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by nicoxz

消費税減税で与野党が競合、年5兆円の財源確保が焦点に

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はじめに

2026年2月8日投開票が見込まれる衆議院選挙を前に、与野党が物価高対策として消費税減税を競い合う構図が鮮明になっています。高市早苗首相は1月19日の衆院解散表明の記者会見で、食品を2年間消費税の対象としない政策について「実現に向けた検討を加速する」と明言しました。

一方、野党側も立憲民主党と公明党が新党「中道改革連合」を結成し、食料品の消費税率ゼロを基本政策に掲げています。しかし、食品の消費税をゼロにすれば年間約5兆円の税収減となり、財源確保が最大の課題となっています。

本記事では、各党の消費税減税政策の内容と財源論、そして円安・金利上昇リスクについて詳しく解説します。

与党・自民党と維新の連立が進める消費税減税

高市首相の「悲願」と連立合意

高市早苗首相にとって、食品の消費税減税は「私自身の悲願」と表現するほど重要な政策です。2025年10月の自民党総裁選では封印していた持論でしたが、日本維新の会との連立政権合意により実現への道が開かれました。

自民党と維新が2025年10月20日に署名した連立政権合意書には、「飲食料品について2年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化につき検討する」と明記されています。維新の藤田文武共同代表は「物価高で家計が非常にいたんでいる」と説明し、衆院選公約として強く訴えていく方針を示しています。

食品税率ゼロの家計への影響

第一生命経済研究所の試算によると、標準的な4人家族(有業世帯主、専業主婦、子供2人)の場合、食料品の消費税率を免税にすることで年間約6.4万円の負担減となります。可処分所得に占める消費税負担の割合は4.7%から3.7%に低下する計算です。

ただし、この政策には「逆進性の解消」という観点からの限界も指摘されています。消費額の大きい富裕層ほど絶対的な減税額が大きくなるため、低所得者対策としては不十分な面があります。

野党各党の消費税減税公約

立憲民主党・公明党の「中道改革連合」

立憲民主党と公明党は2026年1月16日に新党「中道改革連合」を結成し、食料品の消費税率ゼロを基本政策に盛り込む方向で調整を進めています。特徴的なのは「赤字国債に頼らない財源確保」を前提としている点です。

立憲民主党の野田佳彦代表は、財源として以下を挙げています。

  • 政府の基金の取り崩し
  • 外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金
  • 租税特別措置の見直し
  • 税収の上振れ分

野田代表は民主党政権下で首相を務めていた2012年に消費税率10%への引き上げを決めた経緯があり、財政健全性を重視する姿勢から本来は消費税減税には慎重でした。今回の方針転換は、他の野党がすべて消費税率引き下げを掲げる中での「苦渋の選択」とも評されています。

国民民主党・共産党・れいわ新選組

国民民主党は赤字国債の発行を通じて消費税率を5%引き下げる恒久措置を主張しています。共産党も消費税率引き下げに賛成の立場で、れいわ新選組に至っては消費税の完全廃止を掲げています。

このように野党間でも財源確保のアプローチは大きく異なり、赤字国債発行の是非が論点の一つとなっています。

年5兆円の財源確保という難題

税収減の規模と社会保障への影響

食料品の消費税をゼロにした場合、年間約5兆円の税収減が見込まれます。2024年度予算で消費税収は23.8兆円が計上されており、そのうち約81%にあたる19.2兆円が年金、介護、医療、子ども・子育て支援に充てられています。

5兆円規模の税収減を補う財源確保は容易ではありません。高市政権は補助金や租税特別措置の見直しなどを例示していますが、具体的な道筋は不透明なままです。政府は基金や外為特会の余剰金なども財源として検討していますが、これらは一時的な財源であり、恒久的な制度を支える財源としては不十分との指摘があります。

「責任ある積極財政」の矛盾

高市首相は「責任ある積極財政」を掲げていますが、連立を組む維新も巨額予算を伴う政策を主張しており、財政支出の拡大は避けられない状況です。2026年度与党税制改正大綱には高市首相の意向が強く反映されましたが、所得税の「年収の壁」178万円への引き上げでも、税収減への対応は不透明なまま合意文書に財源は盛り込まれませんでした。

円安・金利上昇リスクと経済への影響

財政拡大がもたらす金融市場の反応

消費税減税の財源を赤字国債発行に頼る場合、円安や金利上昇を招くリスクがあります。2025年7月時点で日本の10年国債金利は1.60%近くまで上昇しており、選挙結果次第では過去十数年で未体験の水準に達する可能性も指摘されています。

公明党は「消費税をなくしたら、その分の税収の穴埋めはどうするのか。金融市場では赤字国債を発行するだろうということで国債金利が跳ね上がり、円が売られている。円安が進めば物価は上がっていく」と警告しています。

「トラス・ショック」の教訓

2022年9月、英国のリズ・トラス首相が大型減税など拡張的な財政運営を掲げて就任し、長期金利上昇と通貨下落を引き起こして、わずか1か月半で辞任に追い込まれた「トラス・ショック」は記憶に新しいところです。日本でも財政規律を無視した減税策は「日本版トラス・ショック」を引き起こしかねないと警戒されています。

日本政府の普通国債残高は1,000兆円を超えており、継続的な金利上昇局面になると利払費が極端に増加する体質です。食料品価格引き下げのための消費税減税が、国債格下げを通じて円安を引き起こし、かえって食料品価格を押し上げてしまっては本末転倒です。

減税の経済効果への疑問

経済産業研究所(RIETI)の分析では、「減税で消費を喚起しても、生産量の拡大が伴わない限り物価上昇が加速してしまう」と指摘されています。財政政策としては人手不足を補う労働生産性の向上など、供給サイドの改革を優先すべきとの見方もあります。

注意点・展望

選挙公約と実現可能性のギャップ

与野党ともに消費税減税を選挙公約に掲げていますが、実現に向けては多くのハードルがあります。財源確保の具体策が示されないまま減税を実施すれば、財政への信認低下から円安・金利上昇を招き、物価高対策が逆効果になりかねません。

海外との比較から見る選択肢

世界の食料品税率を見ると、イギリス、カナダ、オーストラリア、韓国、台湾ではゼロまたは非課税となっています。一方、イタリアやフランスは標準税率が20%台でありながら、食料品は4~5%程度に抑えられています。日本の選択肢として、完全なゼロ税率ではなく、さらなる軽減税率の引き下げという中間的なアプローチも考えられます。

今後の政治日程

1月23日召集予定の通常国会冒頭で衆議院が解散され、1月27日公示、2月8日投開票という日程が想定されています。選挙結果次第で消費税減税の実現可能性は大きく変わりますが、いずれの政権であっても財源確保という根本的な課題からは逃れられません。

まとめ

2026年衆院選を前に、与野党が消費税減税で競い合う構図が鮮明になっています。高市首相率いる自民・維新連立政権も、立憲・公明の「中道改革連合」も、食品の消費税率ゼロを掲げていますが、年5兆円に及ぶ財源確保の具体策は依然として不透明です。

有権者としては、各党の減税公約だけでなく、財源確保策や経済への影響についても注視する必要があります。物価高対策として魅力的に映る消費税減税ですが、財政規律を無視した政策は円安・金利上昇を通じてかえって家計を圧迫する可能性があることを忘れてはなりません。

参考資料:

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