ダボス会議で企業トップがトランプ政策に苦言を呈す
はじめに
2026年1月19日からスイス・ダボスで開催されている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、大手企業のトップたちがトランプ米大統領の経済政策に対して相次いで懸念を表明しています。特に注目を集めているのは、クレジットカード金利の上限規制案と、グリーンランド取得を巡る欧州諸国への追加関税です。
今回の第56回年次総会は「対話の力」をテーマに掲げ、過去最多となる約400名の政治指導者、G7首脳6名を含む約65名の国家元首・政府首脳、世界トップ企業のCEO・会長約850名が参加する史上最もハイレベルな会合となりました。本記事では、企業トップたちの反応と、トランプ政権の経済政策が与える影響について解説します。
JPモルガンCEOがクレジットカード金利上限に「経済的大惨事」と警告
金利上限10%規制案の衝撃
トランプ大統領は2026年1月10日、自身のSNSでクレジットカード金利の上限を年10%に設定するよう提案しました。現在、米国のクレジットカード金利は平均で20%を超えており、この規制が実施されれば金融業界に大きな影響を与えることになります。
JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、この提案に対して「経済的な大惨事になる」と強い言葉で批判しました。同社のジェレミー・バーナムCFO(最高財務責任者)も「消費者と実体経済にとってひどい悪手だ」と指摘し、金利上限が導入された場合、JPモルガンとしては「相当な与信の縮小に動かざるを得ない」と警告しています。
消費者への影響と信用収縮リスク
ダイモン氏は1月13日のアナリストとの電話会議で「こうした事態による追加的リスクに沿って(与信)モデルの修正が必要になる。これは劇的(な変化)だろう」と強調しました。
具体的には、金利上限が設けられた場合、クレジットカード会社は信用リスクの高い顧客への与信を大幅に縮小せざるを得なくなります。これは一見消費者保護のように見えますが、実際には以下のような影響が懸念されています。
- 与信枠の縮小: 信用スコアの低い消費者がクレジットカードを作れなくなる
- 手数料の増加: 金利収入の減少を補うため、年会費や各種手数料が引き上げられる可能性
- 経済活動への影響: 消費者の購買力が制限され、小売業界全体に影響
バーナム氏は「もしも根拠が乏しいまま、当社の事業を抜本的に変えるような命令が出された場合は、全てを検討対象にせざるを得ない」と述べ、法的措置も辞さない姿勢を示しています。
Amazon CEOが関税の価格転嫁を示唆
関税コストが小売価格に「忍び寄る」
Amazon CEOのアンディ・ジャシー氏も、ダボス会議でCNBCのインタビューに応じ、トランプ大統領の関税政策について懸念を表明しました。ジャシー氏は「関税が一部商品の価格に忍び寄り始めている」と述べ、関税コストが消費者価格に反映され始めていることを認めました。
Amazonと多くのサードパーティ販売業者は、関税の影響を軽減するために在庫を事前に大量購入していましたが、その在庫の大部分は2025年秋に底をついたとジャシー氏は説明しています。
小売業界の苦しい選択
「一部の販売業者は、より高いコストを消費者に転嫁する形で価格を上げることを決めており、一部は需要を喚起するために吸収することを決めており、その中間を選ぶ業者もいます」とジャシー氏は述べました。
注目すべきは、ジャシー氏の発言が2025年7月時点から大きく変化していることです。当時、ジャシー氏は関税の小売価格への影響は「誤って報道されている」と述べ、影響を判断するのは時期尚早だとしていました。しかし、2025年8月にトランプ大統領が数十カ国に「相互関税」を導入して以降、状況は一変しました。
ジャシー氏は「小売業は中単位(5%前後)の営業利益率のビジネスです。コストが10%上がれば、それを吸収できる場所はあまりありません」と率直に語り、価格上昇が避けられない状況を示唆しています。
世界のリーダーたちの反応
欧州首脳からの批判
トランプ大統領がグリーンランド取得を目指し、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、フィンランドの8カ国に対して2月1日から10%、6月1日からは25%の追加関税を課すと表明したことに対し、欧州各国は強く反発しています。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領はダボス会議での演説で「関税の際限ない積み重ねは、領土主権に対するてこ入れとして使われる場合は特に、根本的に受け入れられない」と述べました。
カナダのマーク・カーニー首相も「我々は移行期ではなく、断絶の真っただ中にいる。大国は経済統合を武器として、関税をてこに、金融インフラを強制手段として、サプライチェーンを悪用すべき脆弱性として使い始めている」と警告しました。
ECBとオーストリア中銀の見解
欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁は「関税引き上げでドイツ経済はフランス経済よりも大きな影響を受ける」と指摘し、輸出依存度の高いドイツ経済への懸念を示しました。
オーストリア国立銀行のコッハー総裁は「脅威となる関税は米国のインフレを加速させるだろう」と述べ、関税政策が米国経済にとっても逆効果になる可能性を警告しています。
注意点・今後の展望
NATOとの「枠組み合意」で一時休戦
トランプ大統領は1月21日、NATOのマルク・ルッテ事務総長との会談後、「グリーンランドと北極圏全体に関する将来の合意の枠組みを構築した」と発表し、欧州8カ国への追加関税を見送ると表明しました。これにより、市場の警戒感は一時的に和らいでいます。
しかし、この「枠組み合意」の詳細は明らかにされておらず、グリーンランド問題が根本的に解決されたわけではありません。今後の交渉の行方次第では、再び関税の脅威が浮上する可能性があります。
クレジットカード金利規制の行方
クレジットカード金利の上限規制についても、実施に向けた具体的なスケジュールや法的根拠は明確になっていません。バーナムCFOが指摘したように、この提案は「ほとんど事前情報がない中で、SNSへの投稿という異例の形で浮上した」ものであり、金融業界は対応に苦慮しています。
実際に規制が導入される場合、議会での立法プロセスが必要になる可能性が高く、金融業界のロビー活動も活発化すると予想されます。
まとめ
2026年ダボス会議では、トランプ大統領の経済政策に対する企業トップたちの懸念が鮮明になりました。JPモルガンのダイモンCEOはクレジットカード金利上限を「経済的大惨事」と批判し、AmazonのジャシーCEOは関税コストの価格転嫁が避けられない状況を示唆しました。
トランプ大統領は「アメリカの経済が良くなれば、世界の経済が良くなる」と主張していますが、グローバル企業のトップたちからは、政策の予測不可能性や急激な変化への懸念の声が上がっています。今後、政権と経済界の対話がどのように進展するか、引き続き注目が必要です。
参考資料:
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