三菱重工、一転最高益へ 受注高6.7兆円の原動力とは
はじめに
三菱重工業は2026年2月4日、2026年3月期の連結純利益予想を従来の2300億円から2600億円へ上方修正すると発表しました。当初は前期比6%減を見込んでいましたが、一転して6%増益となり、3期連続で過去最高益を更新する見通しです。
受注高見通しも6000億円引き上げて6兆7000億円とし、事前の市場予想(2550億円)を上回る結果となりました。好調の原動力となっているのは、AI需要を背景としたガスタービン事業と、安全保障環境の変化を受けた防衛事業です。
本記事では、三菱重工の業績好調の背景と、今後の成長戦略について詳しく解説します。
第3四半期決算は大幅増収増益
売上・利益ともに好調
2026年3月期第3四半期(4〜12月)の連結決算は、売上収益が3兆3269億円(前年同期比9.2%増)、事業利益が3012億円(同25.5%増)と大幅な増収増益を達成しました。純利益は前年同期比22.6%増の2109億円に伸びています。
通期の業績予想は、売上収益が前期比10.1%増の4兆8000億円、事業利益が15.5%増の4100億円へ上方修正されました。製鉄機械などの業績が想定を上回ったことが主な要因です。
セグメント別の好調要因
三菱重工業の主な事業セグメントは「エナジー」「プラント・インフラ」「物流・冷熱・ドライブシステム」「航空・防衛・宇宙」の4つです。特に航空・防衛・宇宙セグメントの業績が好調で、全体の業績を牽引しています。
エナジーセグメントではGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)の大幅な受注伸長を反映し、受注高を1兆円増の3兆2000億円、売上高を1500億円増の2兆円に上方修正しています。
ガスタービン事業がAI需要を取り込む
データセンター向け電力需要の急増
好調の最大の原動力となっているのがガスタービン事業です。生成AIの普及によりデータセンター向け電力消費が急増しており、2050年までに世界の電力需要が75%増加するという試算もあります。
データセンターの新増設に対応するため、最も手軽に導入できる発電設備がガス火力です。三菱重工でガスタービンを手掛けるGTCC事業の受注高は2023年度に1兆2593億円と過去最高を更新し、2024年度上半期の受注高も7813億円と前年度を上回るペースで推移しています。
生産能力を2倍に増強
三菱重工業は、特にデータセンター市場からの需要急増に対応するため、今後2年間でガスタービンの生産能力を2倍にする計画を発表しました。伊藤栄作CEOは「当初は生産能力を30%増やす計画でしたが、それでは需要に追いつきません」と述べています。
北米市場では液化天然ガス(LNG)利活用の動きを受けて受注と収益がともに好調で、業績を牽引しています。大型ガスタービン市場は三菱重工、米GEベルノバ、独シーメンス・エナジーの3強による寡占市場であり、2023年時点で三菱重工が36%、GEベルノバが27%、シーメンス・エナジーが25%のシェアを占めています。
防衛事業も成長ドライバーに
防衛予算拡大の恩恵
ロシア・ウクライナ問題を契機とした世界的な防衛力強化の動きに加え、日本も尖閣諸島や台湾に対する中国の動向、北朝鮮のミサイル発射など複雑な安全保障環境に直面しています。
政府は防衛費を2023〜2027年度の5年間で総額43兆円規模に増額する方針を明確にしており、前中期(27兆円)と比べて約1.6倍の水準となります。三菱重工は防衛予算拡大の恩恵を最も受ける企業の一つです。
次期戦闘機(GCAP)の開発
三菱重工は日本の次期戦闘機開発の主契約者として、2020年に防衛省と正式契約を締結しました。2022年12月には日本、イギリス、イタリアの3カ国による共同開発(GCAP:グローバル戦闘航空プログラム)が発表され、2030年頃に生産開始、2035年に初号機配備を予定しています。
機体は三菱重工、英BAEシステムズ、伊レオナルドが担当し、エンジンはIHI、ミッションシステムは三菱電機、レーダーを含む電子機器は東芝、富士通、NECが参画します。
三菱重工と日本航空宇宙工業会(SJAC)が出資する新会社「日本航空機産業振興」(JAIEC)も事業を開始しており、防衛事業は今後も長期的な業績貢献が期待されています。
時価総額10兆円を突破した成長企業
株式市場での評価
三菱重工業の株価は2025年5月に上場来高値を付け、時価総額が10兆円を超えました。アナリスト判断(コンセンサス)は「強気買い」で、内訳は強気買い11人、買い2人、中立3人となっています(2026年2月4日時点)。
