の変化
「情報Ⅰ」の新設
2025年度の共通テストから、新学習指導要領に対応して「情報Ⅰ」が新設されました。これにより、試験科目は従来の6教科30科目から7教科21科目に再編されています。
「情報Ⅰ」は100点満点、試験時間60分で、プログラミングやデータサイエンスの基礎知識が問われます。国公立大学では原則として「情報Ⅰ」の受験が必須となり、受験生は従来の5教科7科目に加えて6教科8科目の対策が必要になりました。
国語と数学の試験時間延長
国語の試験は問題数が4問から5問に増え、試験時間が80分から90分に延長されました。新たに「現代文」のセクションが追加され、より深い読解力と思考力が求められるようになっています。
数学も「数学Ⅱ・B・C」として統合され、試験時間が延長されました。これらの変更は、新学習指導要領が掲げる「思考力・判断力・表現力」の育成を反映したものです。
地理歴史・公民の再編
地理歴史・公民では「地理総合」「歴史総合」「公共」といった新科目が導入され、科目選択の組み合わせに制限が設けられました。この再編により、より体系的な知識と多角的な視点が評価されるようになっています。
今後の展望と対策
大学側のシステム対応
共通テストの結果は、全国813の国公私立大学が入試に利用しています。Web出願の導入に伴い、各大学も独自の入学試験でオンライン出願を拡大する動きが加速しています。
大学側は、共通テストとの連携を強化し、受験生が複数の大学にスムーズに出願できるプラットフォームの構築を進めています。将来的には、一つのアカウントで複数の大学に出願できる統合システムの実現も期待されています。
デジタルリテラシー教育の重要性
Web出願の普及により、高校教育においてデジタルリテラシーの育成がより重要になっています。単にインターネットを使えるだけでなく、個人情報の管理、セキュリティ対策、トラブル時の対処法など、総合的なICTスキルが求められます。
文部科学省は「GIGAスクール構想」のもと、一人一台端末の配備を進めていますが、単なる機器の配布にとどまらず、実践的なデジタル活用能力を育む教育プログラムの充実が必要です。
公平性の確保と支援体制
デジタル化の恩恵をすべての受験生が平等に受けられるよう、自治体や学校は以下のような支援を検討すべきです。
- 学校内にWeb出願専用のパソコンとプリンターを設置
- 出願手続きのサポート窓口を開設
- インターネット環境がない家庭への端末貸与
- 操作マニュアルの多言語化(外国籍の受験生向け)
また、大学入試センターも、システムの使いやすさを継続的に改善し、誰もが迷わず出願できるインターフェースの開発を進める必要があります。
まとめ
2026年度の大学入学共通テストにおけるWeb出願の導入は、日本の教育現場におけるデジタル化の大きな一歩です。高校教員の負担軽減、受験生の利便性向上、手続きの効率化といった多くのメリットがある一方で、受験票の印刷トラブル、デジタルデバイドの拡大、自己責任の増加といった新たな課題も浮き彫りになりました。
49万6千人の受験生が挑む共通テストは、単なる学力試験にとどまらず、社会全体のデジタル変革を映す鏡でもあります。今後は、技術的な改善とともに、すべての受験生が公平に試験を受けられる支援体制の構築が求められます。
教育のデジタル化は不可逆的な流れです。Web出願の成功事例と課題を検証し、次世代の受験生がより良い環境で学力を発揮できる仕組みを整えることが、私たち社会全体の責任と言えるでしょう。
参考資料:
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