高市首相が衆院解散表明、食品消費税2年間ゼロを公約に
はじめに
高市早苗首相は1月19日、首相官邸での記者会見で通常国会の召集日となる23日に衆議院を解散する意向を正式に表明しました。総選挙の日程は1月27日公示、2月8日投開票となり、解散から投開票までわずか16日という戦後最短の短期決戦となります。
注目すべきは、首相が食料品を2年間消費税の対象としない方針を示したことです。これは2025年10月の日本維新の会との連立合意に明記された内容を選挙公約として打ち出すものですが、年間約5兆円の財源確保という課題に対し、具体的な説明は示されていません。
高市首相は「改革をやりきるには政治の安定が必要だ」と強調し、勝敗ラインを「与党で過半数」と設定。「高市早苗が首相で良いのか、国民に決めていただく」と述べ、進退をかけた選挙戦に臨む姿勢を示しました。
衆院解散の背景と政治情勢
自民・維新連立政権の成立経緯
2024年10月の衆院選で自民・公明両党が過半数を割り込み、政局は大きく動きました。公明党が連立離脱を表明する中、自民党の高市早苗総裁は日本維新の会との連携に活路を見出し、2025年10月20日に両党は連立政権樹立で合意しました。
翌21日の臨時国会における首相指名選挙で、高市氏は第104代内閣総理大臣に選出されました。日本初の女性首相誕生という歴史的な瞬間でした。ただし、維新は閣僚を出さない「閣外協力」の形態をとり、政権運営の難しさを予感させる船出となりました。
「ねじれ国会」の課題
自民・維新の与党は、衆院では少数会派との合流を通じてちょうど過半数を確保しましたが、参院では過半数に6議席足りない状態です。いわゆる「ねじれ国会」の中での政権運営を余儀なくされ、首相就任以来、高市氏は連立の枠組みが国民の信任を得ていないことを「ずっと気にかけてきた」と明かしています。
この状況を打開し、政権基盤を固めるための解散総選挙という判断に至ったのです。
高い内閣支持率が後押し
解散を後押ししたのは、高い内閣支持率です。報道各社の世論調査によると、高市内閣の支持率は6割から7割と高水準を維持しています。特に20代から40代の若い世代からの支持が厚いことが特徴です。
この高支持率を追い風に、自民党は前回2024年衆院選での与党過半数割れから盛り返し、比例・小選挙区ともに議席を増やす可能性が高いと見られています。政権として実績を積んだ後の解散であれば、単独過半数の可能性もあるとの分析もあります。
食料品消費税ゼロ政策の内容
連立合意から選挙公約へ
食料品の消費税を2年間ゼロにする政策は、もともと2025年10月の自民・維新連立政権合意に盛り込まれたものです。合意文書には「飲食料品について2年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化を検討する」と明記されています。
自民党の鈴木俊一幹事長は1月18日のNHK番組で、この時限的な食料品消費税ゼロを選挙公約に盛り込むかとの問いに対し、連立合意を「誠実に実現していくことが基本的な立場だ」と前向きな姿勢を示しました。
首相は記者会見で、この政策を自民党の公約として掲げる考えを明らかにしました。物価高対策としての効果を見込んでの判断です。
政策の具体的な影響
食料品の消費税をゼロにした場合、家計への影響はどの程度でしょうか。第一生命経済研究所の試算によると、平均的な四人家族で年間約6.4万円の負担軽減となります。物価高に苦しむ家計にとっては、確かな支援策となる可能性があります。
また、経済全体への影響としては、消費税の軽減税率をゼロにする場合、1年間程度で実質GDPを約0.43%押し上げる効果があると試算されています。ただし、時限的な減税の場合、この効果は半減する可能性も指摘されています。
年5兆円の財源問題
詳細示されぬ財源確保策
食料品の消費税をゼロにする場合、年間約5兆円の税収減が発生します。高市首相は会見で財源の詳細を示しませんでした。この点は、今後の選挙戦で野党から厳しく追及されることが予想されます。