アナリストの平均目標株価は4912円で、株価はあと3.15%上昇すると予想されています。防衛関連株の上昇はまだ十分に見込める段階とされ、特に長期的な目線であれば投資妙味は高いと評価されています。
成長の多角化
三菱重工の強みは、防衛予算拡大の恩恵に加え、「原子力」や「GTCC」など脱炭素と電力需要増加に対応できる成長ドライバーを複数持っていることです。一つの事業に依存せず、複数の成長軸を持つことで、景気変動に対する耐性も高まっています。
今後の注目ポイントと課題
為替変動リスク
2025年度の想定為替レートは1ドル150円、1ユーロ180円としています。円安は海外売上の円換算額を押し上げる一方、輸入部材のコスト増にもつながるため、為替動向は引き続き注視が必要です。
関税政策の影響
通期予想にはトランプ関税の影響は織り込まれていません。米国の関税政策次第では、北米向けガスタービン事業の収益性に影響が出る可能性があります。
人材確保
次期戦闘機と次期練習機の開発が重複する時期については、伊藤社長が「どんどん人も増やしており、社内のエキスパートを集中的に投入できる」と述べていますが、泉澤社長(前社長)は「リソース的にはタイト」との見解も示しており、高度人材の確保が継続的な課題となります。
まとめ
三菱重工業は、AIブームを背景としたデータセンター向け電力需要の急増と、安全保障環境の変化による防衛予算拡大という2つの追い風を受けて、過去最高益を更新する見通しです。受注高6兆7000億円への上方修正は、これらの事業が持続的に成長していることを示しています。
ガスタービンの生産能力倍増計画や、日英伊共同の次期戦闘機開発など、中長期的な成長に向けた布石も着々と打たれています。為替変動や関税政策など外部環境のリスクはあるものの、三菱重工は複数の成長ドライバーを持つ強靭な事業ポートフォリオを構築しており、今後も注目すべき企業といえるでしょう。
参考資料:
関連記事
アームが初の自社製チップ発表、AI半導体市場に本格参入
ソフトバンクグループ傘下の英アームが35年の歴史で初めて自社製チップ「AGI CPU」を発表。メタやOpenAIを顧客に迎え、5年で年間150億ドルの売上を目指す戦略転換の全容を解説します。
フジクラ株価5年で50倍、V字回復を導いた経営改革の全貌
経営危機から時価総額6兆円超へ。フジクラのV字回復を実現した岡田直樹社長の構造改革と、AI・データセンター需要が牽引する成長戦略を解説します。
孫正義氏が80兆円AI投資を表明 オハイオに史上最大拠点
ソフトバンクグループの孫正義会長がオハイオ州で5000億ドル規模のAIデータセンター構想を発表。日米21社が参画する史上最大の単一拠点投資の全貌と、日米関係における孫氏の役割を解説します。
ソフトバンクG、米国にAI向け巨大ガス発電所建設へ
ソフトバンクグループ傘下のSBエナジーが米オハイオ州に10GW規模のガス発電所を建設。日米投資合意の第1号案件として333億ドルを投じるAIインフラ計画の全容を解説します。
NVIDIAが米軍事テックに接近、AI半導体と地政学リスク
NVIDIAと防衛テクノロジー企業の連携が加速しています。イラン攻撃でAIの軍事利用が注目される中、AI半導体が抱える地政学リスクと中国への輸出規制問題を解説します。
最新ニュース
アクティビストの標的が変化、還元から再編へ
割安株の減少でPBR1倍超え企業も標的に。アクティビストの投資戦略が株主還元から事業再編へとシフトする背景と今後の展望を解説します。
アームが初の自社製チップ発表、AI半導体市場に本格参入
ソフトバンクグループ傘下の英アームが35年の歴史で初めて自社製チップ「AGI CPU」を発表。メタやOpenAIを顧客に迎え、5年で年間150億ドルの売上を目指す戦略転換の全容を解説します。
Armが半導体自前開発に参入、AI向けCPUで事業転換
ソフトバンク傘下の英Armが35年間のIPライセンスモデルを転換し、自社開発チップ「AGI CPU」でメタやオープンAIにAI半導体を直接供給する戦略の背景と影響を解説します。
イビデン大幅続伸の背景と半導体銘柄上昇の全貌
2026年3月25日、イビデンが特別利益491億円の計上発表で大幅続伸。半導体関連銘柄が軒並み上昇した背景には、米イラン停戦期待による原油下落と投資家心理の改善がありました。
イラン強硬派「3人組」の実権と米15項目和平案の行方
ハメネイ師亡き後のイランで実権を握る革命防衛隊出身の強硬派3人組と、トランプ政権が提示した15項目の和平案の内容・交渉の行方を詳しく解説します。