自民党内の財務大臣経験者からは「世論受けしか考えていないバラマキ政策だ」との苦言も出ています。恒久的な代替財源を示さないまま減税を打ち出すことへの懸念は、与党内部からも上がっているのが実情です。
財政規律への影響
消費税減税を赤字国債で賄う場合、さまざまな問題が生じます。現役世代と将来世代との不公平感の拡大、将来の需要を前借りすることによる経済の潜在力低下、将来的な財政危機リスクの上昇などが挙げられます。
特に社会保障費の財源として位置付けられている消費税収の減少は、社会保障制度の安定を損なうリスクがあります。高齢化が進む日本において、この点は看過できない問題です。
市場の警戒感
金融市場では、与野党で消費税減税を公約に盛り込む動きに警戒感が高まっています。財源の裏付けがない減税は、国債発行の増加につながり、金利上昇を招く可能性があるためです。
また、時限的に下げた消費税率を予定通り元に戻せるのかという懸念もあります。一度下げた税率を引き上げることは政治的に極めて困難であり、実質的な恒久減税になりかねないとの見方もあります。
野党と維新の動向
維新の選挙目標と政策
連立与党の一角を担う日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)は、次期衆院選について「与党過半数が目標だ。そして前回より議席を増やす」と強調しています。藤田文武共同代表は38議席以上(前回獲得議席数)を目標に掲げています。
吉村代表は、衆院選で衆院定数削減や社会保障改革、副首都構想とともに、2年間の食料品消費税ゼロの実現を訴えると明言しました。維新にとっても、連立合意の目玉政策を実現できるかどうかが問われる選挙となります。
ただし、内閣支持率が高い中では与党の中で維新が「埋没」する懸念もあり、「上がる要素がない」との分析も出ています。
野党各党の消費税政策
野党各党も消費税減税を掲げています。立憲民主党は消費税減税の期間を原則1年間とし、年5兆円の財源確保策として、政府の基金取り崩し、外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金、租税特別措置の見直し、税収の上振れ分などを挙げています。
国民民主党は消費税率を一律5%に引き下げることを主張していますが、この場合は年間約15兆円もの税収減となり、財源確保はさらに困難です。各党とも、税収減分を代替する安定的な財源を示せていないのが現状です。
注意点・今後の展望
短期決戦の注目点
解散から投開票までわずか16日という戦後最短の短期決戦では、政策論争が十分に行われないまま投票日を迎える可能性があります。特に年5兆円の財源問題について、有権者がどこまで理解した上で判断を下せるかが課題となります。
また、暫定予算での対応が続く中、高校無償化や「年収の壁」引き上げといった政策の実現時期にも影響が出る可能性があります。選挙後の政権がどのようなスケジュールで政策を実行していくのかも注目点です。
選挙結果のシナリオ
自民党が単独過半数を獲得した場合、維新との連立関係にも変化が生じる可能性があります。一方、与党過半数に届かなければ、高市首相は進退をかけると明言している以上、政局は再び流動化するでしょう。
維新の獲得議席数も注目されます。連立入り後初の国政選挙で議席を伸ばせるかどうかが、今後の連立関係を左右することになりそうです。
まとめ
高市早苗首相が表明した衆院解散と食料品消費税ゼロ政策は、物価高に苦しむ国民への支援策として一定の効果が期待される一方、年5兆円の財源確保という大きな課題を抱えています。財源の詳細を示さない姿勢に対しては、与党内部からも懸念の声が上がっています。
1月27日公示、2月8日投開票の衆院選は、自民・維新連立政権の信任を問う選挙であると同時に、消費税減税の是非を国民が判断する機会となります。財政規律と家計支援のバランスをどう取るべきか、有権者一人一人が考えるべき重要な争点です。
参考資料:
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